オーク討伐

「お、オーク!? 大きくないですか!?」



 ココが驚き慌てふためいていた。



「豚さんですね。焼いちゃいましょう」



 ティナは相変わらず食べることを考えているようだ。

 でも、そんなことを言ってる相手ではないだろう。



「ティナ、剣を構えてくれ。ココは……魔法をいけるか?」

「が、頑張ります」



 ギュッと杖を握りしめるココ。



「わ、妾は……」

「イレーヌは少し離れて待機しておいてくれ。まだ、戦いには慣れてないだろう?」

「し、しかし、妾も――」

「俺はもう仲間を失いたくないからな」



 既に去ってしまった元ギルドメンバーの姿を思い浮かべながら、告げるとイレーヌはそれ以上何も言ってこなかった。



◇◇◇



「今夜は豚ステーキですね!!」



 嬉しそうな声を上げながらオークに斬りかかるティナ。

 そして、それをサポートするココ。



「ふ、火初級魔法全弾発射ファイアーボールフルバースト!!」



 うん、あいかわらずココは全魔力を使って魔法を放ってしまったようだ。



 ココの杖からは何十、何百もの火の玉がオークめがけて飛んでいった。



 まぁ、ちょっとした隙さえ作ってくれたらあとはティナの攻撃でどうにでもなるだろう……。



 安心してオークを眺めていたのだが、体が大きいオークだけあってちょっとの攻撃ではびくともしなかった。


 むしろ、何か攻撃でもしたのかと言いたげな飄々ひょうひょうとした態度を取っていた。



「攻撃が効きません! 脂身が凄いです」

「いや、脂肪と言え……。いや、皮膚が分厚いでいいだろう!」



 思わずティナの言動に惑わされる。

 そして、ふらつくココを助けに行く。



 まさかオークがここまで強かったなんて……。

 ティナの攻撃が通じないのは予想外だった。ドラゴンですら一人で倒してしまうティナが――。



「うーん、ご飯が足りなくて力が出ないです……」



 あれだけ食べてたのにまだ足りないようだった。



 それが原因か!?



 やはり、しっかりティナには食べてもらわないといけないな。

 もうこんなことが起きないために。



 すると、そんな俺たちの様子を見て、イレーヌがふらふらと前に来る。



「おい、危ないぞ……」

「いや、放っておけるか。妾がいなかったら、もっとそやつが食事を取れて、余裕で倒せたのであろう? 妾がマッシュロンと戦うのに手間取ったせいで――」

「そんなことないですよ。イレーヌちゃんは頑張ってくれてますよ」

「いや、もう妾は誰の迷惑も掛けたくない。お主が言っていたあれ、回復のやつ使うぞ!」

「いきなりぶっつけでできるのか?」

「妾を誰と心得る? 魔王イレーヌぞ?」

「……いや、聖女だろ」



 思わず突っ込みを入れてしまう。

 しかし、イレーヌはそれを気にした様子はなく、ココの杖を掴むとオークに向けて魔法を放つ。



「闇の力よ。我が手に集え。敵を滅ぼす力となれ。光超回復魔法アルティメットヒール



 うん、色々と突っ込みたいところはあったけど、やめておこう……。


 イレーヌの強力な回復魔法を受けたオークはその傷が治療されていく。



「ぐっ……、この程度じゃ足りないか。ならもっとじゃ!!」



 イレーヌが更に魔力を込めてオークを回復していく。

 すると、次第にオークが苦悶の表情を浮かべていく。

 そして、オークが悲鳴を上げたかと思うとその場に倒れ伏せていた。



「やったのか……?」

「はい、もうピクリとも動きませんね」



 ティナが実際にオークを剣で突いていたが、それでも動こうとしなかった。

 それを見て、イレーヌはその場に座っていた。



「ははっ、見たか、我の力を――」

「それにしても、剣も通らなかったのにどうしてあっさり倒せたんでしょうね?」



 ティナが不思議そうにしていたので、俺は一つ仮説を立ててみる。



「回復魔法が体内に作用する魔法だからじゃないか? 普通の攻撃や攻撃魔法みたいな対外からの攻撃は強くても、体内を直接攻撃されたら弱かった……。いや、むしろここを防御できる奴はいないだろうな。防御不能の攻撃。まさに必殺技と言っても過言はないだろうな」

「ふふんっ、我の力を思い知ったか……」



 ぐったりとしたまま笑みを浮かべるイレーヌ。



「ただ、あと依頼が一つ残っているんだけどな……」



 倒れたオークを横目に俺は苦笑を浮かべるしかできなくなった。




◇◇◇




 ウルフ討伐の依頼は結果的にすぐに終わることができた。

 というのも、ティナがオークを振り回してウルフに攻撃するので、周囲を巻き込み、一度に大量に討伐することができたからだ。



「これ、良い武器ですね」



 軽々と自分の体より大きいオークを振り回すそのティナの姿に俺は思わず頭を押さえてしまう。

 いや、ティナならおかしいことはないか……。

 ただ、ウルフ十体も運ぶとなると……。



「ティナ。このウルフも頼んで良いか?」

「はい、構いませんよ」



 俺がココを運んでいるので、残りの魔物とイレーヌはティナに任せる。



「わ、妾はもう歩けるぞ!」

「遠慮しなくて良いですよ。ヨイショッと……」



 必死に抵抗するイレーヌだが、ティナの力には適わずに為す術なく連れて行かれる。

 その様子を見て、俺は再び苦笑を浮かべていた。

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