第15話「【タイマー】は、いちゃもんをつけられる」

「お疲れ様でした。……これからどうなさいますか?」

 セリーナはいつものように、書類をトントンと整えながらルビンに問う。


「さぁ、とくに考えはないけど……まぁ、しばらくのんびりやってみようかな、と」

「そうですか。では、職員の件もあわせてご考慮ください……是非とも!」

「そ、それは、まぁ……考えるだけなら。でも、大丈夫なんですか? ここのマスターって、ほら」


 ルビンの素直な疑問は、ギルドマスターのグラウスのこと。

 どうもエリックと裏で繋がっているらしい。

 そんなところにノコノコと職員として雇ってくれるだろうか


「あぁ、そのことなら大丈夫です。ギルドマスターは責任者ではありますが、ギルド全体を見ればただの一職員ですので」


 うわぉ。この人ぶっちゃけるねー。


「そ、そうなんだ……。じゃ、考えとく」


 それだけ言うとルビンはセリーナ嬢に背を向け、ギルドを出ようとした。

 とくに大きな目的があるわけじゃないけど───。まずはゆっくり休もう……。


「おい! ルビン!!」


 そこに、性懲りもなくアルガスが大声で突っかかってきた。


「…………なに? まだ、なんかあんのかよ。もう、報酬はくれてやった・・・・・・だろ? そのかわり今後、いっさい関わるなって───」

「んっだ、その生意気な口の聞き方はよぉぉおお!!」


 大振りのテレフォンパンチ。


 …………あれ??

 アルガスって、こんなに雑魚だっけ。


(すげー遅い……)


 余裕で躱せるそれ。

 ルビンは最小限の動きでパンチを躱して見せち。


「こっの……!!」


 うわ、おっそ。


「避けんじゃねぇぇえ!!」


 ぶん、ぶん、ぶん


 躱す、躱す、躱す


「テメェエエエエ!!」


 ぶんッッ!!


 だが、ことごとくくかわす!


 ムッキーと、激高するアルガスにギルド中が騒然とする。

 ただでさえ目立つ『鉄の拳アイアンフィスト』が、大声で元仲間に殴りかかっているのだ。


「お、おい。見ろよ」

「ありゃ、アルガスとルビンか?」

「なんだ、なんだ? なんか揉めてるとは聞いてたけど……」


 ギルド1の冒険者達が衆目下で殴りあいを始めたのだ、そりゃ目立つ。

 いや。殴りあいというのは語弊があるか……。


「躱してんじゃねぇぞ!! このクソ雑魚がぁぁああ!」

「……無茶苦茶いうなよ。別に当たってやってもいいけどさ、いい加減うんざりだ」


「よせ、アルガス!」


 慌てたエリックがギルドの奥から飛び出してくるが、既に時遅し。

 アルガスは怒り狂ってルビンに襲い掛かっていた。


「ち……しょうがねぇ! 俺もルビンにはお灸を据えたかったとこだ」

 ちょうど良い機会だとばかりにエリックも加勢。


 だが、そこそこ慎重なエリックがチラリと奥のほう───ギルドマスターを確認している。すると、彼は「ゴホンゴホン」と咳払いして、わざとらしく目を逸らした。

 おまけに、さり気なくセリーナ嬢の進路を塞いでいる。


(ほーん。なるほどね……)


 明らかに、この騒動には気付かなかったという態度をとるつもりなのだろう。


(まぁ、それなら俺にも好都合だ)


 ギルド側が止めに入らないことを確認したエリックがニヤリと口を歪める。

 セリーナを除けば他の職員もギルドマスターには逆らえないのか、あからさまに気付かないふりをしたり、にわかに忙しそうに働きだす。


 冒険者のためのギルドとは言っても、所詮はこんなものか……。


「ちょ、何の騒ぎですか?!」

 ギルドマスターの影からセリーナの声が響くがすでに、諍いの幕は切って落とされていた。


 エリックは邪魔者はいないと確認すると、アルガスと連携しルビンを挟み込むように回り込んだ。


「……エリックもか? なぁ、まだ俺に用があるのか? 欲しいものはくれてやった・・・・・・だろ? そして、俺はパーティを抜ける。それでいいじゃないあか?───あとはどうしろってんだよ?」


「どうしろだと?………………はッ! 謝罪がまだだろうがぁぁああ!!」


 謝罪…………?

 誰が、誰に───?


「お前が、俺に、決まってんだろうがぁっぁああ!」


 鞘ごと剣を引き抜いたエリック。

 殺しはしないが、痛い目をみせてやると言わんばかり。

 そして、躊躇なく剣をふりあげると、アルガスの巨体を壁にしてルビンを挟み撃ちにするつもりだ。


「うらぁぁぁあ!!」


 ───ガッツン!!


「どうだッ……!」


 面倒くさくなったルビンは、その一撃を一発だけ食らってやるか───と、顔面のど真ん中に受けた。


 剣から響くあまりの衝撃と、大きな音に周囲で見守るギルド職員や冒険者たちのほうが顔を顰めるほど。


 エリックの一撃は、それほどの威力に見えたのだ。


 だけど、


「ぷっ…………もういいだろ?」


 ルビンはまったく動じた様子もなく、少しだけ鼻の頭を赤くして呆れたように吐き捨てる。


「んな?! なんだ、と……」

 ジーンと痺れる腕に顔を歪めるエリック。


「……でも、まぁ───。黙って殴られるほど、俺も優しくはないぞ?」


 そこに、これは正当防衛。


 怒りと鬱憤とともにルビンの腕の筋肉がミリミリと盛り上がる。



 そして───、




 すぅ、

「一発は一発だぜ……」

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