第8話「【タイマー】は、余裕で脱出する」

「タイム!」


 ルビンは正面から突っ込んできたケルベロスに「タイム」をかけた。

 すると、獰猛な顔つきでルビンを食い破ろうとしていたケルベロスが中空でピタリととまり、そのまま地面に落下しズゴゴゴ! と顔面で床を開拓しながらルビンの目の前で止まった。


 姿勢は飛び掛かったままの状態だ。


「なるほど……。対象に対して、時間を止めることができるのか。でも空間には作用はしない───だから、落下する」


 まだ検証中だが、「タイム」はとんでもない代物だった。

 どうやら、【タイマー】の「タイム」どんな魔物だろうと、タイムをかけさえすれば時間を止めることができるスキルらしい。


 効果範囲はまだ検証中だ。

 それでも十分に強力だった。


「さて、いつ動き出すか分からないからね。その辺の検証はもう少し、安全な所に行ってから試そう」


 シュラン───と、腰に佩いた曲刀を引き抜くと、スンッ……! と脳天を一突き。


 足しかな手応えとともに、ドロリと脳漿があふれ出したのを確認すると、


「タイム中でも、外から作用を与えるとその部分は時間が動くのか? だから、脳が零れ落ちると───」


 そして、血も滴る。


(まだ、わからないな……)

 ヒュパッ! と血振りし、納刀すると、もはや見向きをせずに歩み去る。

 素材としても一級品のケルベロスだが、今のルビンの荷物はそれを拾う余裕もない。

 それに素材はドラゴンのものだけでも十分だ。


 しばらく歩きだすと、背後でケルベロスの絶命の声が聞こえた。


「うん。大体5分くらいかな? 個体差があるみたいだから一概には言えないけど───」


 タイムをかけてから解けるまでの時間を図っていたルビンは満足げに頷く。


「それにしてもいいなこれ……」


 腰に佩いた曲刀に触れ、笑みを浮かべたルビン。

 チリン♪ と鈴もなるところを見るに、キウィも気に入っているらしい。


 この刀を手に入れたのは2階層。

 ドラゴンの素材を剥ぎ取っていた時だ。


 いわゆるドロップアイテムという奴で、ドラゴンを倒した時に沸いていたらしい。

 彼の巨体を解体している時に、たまたまドロップした宝箱が下敷きになっているのを発見した。


 調べてみると、それは薄く青く発光した金の宝箱で、レアボックスと呼ばれるものだった。

 Sランクパーティにいたルビンも数回しか発見したことがない貴重なもの。


 「でっけぇ……」というのが、発見した時の感想だ。


 というのも、人ひとり優に入れるほどの大きさがあり、中には大量の宝物が入っていたのだ。


 その中の一振りがこれ。


 ご丁寧に説明書付き───『竜殺しの刀ドラゴンスレイソード』。

 なんでも、竜鱗を貫き、ドラゴンを屠る剣だとか……。


 そして、ほかにもローブだとか、小盾だとか、杖とか、魔導書とかまー色々。

 とにかく使えそうなものはそのまま装備させてもらった。


 『不可視の衣ステルスローブ

 →日に数回、不可視の効力を得る。アクティブ効果。

 『竜麟の小盾ドラゴンバックラー

 →竜麟で作られた小盾。炎を弾く。

 『必中ボウガンホークアイ

 →中近距離なら必ず命中するボウガン。ただし、狙った獲物に限定(ホーミング効果なし)。


 その他にも、装備しなかったもので、

 『竜の怨嗟の杖』『竜尾の鞭』『ドラゴンの心得』『鑑定の指輪』『竜血結晶』『竜舌香』『竜眼石』金銀財宝等々。


 それらを当然回収するとして、さらには竜の素材を剥ぎ取ることに。

 当然ながら竜の素材は貴重品。


 売ってよし、鍛えてよし、仕立ててよし!


 パーティに押し付けられた背嚢リュックだけでは当然納まりきるはずもなく、どうしようかと思案していたが、ルビンは宝箱ごとほっていくことに決めた。


 レアボックス自体が美しく、そして頑丈であるため引き摺って行くのも問題なさそうだ。


 しかし、それだとあまりにも格好がつかないので、ルビンは竜の素材を使って宝箱をそりに改造した。


 「こんなもんかな?」と、軽く汗を拭ったルビンの前には、箱の裏底に竜の爪や牙をスキッドにした貨物用橇のような物が完成していた。


 見た目は不格好だが引きずることができ、竜の爪や牙も持ち帰れるしで、一石二鳥だ。


 箱の余席には素材を詰め込み、溢れた分は積み上げてロープで固定した。


 そして、今に至る。

 途中で数体の魔物を狩り、一応ドロップ品と素材を回収したけど、もうさすがに積みきれない。


 小山のようになった橇の上にはドラゴンの素材と、その他にもケルベロスやサイクロプス等の素材も積み込まれていた。


 いっそ、捨てていこうとも思ったのだが、貧乏性をこじらせているらしい。どうしても持っていけるものは持っていきたかった。


 オマケに竜の血を飲んで変質した体のなんと調子のいいことか。



 そして、大量の荷物を橇に積んだままルビンはダンジョンを脱出していく……───そして、今に至る。


 なんと、ルビンはSランク推奨の最恐のダンジョンを鼻歌交じりに進んでいた。

 最初は2階層に到達するまであれ程苦労したというのに、今では散歩気分だ。


 「タイム」の能力を考証しながら、ドラゴンの肉を齧りつつ帰路へとついた。

 さて、これだけの成果を持ち帰ってギルドに報告したらどんな反応が返ってくるだろう。


 ギルドの受付や、エリック達の顔を想像しながら、なんといって納得させたものかと思案しつつダンジョンを脱出したのだった。




※ ドロップ品 ※

竜殺しの刀ドラゴンスレイソード

不可視の衣ステルスローブ

竜麟の小盾ドラゴンバックラー

必中ボウガンホークアイ

『竜の怨嗟の杖』

『竜尾の鞭』

魔導書ドラゴンの心得

『鑑定の指輪』

『竜血結晶』

『竜舌香』

『竜眼石』

金銀財宝等々


※ 素材系 ※

(竜:種別不明)

竜鱗   ×多数

竜牙   ×少数

竜爪   ×少数

竜角   ×極少数

竜肉   ×大量

竜翼の飛膜×少数

竜骨   ×大量

竜の逆鱗 ×極少数


(ケルベロス)

毛皮   ×少数

牙    ×少数

爪    ×少数

肉    ×少数


(サイクロプス)

目玉   ×極少数

角    ×極少数

こしみの ×極少数


※ その他 ※

大型レアボックス

キウィの首輪

パーティの荷物(共用)

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