魔王(聖女)
「待つのじゃ! その依頼、妾も共に受けよう!」
突然後ろから声を掛けられて振り向くと、そこにいたのはシルバーブロンドの髪の少女だった。
純白のマントを羽織り、背には明らかにその体と合っていない大きな剣。
どう見ても子供にしか見えない……。
そんな子が両手を腰に当てて、尊大な態度を取っていた。
「えっと、君は誰?」
「わかりました。迷子さんですね。一緒にお母さんを探してあげましょう」
ティナが少女の手を掴む。
すると、少女は顔を赤めて必死に抵抗する。
「ち、違うわい!! 妾は闇の力を扱う魔王、イレーヌじゃ」
イレーヌか……。どこかで聞いたことがあるような名前だけど――。
「えっ? 闇の魔力……?」
ココが不思議そうに首をかしげる。
「何かおかしいことでもあったのか?」
「いえ、禍々しい気配ではあるのですけど、魔力で見るとその――」
ココが俺の耳に口を当てて小声で言ってくる。
「聖魔法なんですよ。それを無理矢理歪ませて禍々しくみせているだけで――」
「聖魔法……?」
少女をみながらココに聞き返してしまう。
「間違いないと思いますよ」
聖魔法といえば回復職が得意としている魔法で、まさに俺たちのギルドが今一番欲しい能力の持ち主でもあった。
ただ、そのタイミングで少女の名前から感じた違和感について、はっきり気づいた。
「そうか、イレーヌってどこかで聞いたことがあると思ったら、今代の聖女様の名前だ」
「せ、聖女様……ですか!?」
「あぁ、そうだ。ただ、聖女様はもっとお淑やかで慈愛に満ちたお方だからただ、名前が同じなだけだろうけど――」
「珍しい偶然もあるものですね」
ヒソヒソと話し合っているとイレーヌが間に割って入ってくる。
「何をヒソヒソと話しておる。それよりも妾も共に行動する件、どうじゃ?」
「どうじゃ? もなにも、俺たちは断る理由はないかな。ティナやココはどうだ?」
「私は賛成、賛成、大賛成です!」
「うーん、どうして私たちの仲間になろうとしたのですか?
即答するティナに対して、ココは改めてイレーヌに尋ねていた。
「それはどいつもこいつも妾の力を理解しておらんからじゃ。『ガキは引っ込んでろ』とか『力を付けてから出直せ』とか、妾は今ギルドに入りたいのに――」
「アイルさん、私も賛成です。困ってる人を見過ごせません……」
ココはついこの間まで自分が置かれていた境遇と重ね合わせての判断なのだろう。
みんな賛成なら俺も反対する理由がない。
「わかった。それなら――」
仲間に加えようとした瞬間にギルド本部の受付のお姉さんが口を挟んでくる。
「少し良いですか?」
「何かありましたか?」
「いえ、そちらのイレーヌさんについてですが――」
受付の女性が俺にだけ聞こえるように言ってくる。
「彼女を仲間にするおつもりですか?」
「えぇ、そのつもりですけど、何か問題でも?」
「いえ、それはその……、私どもからも口に出しにくいことには生ってしまうのですけど、教会の方がその――」
「あぁ、わかっていますよ。イレーヌが現聖女様と同じ名前ってことですよね? 大丈夫です、そんな勘違いはしませんので。では私たちはこれから依頼へ行きますので失礼しますね」
それだけ言うとギルドメンバー全員で本部を出て行く。
そんな俺たちを見て、受付の女性が告げる。
「そのイレーヌさんは間違いなく現聖女様なんです……」
ただ、それが俺の耳に届くことはなかった。
◇◇◇
「さて、まずはどの依頼からしようか?」
「キノコ、行きましょう。味はいまいちですけど食べられますから」
ティナが答えてくると、イレーヌが驚きの表情をみせてくる。
「く、食うのか!? ま、魔物じゃぞ?」
「でもキノコですよ? 食べないのですか?」
「う、うぅぅぅ……、食う。妾にできないことなぞないからな」
いやいや、俺も食わないぞ。
半分泣きそうになりながら決意を表したイレーヌに対して、ティナは嬉しそうな表情をみせる。
「わーい、イレーヌちゃんも食べるんですね。では一緒に行きましょう」
「ま、待て、少し気持ちを落ち着ける時間を……。ってわぁぁぁぁぁ……」
ティナに引きづられていくイレーヌ。
「あの……、大丈夫でしょうか?」
「まぁ、魔物に襲われることはないからな。俺たちはゆっくり追いかけるか」
「……そうですね」
もう姿は見えなくなっているが、ティナ達が走り去っていた咲きをぼんやり眺めながら、俺たちも進んでいく。
すると、しばらく歩いた先でマッシュロンに囲まれたティナ達の姿を発見する。
「ど、ど、どうするのじゃ。お主が躍り食いなんてしたせいでこんなに集まってきてしまったではないか……」
「えぇ、良いくらいに集まりましたね。これでたくさんご飯が集められました」
「馬鹿者がー!! くっ、こうなっては妾だけでも――」
イレーヌが青黒い炎を生み出す。
そして、それをマッシュロンに向けて投げつけていた。
しかし、すぐに地面に落ちて炎は消えていた。
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