第32話「【タイマー】は、襲われる」
古物商の見送りを受けながらルビンは屋台街に戻る。
そのまま、適当な宿を見繕おうとしていたのだが、さっきからチラチラと姿を見せる連中が気になっていた。
やっぱり大金を入手するとこうなるか……。
「……バレてないつもりなのかね?」
元Sランクパーティのルビン。
そして、いまやドラゴンの力を宿したルビンには、物陰を伝いつつ胡乱な視線を投げかけてくる連中のことはとっくに気付いていた。
とくに古物商を出たあたりから人数を増やしている。
とはいえ、せいぜい5人程度。
どうやら強盗に目をつけられたらしい。
面倒は御免だと思いつつも、宿までつけてこられても面倒だ。
レアボックスから移した素材を宿から回収した背嚢に詰め込むと、ルビンはわざと人目の少ない所に行く。
衛兵に突き出そうにも、今はまだ何の証拠もない。
ならば現行犯逮捕と行きますか。
現行犯なら、私人逮捕も認められているしね。
そうして、ルビンが間抜けのふりをしてワザと無人の区画に入り込むと───案の定出てきやがった。
ぞろぞろと姿を現すガラの悪そうな男達。
路地の前後を塞ぐように───1、2……5人。
(……これくらいなら簡単かな?)
ルビンは五感を研ぎ澄ませ、伏兵の存在を探るもその気配はない。
ならば5人くらいなら楽勝とばかりに、
「何か用? 俺は忙し───」
「へっへー!! 隙ありぃぃい!!」
ガラの悪そうな男たちに注意を払った瞬間、ルビンの懐から財布がすり取られる。
(な……!? う、うそだろ?!)
ま、全く気付かなかった。
ドラゴンの力を得て、全ての能力が向上しているルビンで、これだ!
「ま、まてッ!!」
サササーとルビンの間を駆け抜ける小さな影。
それは、ボロボロの格好をした子供だった。
「待てと言われて待たないよ~だ!」
「おう、ガキぃ~よくやった! じゃぁ、あとは俺らのお仕事だ!」
ニィと笑ったガラの悪い男達。
わざとらしく、ボキボキと指をならし距離を詰めてきやがる。
どうやら、5人と1人でグルだったらしい。
そして、ルビンから財布をすり取った子供はと言えば、その財布を手にしてブンブン振り回し、
「やーい、ノロマ! 悔しかった取り返してみなー」
お尻ぺんぺーん
「ばーか。こっこまで、おーい───」
殺すぞ、クソガキ。
「……タイム」
ピタ。
お……! 効いた!!
「タイム」って、射程距離も結構あるな。
「あん? どうした、ガキ?」
「兄貴ぃ! ガキよりもまずこいつをボコっちまいましょうよ───ほら、ボコらないと。もう前金もらってますし……」
カチーン……と硬直した子供に、強盗どもの親分格が首を傾げている。
しかし、舎弟どもにうながされると、
「あ、あぁ……そうだな。───へへ。兄ちゃん悪く思うなよ、こっちも仕事なんでな」
頭の悪そうな連中だ、
スリの子供がカチーンと凍り付いたように動きを止めたこと等、もはやまったく意に介せず、目の前の暴力に飢える男達。
徒党を組んで財布を盗むのがやり口らしいが───そこでやめておけばいいものを、どうやら被害者をブチのめすまでがワンセットらしい。
というか……今「仕事」って言ったかこいつら?
「運が悪かったと諦めな! やれ、お前ら! うぉぉお!」
「ぎゃははは! 運が悪───」
「ボッコボコにし──────」
月並みな連中だ。
セリフまで月並み。
はい、
「タイム」ぴた───。
どうやら、お気に入りらしいセリフを吐きながら強盗どもがルビンを包囲し、一斉に殴りかかってきたのだが、それを大人しく喰らうルビンではない。
もちろん、これを返り討ちにするのは簡単なのだが、せっかくなので───。
はーい、
「───タイム、タイム」
ピタ。ピタ。
「あん? 何やってんだお前ら?! 遊んでんじゃねぇ───」
「兄貴! 俺が手本を──────」
はい、はい。
「タイム」「タイム」
ぴた、ピター……。
ルビンが手を翳し、スリの子供を含めて、強盗達をあっと言う間に硬直させた。
きっと彼らの時の流れはルビンを殴る寸前で止まっている。
「…………ったく、せっかくいい気分で買い物してたってのに。ちょっと腹が立ったぞ」
───おらぁ!!
グワシっっ! と、強盗どもの顔面を掴むと釣り上げ、子供を含めて6人を軽々と担ぎ上げたルビン。
「まったく……。わざわざ街中で狙ってきやがるなんてな。どうもタイミングが良すぎる」
おおかた、古物商から出てきたところを見られていたのだろう。
そうして大金を持った連中を定期的に狙っているのか……。
それとも、あるいはもしかすると、古物商とグルか───。
ま、どっちでもいい。
「ゴミはゴミ箱へ。豚は豚箱へ───ちょっとはお灸を据えてもらうんだな」
そのまま男達を担ぐと、衛兵に突き出してやろうと大通りに出るのだが、
「ん?」
担ぎ上げた子供が妙に柔らかい。
「……あまりいいもの食べてないのかな?──────って、コイツ女か?!」
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