教会騎士団

「くっ、あの男め……余計なことをしやがって」



 教会に戻ってきた老人は悔しそうに口を噛みしめていた。

 すると、神官の一人が口元をつり上げながら言ってくる。



「それなら邪魔をしてきた男を排除したらよろしいのではないでしょうか?」

「しかし、奴らは冒険者。それなりに力を持つ者どもだ。そんな奴を簡単に排除などできるはずも――」

「そのために教会騎士団が存在しているのですよ。聖女様を拐かす相手なら騎士団を動かすにはちょうどいいかと――」



 神官が意味深に伝えてくる。

 それを受けて老人も頷く。



「なるほど。確かにそれなら騎士団を動かす理由になりますね。聖女様をお助けするには必要なことですから――」

「では、早速騎士団を動かす準備をしておきますね。彼らの力ならドラゴンすらも倒せる可能性がありますからね。冒険者風情なら余裕ですよ」

「はははっ、それもそうだな。では、手配の方を頼む」



 教会の中に神官と老人の声が響き渡っていた。




◇■◇■◇■




「今日は大量ですね♪」



 俺たちは早速依頼を受けて、山脈へ向かったのだが、そこでたまたまドラゴンの集団と遭遇し、目を輝かせたティナによって大量に捕獲されていた。



「……さすがにこれは取り過ぎな気もするけどな――」



 ティナの手には五段に積み重なったドラゴン。

 それを手に満面の笑みを浮かべているティナ。



「えへへっ、これで夕食はお腹いっぱいになりますね」

「……これ、全部食べる気なのですか?」



 ココが驚きの表情を浮かべるが、ティナはさも当然のように大きく頷く。



「もちろんですよ。ご飯は友達……ですから」

「それだと友達を食べてることになりますよ……」



 ココとティナが話し合っている中、俺は妙に静かで心ここにあらずのイレーヌが気になった。



「どうしたんだ? そんなに暗い顔をして……」

「んっ? あぁ、大したことではない。本当はあの場で妾は帰った方が良かったんじゃないかと思ってな――」

「あの場?」

「ほらっ、ギルド本部でのことじゃ!」

「あぁ、あの老人の話か……。気にすることはないんじゃないか? 自由を売りにしているギルドなんだから、それを気にする人はいないと思うぞ?」

「いや、あやつは教会の神官をまとめている長なのじゃ。じゃからこそ、かなりの権力が与えられている。教会騎士団の号令もあやつが掛けることになっているからな」



 教会は王国とギルドに対抗する一大勢力で、教会騎士団はほとんど号令がかかることはないが、ギルドトップ陣なみに実力を誇っている。


 まともにやり合っては勝てる道理はないだろう。


 そんなことを考えながらティナを見る。

 ドラゴン軽くかじっている……。


 うん、ティナ一人で勝てそうだ……。



「まぁ、何とかなるだろう」

「ぬ、主は気楽すぎるぞ! 妾のせいでそなたらに危険が及ぶと考えると――」

「俺たちを心配してくれているのか?」

「そ、そんなことあるか!」



 顔を赤くして、イレーヌはそっぽを向いてしまう。

 そんな彼女の頭に俺は手を乗せる。



「大丈夫だ。ティナはもう俺たちの仲間だからな。困ってる仲間は見過ごさない。当然だろう?」

「そうですよ。私たちはもう仲間なんですからね。困っている人は助けますよ!」



 いつの間にかティナが会話に参加してくる。

 その口にはドラゴンの尻尾の部分がくわえられていた。



「わ、私もお二人に助けていただきましたから……。私でできることでしたら頑張らせていただきます」

「お、お主達……。わ、わかった。そうじゃな、妾がこんなちっぽけなことで迷っているのも馬鹿らしいよな。いいじゃろ、教会騎士団だろうが勇者集団だろうがいくらでもこい。魔王である妾が相手だ!」

「だー♪」

「……いや、勇者は関係ないだろう」



 ようやく元気を取り戻してくれたイレーヌに俺は少しホッとする。

 ただ、彼女の予感も的外れではないのだろう。


 早急に対策を取らないと苦戦を強いられることになる。


 そのためには――。



「よし、帰ったらドラゴン肉のステーキだ。みんな、たっぷりと食うと良い」

「はーい♪」

「えっと……たくさんはその――」

「よし、妾もたくさん食うぞ!」



 皆、笑顔を見せてくれる。

 何とかして、このギルドを守っていかないとな。


 俺は新たな決意を抱いていた。

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