第4話「【タイマー】は、囮にされた」


「ちぃ! 離せッ、ゴミ召喚獣がぁぁあ!」

「よせ、キウィ!!」


 キウィには理解できたのだろう。

 パーティがルビンを囮にして逃げようとしていることに。

 そして、ドラゴンに立ち向かいすらしないことに!!


 だから……。

 だから、エリックに待てと───。


 ルビンを連れていけと……!!


「邪魔をぉぉおお、するなぁぁああ!」

「やめろぉぉぉおお!!」


 ズバッ───……。


『きゅうぅううううん!!』


 エリックは容赦なくキウィを切り裂くと、唾を吐き捨て今度こそ振り返りもせずに逃げていった。


「キウィぃぃいいいい!!」


 バウンドして、床にすキウィ。

 彼等召喚獣の血である精霊力が、キラキラと傷口から漏れていく。


 切り裂かれた腹の傷は深く、とても助かるとは思えない。


 そして、サモナーでなくなったルビンには彼にしてやれることも、もうなにもない……。

 なにも───。


「キウィ、キウィ!!」

 切り裂かれた足でキウィに縋りつくルビン。

 その頃にはパーティの姿はどこにも見えなくなっていた。


 そして、背後で荒々しい息遣いが聞こえる。


 きっとドラゴンだろう……。

 だけど、もういいんだ。


「キウィ………………」


 サモナーとして、常に共に戦ったきたキウィ。

 優しく、そして愛らしい姿に癒された。


 サモナーでなくなった時も、キウィだけは残ってくれた。

 最後までルビンといてくれた……。


 だけど、もう…………。


 キラキラと零れる精霊力と共に、キウィの姿が溶けていく。

 最後に『きゅうん……』と鳴いて、ルビンの手を舐めて───……そして、消えていった。


 あとにはサァァアア……と砂のように精霊力が舞い散り、世界に溶けていく。


 チャリン♪ とキウィにつけてやっていた首輪だけが彼がこの世にいた証。


「き、キウィぃぃぃぃぃぃぃいいいいいいいい!!!」


 ルビンの慟哭が『地獄の尖塔』に響き渡り、ドラゴンの叫び声がそれを塗りつぶした!




 ギィィェェェエエエエエエエエエンン……!!




「ごめん、キウィ。…………君にいる世界に行けるかな? 俺───」


 首輪を握りしめ、ゆっくりとドラゴンに向き直るルビン。


 そして、奴を真正面から睨み付ける。


 ふしゅー


 ふしゅー



「ドラゴン…………」



 コイツをテイムすることが目的だった。


 サモナーとして稼いだ経験値とLvがあれば【テイマー】になっていさえすれば、理論上、ドラゴンもテイムできたはず。


 だけど、ルビンは【タイマー】。


 バカ女神のせいで【テイマー】になり損ねてしまったパーティのお荷物。


 あの日以来何度も「テイム」が使えないかと試したが無理だった。


 そして、召喚術すら使えなくなったルビン。


(なるほど……お荷物だよな、俺)


 それでも、最後に何かできないかとと手を翳したルビン。


 ドラゴンは低く唸り、今にも食らいつかんばかりだ。





 だけど──────……。


「よぉ、ドラゴン───俺に仲間にならないか? なぁ………………『テイム』!」


 無駄だとは思いつつ、ルビンはドラゴンに『テイム』を仕掛けた。


 ギィェエ?


 首をかしげたドラゴン。

 敵意は感じない───。


(あ、あれ? もしかして、うまくいった───……?)


 そう思ったとき、



 ギィィィィイエエエェエェエエエエエエン!!



 ぐわば、とドラゴンが大口を開ける。

 そして、ルビンを一飲みにせんと迫り───、


「は、ははははは…………そんなうまくいくわけないか───」


 バクリと食らいつかれる瞬間、走馬灯が流れた。



 没落した貴族家で過ごす幼少期。

 家の助けになればと冒険者を目指したあの日。

 エリック達と出会い、パーティを組んで日々戦った。

 Sランクに承認したあの日の喜び。

 そして、転職神殿でのあり得ない事故。

 役立たずになり、虐げられる日々。

 日々募る不満と陰口を黙って耐える毎日。


 最期は、エリック達に見捨てられ───……。




 ドラゴンに食われる───!!




 覚悟はしていたんだけどな……。

 馬鹿馬鹿しいけど、エリック達の囮になるのも悪くないかな~って、……ホントばかだよな。


「あ、あはは、だけど痛いのはヤダなー……」


 そして、食らいつかれるその瞬間を想像して顔が引きつる。


 激痛を想像して後悔する。


 だから、

「ちょ、ちょっと『タイム』───!!」







 ぴた……………………………。

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