小粒の依頼
「本当に掃除が得意なんだな……」
テキパキとギルドホールを片付けてくれたココに思わず言う。
「はいっ、昔から私、こういう部屋で過ごすことが多くて自然とそうなったのですよ」
「でも、すっかり夜になったし、好きな部屋で休んでくれ」
「それなら私は階段下にある部屋を――」
「いや、そこは倉庫だろ……。もっとちゃんとした部屋を使ってくれ。ココももうこのギルドのメンバーなんだからな」
「は、はい。わかりました。で、では私はティナさんの隣の部屋を――」
「ココちゃんがお隣さんですね。案内しますよ!」
ティナが嬉しそうにココの手を掴むと、そのまま引っ張っていく。
「わわっ、だ、大丈夫です。私も場所はわかりますから」
「気にしないで。私も一緒の方向だから」
「だから、そういうことじゃ――」
うん、このギルドもだいぶ賑やかになってきたな。
思わず俺は微笑んでしまう。
あとはギルド自体のランクを上げないとな。
少なくとも有名になるためには難易度の高い依頼を受けて――。
ただ、その前に――。
「まずはティナの食費の確保か。あとはココのために魔力ポーションもいるだろうし、金がかさみそうだ」
今回もココのために十万リン使ってしまったし、残り手持ちは一万リンしかない。
本当ならこれを分配したいところだけど、おそらく明日の朝、ティナの食事だけでなくなってしまうだろう。
もっと稼がないといけない。
それと依頼で怪我をする可能性があるので、早めに回復職の人を仲間にしたいところだな。
◇◇◇
翌朝、俺の予想通りギルドの金は空になった。
「んまんまっ♪」
大量の朝食をとても美味しそうに食べているティナを横目に俺たちは苦笑しか浮かばなかった。
「あの、アイルさん。もしかして、この量を毎朝食べるのですか?」
「いや、少し違うな……」
「そうですよね。今朝がたまたまなんですよね……」
ココが乾いた笑みを浮かべる。
ただ、ココのその想像は間違いだ。
「いや、毎食これだ。更にそれとは別に間食としてドラゴンやワイバーンを食べるほどだ」
「……ティナさんのからだってどうなっているのですか?」
「俺にもわからん。ただ、しっかり食事をしないと力が出ないらしい」
「不思議ですね……」
それからティナの食事が終わるまで俺たちは居心地悪く席に座っていた。
◇◇◇
「ほどほどにお腹も膨れて良い運動日和ですね♪」
ティナはグッと背を伸ばしながら嬉しそうに答えていた。
「いやいや、俺たちならあれだけ食うと身動き一つ取れなくなるぞ?」
「またまたー。アイルさんも大丈夫ですよ。食べてみてください」
「いやいや、遠慮しておく」
「むぅ……、仕方ないですね。それならココちゃんと一緒に食べますから――」
「わ、私もそこまで食べられないですよ」
「大丈夫です。たくさん食べると体が大きくなって、もっとたくさん食べられるようになりますよ」
「……本当ですか!?」
「えぇ、私を見てください」
ティナが両手を広げてみせる。
確かにティナとココを見比べるとティナの方が体は大きい。
しかし、ココの目は体の一部分に向いていた。
「……確かに凄く大きいですね」
「ですよね。だからココちゃんも一緒に食べましょう」
「……ごくりっ。あの胸が手に入るなら……」
ココが必死に考えていた。
いやいや、食事だけでそこまで大きくならないだろう。それにココの体がすぐに丸くなってしまう。それになにより――。
「食費が足りないからやめてくれ」
「はっ!? そ、そうでした。危うく魅惑の誘惑に引っかかるところでした」
「せっかく一緒に商店街の料理をことごとく食べるツアーができると思ったのですけど……」
残念そうな表情をみせるティナ。
うまく阻止できたか……。
俺は最悪の方向へ進まなかったことにホッとして、ギルド本部へと向かっていく。
◇◇◇
ギルドに付くといつも通り依頼書を眺める。
もちろん取るのはいつもどおり高収入の討伐依頼だが……。
「あまり高額帯の依頼がないな……」
ティナの食費を考えるとなるべく依頼料の高いものを選んでおきたかったのだが、今日はそういった依頼はないようだ。
「そうですね。キノコはイマイチでしたし、今日のはイマイチですね」
ティナも別の基準から眺めているようだが、納得できる依頼はなかったようだ。
「それなら複数の依頼を受けてみませんか? 一応人数分の依頼までなら受けられますよ」
それだと今は三つか……。
値段が高い順番に上から選んでいくと『マッシュロン討伐』『オーク討伐』『ウルフ十体の納入』を選んでいく。
ただ、これだけ選んでも一万リンにも届かない。
今日は特別安いんだな。……だから依頼書が結構残っていたのか。
依頼書があまり減っている様子はない。
他ギルドの人が見に来たとしても、やはり何も受けずに帰っていく。
まぁ、仕方ないな。
俺たちは苦笑しながらカウンターへと向かっていく。
すると、そのタイミングで俺たちを呼び止める声が聞こえる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます