第12話「【タイマー】は、勧誘される」

 うーん。

 エリック達の処遇について頭を悩ませるルビン。

 本音ベースでいえば、少しは痛い目をみて欲しいところ。

「うーん……」

「───先ほどお聞き取りした情報を精査した上でなければ、ハッキリとしたことはお答えできませんが、その、ルビンさんの話を聞いた限りでは……」


 セリーナ嬢は、ルビンからの聞き取り調書をパラパラとまくりながら、額を押さえて悩まし気な顔だ。


「……これは、そのままの解釈でいえば───殺人未遂です」


 ですよねー。


「しかし、冒険者同士のいざこざは今に始まった話ではないので……。とくにダンジョン内などの法の目が届かないところでは我々が介入できる範囲にも限界があります。現に、何が起こってもおかしくはありません。なので、」


「なので?」


「ルビンさんには、申し訳ありませんが、パーティ内でのトラブルということで治めていただければ……。ギルドとしては、エリックさん達をお咎めなしにすることもできます。むしろ、ギルド側としてはそうしたいところが本音です」


「いえ、さすがにそれは…………」


 チリン……♪


 キウィの鈴が許さないと告げていた。

(もちろん。わかってるさ、キウィ───)


 そっと鈴を撫でるルビン。


「ですよねー……。しかし、そうなると───これは、一度ギルド上層部と話し合う必要がありますね……。正直私一人の手には余ります」


 眉間にしわを寄せ、深く深くため息をつくセリーナ嬢。


「なんかすみません……」

「いえ! もちろんルビンさんが悪いわけじゃないですよ。ですが……」


 再びため息をつく。


「その……。『鉄の拳アイアンフィスト』が内部分裂をしたとなれば、もう一度、彼らがSランクに相当する実力があるかランクの査定をやり直す必要があります。ですが───」


「ですが?」


「はい。こう言ってはなんですが、エリックさん達だけではSランクの査定試験をパスできないでしょう。……もし、そうなった場合、当ギルドはSランクパーティを欠くことになります」


「え? 別に俺が抜けたくらいで、そんなにランクが変わりますか?!」


「先ほども言いましたが、『鉄の拳アイアンフィスト』はアナタあってのSランクなんですよ? 現在の業績を見るに、正直あの4人だけなら───Bランクも怪しい所ですね……」


 いやいや、さすがにそれは言い過ぎだろう。

 別にエリック達を庇う気なんて毛頭ないけど、自分の評価が過大な気がする。


「なら、俺の代わりに誰かを斡旋すればいいんじゃ……?」

「ですから~!! アナタほどのスペックの人間が早々いてたまりますか!!」


 たまらず声を荒げるセリーナの剣幕に、ルビンは仰け反る。


「す、すみません……」

「い、いえ。私こそ大声出してスミマセン。でも、はぁ~…………」


 今日何度目かになるため息を聞いていて、さすがにルビンも気が重くなってきた。


「そ、その、Sランクじゃないとダメなんですか?」

「もちろんですよ! 通常はSランクという等級はありません。あれは、名誉階級に近いものがあります。普通ならAランクが最上ですからね。そして、そのありえないはずのSランクパーティが活動するギルドや国というのは、いわば人間兵器を所持しているようなものです。それは、大きなアドバンテージです。魔物に対しても、近隣の不法な武装集団に対しても抑止力となりますから」


「は、はぁ……?」


 そ、そんなにか?!

 Sランクってのは、ようするにていのいい傭兵扱いということか。


「Sランクパーティは、いるだけで国防費が浮くということで、……どこの国のギルドも、Sランクを欲しています」


 へ? 国まで??

 こ、この人、ぶっちゃけ過ぎじゃね?!


「ですからルビンさん?」


 にっこり


「───『鉄の拳アイアンフィスト』にかわり、ギルドの斡旋するパーティと組みませんか? それならばすぐにでも等級審査試験を……」

「いやいや、ちょっとパーティで活動するのはしばらく勘弁してください! それに知らないメンバーというのはやはり……」

「……ですよねー」


 がっくりと項垂れるセリーナ嬢。


 実力を買ってくれるのは素直に嬉しいが、エリック達にあれ程の仕打ちを受けたうえで、また知らないメンバーとパーティを組むなんてちょっと考えられない。


 少なくとも、今は一人になりたかった。


「なら、せめてギルド職員のほうをご検討ください! えぇ、今すぐにでも!!」

「いや……。その───」


 ダメだ。

 この人、ギルド職員とかいいつつ、ルビンをリーダーに据えたギルド専属パーティを作る気だぞ、これは……。


「とにかく、少し考えさせてください」

「はい、もちろんです! では、明日にでも!」




 いや、だから早いって!!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る