第10話「【タイマー】は、ギルドに報告する」

「ではこちらに……」


 セリーヌ嬢が先頭に立って、仕切りにあるブースに移動した。

 そこは普段は投資等に使われる窓口のはず。


 着いていったルビンが目にしたのは、簡単な応接セットだけが置かれている殺風景な場所だった。

「どうぞ」

 そこに誰がお茶を準備するでもなく、セリーナ嬢とルビンが席に付き。

 そして、エリックとアルガスが腰かけた。


 どことなく居心地悪そうに座るエリックたちは顔を見合わせて小声で相談している。


「(おい、エリック大丈夫なのか? 不味い状況なんじゃ……)」

「(大丈夫だ、任せろ。そのために手も打ってある───とっくにな)」


 「それよりお前は黙っていろ」とエリックが締めくくる。

 ……小声で話しているつもりなのだろうが、ドラゴンの力を得たルビン。全体的な能力が向上しているため、その会話は筒抜けだった。


(──ふーん。「手も打ってある」ねえ……?)


 エリックの企みを聞いていたものの、ルビンは表情に出さない。

 すると、

「それではまず、エリックさんの報告をルビンさんにお伝えしましょう。内容に間違いがなければ修正せず、そのままで結構です───……もっとも、」


 ジロリとエリック達を睨むセリーナ。


「───ルビンさんが帰還された以上、間違いがない・・・・・・、などとはとても思えませんが」


 ハッキリと言い切ったその迫力にエリック達が気圧けおされている。


「ぐ……」


「では、ルビンさん。順を追ってご説明します、まず───」



 そして、話し始めたセリーナの報告は、まぁ………………控えめに言って予想通りだった。

 多少の脚色やら恩着せがましい所もあったものの、大筋はこうだ。


 ※ ※

 Sランク推奨のダンジョン『地獄の尖塔』にトライすることを提案したルビン。

(うん、既に違う)

 パーティは難色を示したが、ルビンの強い希望で攻略することになった。

(全然違う)

 そして、ダンジョン攻略直後から、ルビンの調査ミスが判明し、想定外の魔物に遭遇し苦戦を強いられた。

(違う)

 だが、パーティは力を合わせて1階層を攻略し、次に進むことにした。

(力合わせてたか?)

 そこで、さらなる強敵に遭遇。調査になかったドラゴンが出現し、パーティは苦境に陥った。

(調査してないじゃん……)

 しかし、パーティは善戦し、ドラゴンを駆逐するあと一歩まで迫っていた。

(善戦どころか、戦ってもいない)

 この時、パーティ内で唯一戦力にならないルビンが怖気付き、急に物資を奪って逃走を開始した。

(怖気ついたのはお前らだよ)

 そのため、パーティは苦戦し、撤退を余儀なくされた。

(苦戦以前のレベル…………)


 そして、


 エリック達は先に逃げたルビンを収容し、罪を許した後で和解した。

 それに感激したルビンは、身を挺して囮になることを提案。全員で止めたが、ルビンは頑なに決心を揺るがすことはなく、制止を振り切ってドラゴンの目を引き、仲間を救った。


 色々問題行動が多発するルビンではあったが、最後は勇敢であった。


 だから、この英雄的行為に対し、ギルドを持って報いてあげて欲しい───。

 真実の仲間ルビンを偲んで……。

 ※ ※

「…………を偲んで。というところです。ほぼ原文ママですね」


 ストン! と、いつの間にか持っていた書類を軽く叩いて端を整えたセリーヌ嬢。

 そして、全て聞いていたルビンは何と言ったらいいのか頭を悩ましていた。

「あー……うー」

 どこから突っ込めばいいのかわからん。

「補足、修正はありますか? ルビンさん」

「えーっと……」


 もう、あり過ぎてどこから言えばいいのか分からない……。


「そうだな、まず───」

「おい!!」


 ガタンとソファーを勢いよく起き上がるアルガス。


 そのまま対面にいるルビンの胸倉を掴むと、

「てめぇ、分かってんだろうな? 余計なこと言うと、あとでどうなるか!」

「アルガス!!」


 エリックが押しとどめるも、少し遅かったようだ。


「どうなるって?」

「どうなるんですか? アルガスさん?」


 キョトンとしたルビンに代わり、セリーナ嬢がハッキリとした口調で問い詰める。


「…………どうなるんですか?」

「い、いや……。その……」


 自分の失策に気付いたアルガスはそっぽを向いてソファーに深く座り込む。

 もう口は開かないと決意したようだ。だが、顔面は真っ赤に染まっており、なにかあればすぐに反論するのだろう。


「……ギルド内で恐喝ですか。困りましたね」

「まぁ、俺は慣れたものですけど」


 もう、エリックたちとヨリを戻す気のないルビンは、彼等を庇う気など微塵も持ち合わせていなかった。

 それどころか、今までの鬱憤うっぷんが噴出しそうなのを必死でこらえているほどだ。


 だが、それをさしてしまうことが悪手でもあると知っているので、あくまでもギルドの裁定に任せようと思う。


「……わかりました。こうまで関係が悪化しているとは、ギルド側でも把握しておりませんでした。───なので、同席での聴取は不可能ですね」


 ため息をついたセリーナ嬢は言う。


「以後、個別に聴取しましょう。ではまず、ルビンさん、こちらへ───」

「おい! なんでルビンだけ個室なんだ!?」


 また激高して怒鳴りかけるアルガスをエリックが押しとどめていた。


「アルガス、黙ってろ!……セリーナさん、不公平ではないですか? 俺たちの話も聞いて平等に判断すべきでは───」

「はぃ? 平等とは……?? 先の報告以上に何か話すことでも??───もしや、虚偽の報告をしたのですか? それとも、報告漏れですか」

 

 分かっていながらセリーナ嬢はエリックを冷たく見下ろす。


「く……! そ、そんなことは───」


 せいぜい報告漏れということで、言い訳を織り交ぜることができるが、それもルビンが死んだという一番の嘘を誤魔化すには至らないだろう。


 なによりも、死んでいたルビンがこうして帰って来たのだ。誤魔化しようがない。


 「くそッ!!」───背後で、エリックの叫びを聞きつつ、ルビンは別室に通された。

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