教会の使者
ギルド本部へと戻ってくる。
すると、持って帰ってきた魔物達があまりにも多いので驚かれて、前回同様に本部の外での鑑定に生った。
「はい、しっかり確認させていただきました。ではこちらをどうぞ」
受付の女性から金を受け取ると本部から出て行こうとする。
すると、突如呼び止められる。
「すみません、そこのお方――」
俺を呼び止めてきたのは初老の神官服姿をした男性だった。
教会の人間なんだろうな。
そう考えると要件は……イレーヌのことか。
「どうかしましたか?」
「いえ、この辺りで聖女様を見られませんでしたか?」
「聖女は見ていないですね」
「――そうですか。ありがとうございます」
男性は頭を下げてくる。
……嘘は言っていないよな? 本人は魔王を名乗っているわけだし――。
それにイレーヌ自体が会いたくなさそうだもんな。
そんなことを思いながら俺は本部を出て、ギルドホールへと戻っていく。
◇◇◇
「お帰りなさい、アイルさん」
「あぁ、ただいまティナ。……後の二人は?」
「ココちゃんは今夕食を作ってくれています。イレーヌちゃんは自分の部屋に行かれましたよ」
まぁ、いきなり住むことになった訳だから色んな準備も必要になるか――。
「わかった。俺はここで待たせてもらうよ」
ホールに置かれた椅子に腰掛けると今回の収入を数え始める。
メンバー全員の食費とギルドでの予備費を入れると、どうしてもほとんど金が残らないのはどうにかすべき問題だな。
特にうちは食費がかさむから――。
軽くティナの顔を見ると、笑顔で返されてしまったので慌てて元に戻す。
何かもっと食費がかからない方法を考えないと……。
そのためには――。
「自給自足をするしかないか……」
「牛さんでも飼いますか?」
「いや、動物じゃなくてな……」
当然のごとく肉のことを言ってくるティナだが、さすがにその育て方がわからない。
それに普通自給自足といったら簡単な野菜だろう……。
「任せてください、私、しっかりお世話しますよ♪」
「いやいや、そもそもどこで牛を手に入れるつもりなんだ? さすがに買うには高いだろう?」
「取りに行きましょう。みんなで」
「……はぁ?」
さすがに農家から牛を盗ってきたら犯罪だ。
そんなことできるはずもないのだが――。
「この前、トカゲの背中に乗っていたときに見えたんですよ。牛さんがたくさん歩いているのを。魔物……ですかね?」
「牛の魔物か……」
それならミノタウロスとかが有名だけど、あれは顔が牛で体は人だ。
とてもじゃないが、食べられるとは思えないが――。
「まぁ、ティナの腹を満たすにはどっちにしても魔物を狩る必要があるもんな。そのついでに見に行っても良いか」
「はいっ♪」
「ただ、今日はもう行かないぞ?」
「えっ? ひとっ走りでいけば夕食に間に合いますよ?」
「ティナが間に合っても俺は間に合わない」
「それなら私が運んであげますよ?」
「いや、それだと捉えた牛はどうするんだ?」
「ちょっと窮屈になりますけど、どっちも運べますよ」
「いやいや、さすがにそんなことさせられないからな」
一瞬自分が牛と一緒にティナによって運ばれている姿を想像してしまう。
たくさんの牛を持ったティナが高速で走る様子を――。
「むぅ……、ご飯は必須なんですよ……」
「そのご飯はココが作ってくれているのだろう?」
「それもそうでした。ではご飯を食べてからいきましょう♪」
「いや、ご飯食べたらもういらないだろう?」
「お夜食です♪」
「好きにしてくれ――」
「はいっ」
やたらと良い声が返ってくる。
もしかして、本当に取りに行くのだろうか?
……まさかな。
俺は苦笑をしながら料理が出来上がるのを待っていた。
◇◇◇
ココが作った料理を食べ終えた後、自室に戻るとなぜかイレーヌも一緒に付いてきた。
「どうかしたのか?」
「いや、大したことではないのじゃが、その――」
何か言いたげにもぞもぞ動いている。
全然大したことあるじゃないか……。
「いいぞ、中に入って」
「すまん……」
イレーヌが中に入ってくると迷わずにベッドの上に腰掛ける。
まぁ、椅子が一つしかないので、他に座れる場所といったらそこくらいだが。
「それで何かあったのか?」
「うぬ、実はな。妾は教会の連中に追われているのじゃ」
「あぁ、あの老人がそうなんだな」
「あったのか!?」
イレーヌが驚きの声を上げる。
「まぁ、ギルド本部で待ち構えていたからな」
「そ、それで、妾をどうするつもりじゃ? 追い出すのか?」
「んっ? 何でそんなことをする必要がある?」
「何故って妾は聖女で教会からの使いが――」
「いや、イレーヌは魔王……でいいんだろう?」
俺がにやり微笑むとイレーヌがハッとした顔をする。
「そ、そうじゃな。妾は魔王じゃ」
「なら何も気にする必要はないな。それにもうイレーヌは俺たちのギルドメンバーだ。仲間を見捨てるようなことはしない」
「うむ、仕方ないな。妾の力を貸してやろう」
イレーヌは嬉しそうにしながらも照れくさそうに頷いていた。
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