ココ救出
「アイルさん、これからどこに行きますか?」
ティナがすぐにでもご飯へ行きたそうな表情をしながら言ってくる。
「まずはココの件を片付けないとな」
「そうでしたね。吹っ飛ばしちゃいましょうか」
ティナが拳を作ってみせる。
「絶対にダメだぞ!」
「そうなのですか? なら私にできることはありませんね」
少し残念そうな表情をみせる。
「えっと……、私は別に急いでいませんので――」
「いや、どうせ仲間になってくれるのなら早いほうがいい」
「それはそうですけど……」
「それよりも混沌の蛇のギルドホールへ案内してくれるか? 詳しい場所は俺には分からないから」
「は、はい。では、付いてきてください」
町の外を歩いているかのように、ココは杖を両手でしっかり構え、フードを深々と被りながら俺たちの前を歩いていた。
先導してくれるのはありがたいのだが、このココの格好は不審者のそれにしか見えない。
更にその後ろを歩くティナは大トカゲのしっぽを持ち、運んでいた。
大トカゲだと人混みを歩いていたら、周りの人に当たるかもしれない。
ただ、ティナはそんな事気にした様子もなかった。
そして、そんな二人の後ろを歩く至って普通な俺。
いや、二人を率いている風に思われているのだろうか?
……俺自身も怪しい人物に思われてるかもしれない。
ただ、どうすることもできないので、ため息を吐くことしかできなかった。
◇◇◇
「ここが混沌の蛇のギルドホールになります」
ココが案内してくれたのは、少し奥まった路地を進んだ先にあった一軒家だった。
周りが薄暗いおかげでこの場所の怪しさが一層引き立っていた。
「こんな場所にギルドがあったら直接の依頼人はほとんど来ないんじゃないか?」
「えっと、それが……。あまり表で言えないような依頼が良く来ていたみたいです」
なるほど……。犯罪まがいのことまでしていたようだ。
それならば遠慮することはないだろう。
早速扉を開けて中へと入る。
すると、ホールで酒を飲んでいたメンバーが一斉に振り向いてくる。
「あぁ? 誰だてめー!」
「えっと、その……」
ココが顔を伏せて俺の後ろに隠れる。
「ギルドマスターのスレイクを呼んでくれ!」
「おや、あなたはココと一緒にいた――」
「アイルだ。つい先日ギルドを興したばかりの新米マスターだ」
そのことを告げた瞬間にホール内から笑い声が上がる。
しかし、スレイクは前と同様に笑みを浮かべている。
「これは同業者の方でしたか。それでうちの【混沌の蛇】へどのような用でしょうか? 依頼なら少々費用をいただきますが?」
「いや、依頼じゃない」
「……それでは如何様でございましょうか?」
「ココのことを話にきた」
「うちのココが何かやりましたか?」
「いや、ココがうちのギルドに所属することになった。だから、一応元ギルドにも報告をしておこうと思ってな」
ココのことを話すとスレイクの眉がピクリと動く。
「それは困りますね。ギルドから抜けるには決まりがありますから――」
「いや、そのことも本部に確認してある。ギルドを抜けるのは本人の自由、とのことだ。それを破るようならギルドに罰則が下るそうだが?」
「ぐっ……」
悔しそうに口を噛みしめるスレイク。
「し、しかし、ココはギルドに借金をしている。それを返してもらわないと――」
「これでいいんだろう?」
俺は先ほど受け取った達成報酬の中から十万リンを取り出すとスレイクに渡す。
それを見たスレイクは驚きの表情を浮かべる。
「う、嘘だろう? そんなに払えるはずが――」
「これでココは自由だろう?」
「た、確かに十万リンだ……。わかった、借金の件はもういい」
スレイクが背を向けてくる。
それを見て、ココは思わず笑みを浮かべてくる。
「あ、アイルさん……、ありがとうございます」
「いや、気にするな。これもギルドとして必要な費用だ」
そのまま俺たちはギルドを出て行こうとする。
しかし、あと少しのところで止められてしまう。
「待ちな!」
スレイクがいつの間にか剣を抜いていた。
それを見てココは体を震わせる。
「……手を出したらもうギルドとしてやっていけなくなるぞ?」
「それがどうした。ここまでコケにされて黙っていられると思ったのか? お前たちさえ消せば証拠も残らないだろう?」
にやり微笑んでくるスレイクに対して、俺はため息を吐く。
「ここまで腐った相手なら手加減はいらないよな? ティナもいいか?」
「任せてください!」
ティナが大トカゲを構える。
……って、それは武器じゃないぞ!?
「馬鹿にしやがって。死にやがれ!!」
スレイクが剣で斬りかかってくる。
しかし、それを大トカゲで受け止めたティナはあっさりスレイクを吹き飛ばしていた。
「あっ、せっかくのご飯に傷が!?」
ティナが少し残念そうな顔をする。
するとその様子を見ていたギルドのメンバー達が襲いかかってくる。
ただ、そいつらもティナの大トカゲによって吹き飛ばされていた。
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