第5話「【タイマー】は、恐る恐る目をあけた」


 ………………………………あれ?





 ルビンはいつまでたっても死が訪れないことに気付いて、恐る恐る目を開けた。


 きっと、そこには血まみれの自分がいるはずと思っていたのだけど………………?


「───ひぃ!!」


 目を開けたルビンの前には大口を開けたドラゴンが!!

 今にも食らいつかんばかりの形相。

 口を閉じればルビンは一瞬でブシュ! と血袋のようになるのだろう。


 だけど、


「……………………え? あ、あれ?」


 な、なんだこれ?


 なぜか、いつまでたってもドラゴンは動かない。

 それどころか、ピクリともせず生命活動を感じない……。


「なん、だ───これ?」


 そっと立ち上がり、恐る恐るドラゴンから距離をとる。

 途中、アルガスに斬られた激痛の余り転んでしまったが、それでもドラゴンは動き出す気配がない。


「ど、どーなってんだ? まるで時間が止まったみたいに……」


 ッ?!

 ───時間!?


「さっきのタイムで?? ま、まさか、俺が止めたのか?」


 時間魔法というものがあるというが……。


 それは世界のことわりに介入する禁魔法タブーマジックであり、研究することはおろか、存在すら許されていない魔法だ。


 しかし、大昔からその魔法の存在はささやかれており、使用者や研究者は後を絶たないという。

 時折摘発てきはつされる魔術師もいるというが、彼らがそれを成功させたという話は聞かない。


 だけど、

「じ、時間……魔法なのか? 俺が───?」


 でも、どうやって?

 魔法なんて使った覚えはないし、さっきは確か、「タイム」って言ったんだっけ?


 テイムとタイム───……。


「え? まさか……」


 た、


「【タイマー】って、時間を操る職業?!」


 一瞬で理解してしまったルビン。

 そりゃあ、女神のミスとはいえ、まったく意味のない天職なんてないはずだ。


 つまり、【テイマー】は調教師であるが、【タイマー】とは、時間師のこと……。


「うそだろ……」


 時間を操る天職なんて聞いたこともない。

 ないけど───ルビンは時間を操る能力を手に入れたらしい。


 まだまだ、この能力がどれほどの物かはわからない。

 だけど、間違いなく有用だ。


 そして、おそらく……。



 ギ…………。


 ギィエ……。


「あ、まずい!」


 タイムの効果がどれほどかはまだ分からないが、今にもドラゴンは動き出しそうだった。

 もう一度動き出した時に「タイム」をかければいいのだろうが、効果はまだまだ不明確だ。

 それよりも今何とかした方が手っ取り早い。


 そう、───ドラゴンを倒すのだ!

 あの、お荷物のルビンが!!


「なめるなよ……。俺だって、伊達に【テイマー】を目指していたわけじゃないんだよ」


 そう言うと、ルビンは荷物の中からミスリルの短剣を取り出す。

 くさってもSランクパーティらしく、ルビンの護身武器もそこそこに優秀なものばかりだ。


 そして、足を引き摺りながらドラゴンの懐に潜り込んだ。

 だが、ドラゴンは今にも動き出しそうだ。


「ドラゴンは最強さ。だけど、一カ所だけ弱点がある」


 そう言って、ドラゴンの腹を探るルビン。

 

(見つけた……!)


 緑の鱗の中に一カ所だけ、赤く輝く鱗があった。

 それこそがドラゴンの弱点と言われる、「逆鱗」だ。


 これを突かれればドラゴンと言えど───!!


「ふんッ!!」


 ザクッ!! と確かな手ごたえを感じ、短剣がズブズブとドラゴンの逆鱗に沈み込んでいった。


 その瞬間───……。





 カチッ。





 そして、時は動き出す───。



「ギィィイイイエエエエエエエ!!……───エエン?!」



 ガチィンッ! と口を閉ざすドラゴン。

 そこにルビンがいるであろうと思い食らいついた。


 だが、そこにルビンはいない。


 代わりに彼の奥底からあふれ出すのは激痛と、致命的な一撃を喰らったことによる内臓破裂だった。


 あのドラゴンの喉を伝って大量の血が───!!



「ギガァァァァァァアアアアアアアアアアアアアアアアア??!!」



 ブシュウ!! と噴水のように血を吹き出し、ドラゴンが大きく跳ねる。



 そして、……………………それっきり動かなくなった。

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