VSスライム
ようやく発見したスライムを前にイレーヌは手を突き出す。
いつものように回復魔法を使い、過回復をしようとしていた。
「イレーヌ、そいつは剣で攻撃して見ろ」
「いや、我は剣をまともに使えない……」
「まともに使えなくて良い。どうせ子どもでも倒せるレベルなんだろう? それなら思いっきり挑むと良い」
「……それもそうか。むしろそれが理由でスライムと?」
「そういうことだ。イレーヌの自信に繋がるだろう?」
「うむ、確かにそうじゃな。わかった、全力で戦ってやろう。我が力、とくと見るが良い」
自信たっぷりに剣を構えるイレーヌ。
見た目だけなら様になってる……ということもなく、相変わらず手が震えている。
「剣が大きすぎるのかもしれないな。もっと小さい剣にしてはどうだ?」
「いや、このくらいの大きさがないと魔王に見えないだろう?」
「確かにそうだが――」
今も全く魔王には見えない。
頑張って剣を持とうとしている背伸びしたい子ども……が関の山だろう。
ただ、本人がヤル気になっているのでこれ以上口出しするのは野暮というものだ。
それに相手がスライムなら問題なく倒せるので、思いっきりやらせてみよう。
しっかりスライムをその視線に収め、グッと剣を握りしめるイレーヌ。
その額からはじわりと汗がにじり出る。
しかし、覚悟を決めると思いっきり剣を振りかぶる。
「くらえっ、我が必殺の『爆炎砕撃破』」!!」
聞いているだけで恥ずかしくなるような攻撃名を唱えるとふらつく足取りのまま剣をスライムに向けて振り下ろす。
しかし、それはスライムがいる場所とは全く違う地面へと振り下ろされていた。
「……」
「……」
無言が場を襲う。
しかし、すぐにイレーヌの顔が真っ赤に染まる。
思いっきり振り下ろした剣は地面に刺さっている。
ただ、それが抜けないのか、下ろしたそのままの態勢で固まっていた。
「ち、違うのじゃ。スライムが高速で避けるところまで予測して、狙いを外しただけなのじゃ。妾の頭の中では高度な心理戦が繰り広げられていたのじゃ」
必死に良いわけをしているイレーヌを横目にスライムは不思議そうな表情をみせていた。
「それよりもスライムをそのままにしていて良いのか?」
「ぬ、そ、そんなことあるか! 今に見ておれ。妾が優雅にスライムを倒してみせる」
必死に剣を抜こうとするが、ピクリとも動かない。
「むむむっ……さすがは伝説の聖剣、抜くのに力がいる……」
いやいや、魔王なんだろう? 聖剣を持つのは変じゃないのか?
必死に引けた腰で剣を抜こうとそるイレーヌを呆れ顔で眺める。
スライムはスライムで、子どもでも倒せるという前評判通りにまともに攻撃を仕掛けてこずにその場でプニプニと体を揺らせていた。
そんな状態での戦闘を小一時間ほど続け、なんとかイレーヌはスライムの討伐を成功していた。
◇
「はぁ……、はぁ……、み、見たか。我の力を――」
「……あぁ、たっぷり見せてもらったよ。やっぱり短剣にしないか?」
「な、なにをー。ちゃんと倒せたではないか」
「――子どもでも一撃で倒せるスライムを一時間かけて……な」
「や、やつはただのスライムではなかったのじゃ。スライムの王、スライムキングじゃったのじゃ!」
……いや、どこからどう見てもただのスライムだった。
まぁ、それでもイレーヌの表情はずいぶん明るいものへと変わっていた。
それだけでもここへ来た甲斐があったというものだろう。
「さて、それじゃあ次のスライムにいくか?」
「そ、その……。スライムはもう良くないか? もっと強大な相手を倒す方が――」
「……さすがにその剣裁きじゃスライムくらいしか相手にできないからな。とにかく余裕で倒せるようになるまではスライムとひたすら戦うからな」
「お、鬼ー。悪魔ー。この魔王ー!」
「いや、魔王はお前なんだろう?」
呆れた表情をした後、日が暮れる間際までイレーヌのスライム討伐に付き合っていた。
そして、スライムのゼリーまみれになったイレーヌは恨めしそうな表情をしていた。
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