第3話「【タイマー】は、驚愕する」

「よし、ここを上り切れば2階層だ。全員で全周警戒───敵との不期遭遇にそな……」


 勢いよく階段を上り切ったエリックが驚愕の余り硬直する。


「な、」

「「「なんで……!?」」」


 いや、エリックだけではなく全員だ。


「ど、ドラ……ゴン?!」

「ば、バカな!! まだ二階層だぞ!?」


 前衛職のエリックとアルガスは恐怖にあまり足がすくんでしまったようだ。

 それは後衛のサティラとメイベルも同じこと。


 ルビンだけは息も絶え絶えでまだ前方の様子に気付いていない。


「くそ! さすがにこの装備じゃ分が悪い───撤退するか?」

「いや、既にバレているぞ! ドラゴンは執着心が強い───だ、誰かが足止めにならないと!」


「あ、足止めって、アンタたちマジなの?!」


 非情な意見にサティラも目を剥くが、


 ギィェェエエエエエエエン!!


「ちぃ、ドラゴンが来るぞッ!」

「逃げろッ!!」


 その言葉を合図に全員が遁走開始。


 だが、空を舞うドラゴンから逃げる術などない!


「考えてる暇はねぇな……」

「だな、足止め───いや、おとりを決めねぇと」


 言わずとも彼らが何を考えているかヒシヒシと伝わってきた。


「お、囮って。そ、そんな?! いくらなんでも、それは酷いんじゃ───だって死ぬんだよ?!」

「は! じゃあ全滅するか? それとも、お前が代わりにやるか?!」


 獰猛な目つきでエリックに睨まれたサティラが押し黙る。


「め、メイベルもなんとか言ってよ」

「いえ、賢明な判断です───……誰かを犠牲にする。そして、確実な方法はひとつだけ、」


 え?


 チラリとメイベルから視線を感じたルビン。


 そして、

「ははーん。なるほどな」

「ああー! そういうこと!」


 エリックとアルガスは手を打って納得すると、

「悪いなルビン」

「そうそう、ここで一発───骨のあるところを見せてくれよ」


 ニヤリと笑う二人の男。

 

「お、おい! 嘘だろ?!」


 走り抜けるパーティの間に緊張が走る。

 ドラゴンはあっという間に追いつき今にもパーティが食らいつかれそうだ。


 いや、緊張が走ったのはルビンだけ。


 他の4人は既に納得してしまっていたようだ。


「ご、ゴメンね。ルビン」


 サティラ?!


「へ。恨むなよ……。【サモナー】として使い物にならなくなった時点でお前を捨てても良かったんだ」

「そーそー、これは温情だぜ? ほら、忘れたのか?」


 な、なにを!


「俺たちの目的はドラゴンをテイムすること……。今がちょうど良い機会なんじゃねぇのかぁぁあ!」


 シャキン!


「う! アルガスおまえ───」

「せいぜい時間を稼げや! 骨くらい拾ってやるぜ」


「あぐっ!!」


 殺気を感じて身を捻ったが遅かった。

 重戦士とは言えアルガスもひとかどの剣士───しかも、逃げようとしたルビンの背を押さえつけたのはエリック。


「せめてもの情けだ。実家には見舞金を送っておいてやるよ」

「エリックっ!」


 斬られたのは足の腱らしい、今更になって激痛が走る。


「ぐぁぁぁあああああああ!!」


 悲痛な叫びがこだますと、一気にドラゴンに意識ヘイトがルビンに向いたのを感じた。

 それをわかっていながら、ワザと致命傷を避けてルビンを斬ったのだ。


 くそ……! みんな───。


 なんとか、助けを……と手を伸ばすも、先に駆けていく女子二人はこちらを振り返ろうともしない。


 サモナーでなくなった途端にルビンのお荷物ぶりに露骨に声をあげていたサティラ。

 彼女も、さすがに囮にするのは反対してくれたと思っていたけど、やはり自分の命は惜しいらしい……。


 そして、最後まで庇ってくれたメイベルですら、結局はルビンを犠牲にすることを認めていた。


 ルビンに直接手をかけたアルガスはいわずもがな。

 付き合いの長いエリックですら、最後はルビンを押さえつけ冷酷に見捨てた。


(な、なんでこんなことに……!)


 ただ、転職に失敗しただけ───。

 それもルビンのせいではない! あの女神のミスだというのに。


 今まで分かち合った苦労や、背中を預けた戦いは何だったのか。

 最後に見捨てるくらいなら、いっそもう一度転職に挑戦したり、それが無理ならさっさと除名してくれればよかったのだ……!


 こんなアイツら、見たくもなかった!!


 ああ、もういい!!

 わかったよ、囮だぁ?


 やってやればいいんだろぉぉおお!!


 半ばヤケクソになったその時、


「な! このキツネぇぇえ!」


(き、キウィ?!)


『きゅるるるるるる!!』


 ルビンに付き従っていたキウィがエリックの足に食らいついた。

 


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