第2話「【タイマー】は、荷物持ちになる」

「おい、グズグズすんな! さっさとついて来い!」

「ち……。荷物持ちも出来ねぇのかよ!」


「もー、エリックもアルガスもうるさい! 集中できないから怒鳴らないでよ! っていうか、ルビンも報酬分くらいは働いたらぁ?!」


 Sランクパーティ推奨の、高レベルダンジョン『地獄の尖塔ヘルズタワー』に挑む「鉄の拳アイアンフィスト」の面々。

 その最後尾には、山のような荷物を担いだルビンがいた。



 …………あの日以来、ルビンの扱いはガラリと変わってしまった。



「ご、ごめん……だけど、」


 体中にできた擦り傷。

 中には深い傷もあり、骨にまで達する大きな傷までもが……。


「あ、あの。休憩しませんか? このままではルビンさんが……」


 満身創痍のルビンを気遣うのはメイベルただ一人。

 だけど、回復魔法をかけてくれる気はないらしい。


 この先、何が出るか分からないダンジョンだ。魔力を温存したいのだろう。


「「ち!!」」


 エリック達が苛立たし気に舌打ちをする。


「また休憩~? 全然進まないよー。ねぇ、今日中に2階層までくらいは到達しようよ~」


 ペタンと女の子座りで抗議の声をあげるサティラ。

 だが、それは当然ルビンに向けられたものだ。


「もーさぁ。荷物くらいあとで回収しようよー」

「そうもいかんだろうが。このグズを一人残していけば、すぐに魔物の餌になってまうしな」

「いっそ、それでもいいんじゃないか?」


 次々にぶつけられる悪意。

 先日まではこんなことはなかったのに……!


「皆───酷いですよ。ルビンさんは大切な仲間じゃないですか!」

 一人ルビンを庇ってくれるのはメイベルだけ。


なぁにが大切な仲間だ。ロクに荷物持ちも出来ない───無駄飯くらい。昔はどうか知らんが……今じゃ只の足手まといだよ」

 そう言って吐き捨てるアルガスに、反論する気も起きない。


「だけど……」

「あぁ、わかったよ! 30分だけだ。いったん休憩したら一気に行くぞ。解ってんだろうな、ルビン!!」

「も、もちろんだ」


 渋々折れたのはエリック。

 そして、傷だらけの体を押して、無理に作り笑いを浮かべるルビン。

 だけど当然無理なことは分かっている。


 それでも、ここで頑張らないと本当に見捨てられてしまうだろう。


『きゅぅん……』

 スリスリと頭を擦り付けてくるキウィ。

 この子だけは【サモナー】でなくなった今も傍にいてくれる。

 と、いうよりも、ルビンがサモナーでなくなったため、精霊界に帰る術がなくなったのだろう。思えばかわいそうなことをしてしまった……。


「大丈夫だよ……いつもありがとな」


 ぺロペロと傷を舐めてくれるキウィ。別に回復効果があるわけではないが、多少は気がまぎれる。


 ルビンは傷口に安物の薬草を刷り込むと、休憩間は体力を使わずジッとしているのだった。

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