スライム

 老人と出会ってから数日が過ぎた。


 いきなり襲われないように警戒しつつ、日々の依頼をこなしていた。


 相変わらずティナが大量に食べるので、そこまで金も溜まっていないが、それでも最近は食事用の魔物も一緒に取ってくるのでだいぶ消費が減っている。


 それも全てココが魔物もちゃんと調理してくれるおかげだろう。

 うまい料理を毎日作ってくれている。


 ココもこの場所に随分慣れてきたようで、ギルドホール内だとほとんど緊張してる様子はなかった。



 イレーヌは……相変わらず言動はおかしいところがあったが、それが普通のイレーヌと思うことにしておこう。



「誰がおかしな奴じゃ!」

「いや、そんなことは言っていないぞ?」

「目を見ればわかる。そなたがおかしいことを考えているとき、遠い目をするじゃろ?」

「そこまではわからないけど――」

「と、とにかく妾は至って普通に過ごしているからな! あと、これはそなたにやろう」



 イレーヌが突然、俺に皿を渡してくる。

 そこにはいくつかの野菜が載せられたままだった。



「えっと、これはプレゼントしてくれた……ってことで良いんだろうか?」

「あっ!? またイレーヌちゃんは残してー」



 俺が持っていた更に気づいたココが少し頬を膨らませていた。



「あぁ、これはイレーヌが嫌いなものだったのか」

「そうなんですよ。私が目を離した瞬間にすぐに隠すんです。『魔王は野菜なんて食わん』と勝手な持論を展開して――」

「そうか、それなら少し話をしてみよう。ただ、もっと小さく切って好きな肉と混ぜる……とかをしても良いかもしれないな」

「そうですね。野菜が入っているかもわからないくらいに細かく切って入れましょうか」



 ココは少し残念そうにお皿を片付けていた。

 もちろん余ったものはティナのお腹に収まっていたが。



「アイルさん、私は今日の食料調達に行ってきますね」



 ティナが笑みを浮かべながら言ってくる。

 最近はよくこのパターンで行動することが多くなった。


 特段良い依頼がなかった場合は、ティナが食料調達、ココが家事全般をこなしてくれて、後の雑務関係を俺とイレーヌで行う。


 元聖女……ということもあり、イレーヌは計算等が得意で、金勘定等は任せていた。


 今日もそのパターンになりそうだな、と改めてイレーヌの部屋へと向かう。


 軽く扉をノックした後に中から返事が来るのを待つ。



「誰じゃ?」

「俺だ、アイルだ」

「アイルか。入って良いぞ」



 イレーヌから許可をもらったので、そのまま中に入る。



「何かあったのか? 依頼に行くのか?」

「いや、野菜の件だが――」

「あぁ、わかっておる。妾も別に食べられない……というわけではない。ただ、どうしても野菜メインだった聖女のときを思い出してな」

「そういうことか。大丈夫だ、ここには無理に食べさせようとするような奴はいないからな」

「それはわかっておるのじゃが――」



 結経重傷だな。それだけ教会に縛られていたってことなんだろうけど。

 早めに解決するには――。



「よし、気分転換に魔物狩りでもいくか?」

「それなら妾がティナたちを呼びに行こう」

「いや、俺とイレーヌの二人で……だ」




◇◇◇




 イレーヌと二人で魔物討伐へとやってきた。

 相変わらず剣を持っているものの、無理にそれを使おうとはしなくなった。



「その剣も聖女だった自分に反発して持つようになったのか?」

「いや、これは妾の力をわかりやすく示すためじゃ。魔王たる者、目に言える形で恐怖を与える必要があるからな」

「でも、使いこなせないとただの宝の持ち腐れだよな?」

「うっ……、こ、これから使えるようになるわい」

「あぁ、だから特訓がいるかなと思ったんだ。ちょうど近くでスライムが現れたという話を聞いてな」

「スライムじゃと!? 確か、子どもでも簡単に倒すことができるというあれか?」

「あぁ、そうだ」

「わ、妾を馬鹿にしているのか? 妾のレベルが子どもレベルとでも言いたいのか?」

「いや、スライムだがあれでいて中々使えるんだ。とにかく実際に会ってみればわかる」



 少し憤慨するイレーヌと一緒にスライムが出たという森の中を探していく。

 するとすぐに軟体の体を持つゼリー状の魔物を発見する。

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