肉の回復
翌日、動物の鳴き声によって目が覚める。
モォォォーー。
「な、なんだ、一体何が!?」
慌てて窓から外を見てみるとそこにたくさんの動物たちの姿があった。
そして、大きく手を振るティナの姿も――。
「あっ、アイルさーん。おはよーございまーす」
「あ、あぁ、おはよう……。ただ、そのたくさんの牛たちはどうしたんだ?」
「これですか? これは朝ご飯です」
……いや、ちょっと待て。
昨日の飼育の件だと思ったら、まさかの朝ご飯だったとは――。
「いやいや、さすがに何頭いると思ってるんだ!? これだけの量を食えるはずが――」
いや、ティナなら余裕か……。
ただ、ココの手が追いつかない。
「これだけを一度に調理できるはずがないだろう」
「……それもそうですね。残念ですが、残りは昼食に置いておきましょうか」
「……それでも多いんだけどな」
思わず苦笑をしてしまうが、ティナはにっこり微笑んでいた。
……と、思っていたら急に真剣な表情をみせてくる。
「ちょっと待ってください。私、とんでもないことを思いついたかも知れません」
絶対にくだらないことだ。
調理しなくても丸々一頭丸かじりしたらいい……とか、焼かなくても良いとか、いかにもティナが言いそうなことだもんな。
しかし、ティナが言ってきたことは俺の予想を遙かに超えるものだった。
「食べた牛さんに回復魔法を掛けたら、その部分が元に戻っていくらでも食べ放題になりますね」
「いやいや、それはさすがにまずい。絵的にも倫理的にも」
「そんなことないですよー。試してみましょうよー」
ティナが頬を膨らませて言ってくる。
やっぱりティナだからとんでもないことを言い出した。
すると俺たちの声で目が覚めたのか、隣の窓からイレーヌが顔を出す。
「なんじゃ……。うるさいぞ……」
口調とは違い、純白のワンピースを着ていたイレーヌはまさに聖女と言っても過言ではなかった。
視線が自分の服へと向いていることに気づいたイレーヌは顔を赤めて、服を手で隠す。
「な、なんじゃ、妾もまだ金がなくて聖女だったときの服しかないだけじゃ。妾だってな、妾だってな。もっと……、もっと……」
「いや、寝間着だから良いんじゃないか? それにイレーヌにとても似合っているよ」
むしろ普段来ている服装の方が違和感を感じてしまう。
しかし、イレーヌは恥ずかしくなったのか、慌てて話題を変えようとする。
「そ、それよりも回復魔法の件じゃろ?」
「そうだった。そんなことできるのか? 調理した後に回復魔法をして元に戻るなんて……」
「結論から言えばできるな」
「ほらっ、できるんですよ。食べ放題ですよ」
ティナが嬉しそうに声を上げる。
しかし、俺は何か条件がある気がして、イレーヌの次の言葉を待った。
「ただ、なくなった部位を治療するわけだからな。食べた部分はなくなるぞ? つまり一生腹が膨れることはない」
「そ、そんな……」
ティナがガックリと肩を落とす。
いや、まぁ、治療だもんな。
無から錬成するとかそういうわけじゃないんだし……。
「それよりも朝ご飯を食わないか? 妾も自分の力を制御できるように特訓をしたいのじゃが?」
「そうですね。朝ご飯にしましょう。うしうしー♪」
「みなさんー、朝食の準備ができましたよ」
「えっ!? お、お肉は?」
「……なんのことでしょうか?」
エプロン姿のココが首をかしげるとティナがガックリと肩を付いていた。
◇
朝食を取り終えた後、俺たちは全員集まってギルド本部へとやってきた。
もちろん新しい依頼を受けるためなのだが、本部に入って瞬間に視線が俺たちの方へと向く。
それははじめてギルド登録をしに来たときと同じような雰囲気で、何かあったのかと思わず警戒してしまう。
すると、そんな俺たちに声を掛けてくる老人がいた。
「イレーヌ様! 約束のお時間です。教会に戻りましょう」
まっすぐイレーヌに向かっていく老人。
「嫌じゃ。妾はしかとギルドに加入したぞ!」
「それも聖女であることを隠されていたのですよね? 聖女様は国の宝。こんなところで野蛮なギルドへ加入している場合ではありませんよ!」
むりやりイレーヌを引きずって行こうとする老人の前に俺たちは立ち塞がる。
「おや、あなたは昨日の――」
「彼女は俺たちのギルドメンバーなんだ。勝手に連れて行かれたら困るな」
「……昨日は嘘を仰ったのですね。やはりギルドは――」
「あ、アイルさんは私を助けてくれました! 悪く言うのは許せないです!」
珍しくココが怒っている。
「嘘は言ってないぞ。イレーヌは自分のことを魔王と言っていたからな。俺たちのギルドでは当人がなりたい役職を優先することにしてるんだ」
「くっ、戯れ言を――」
「ギルドは自由な仕事だからな。ここではお前の方が異端だ。それは回りの雰囲気を見たらわかるだろう?」
俺たちと向かい合う老人に対して、他ギルドの人たちが鋭い視線を向けていた。
にらみ付けていると言っても過言ではない。
その視線を見た老人は思わずイレーヌの手を離し、駆け出すように去って行った。
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