ゴーレムの核

 たまたま運が良く、依頼を達成することができた俺たちはそのままギルド本部へと向かうことにした。


 俺がココを背負っているので、ゴーレムの核はそのままティナに持ってもらっていた。



 そして、並んで歩いていたのだが、隣からガリガリ……という音が聞こえてくるのがすごく気になった。


 今、そんな音がなるようなものはないはず……。


 一体何をかじろうとしているのか……。



「やっぱり、ただの宝石ですね。全く美味しくありません」

「……食べるなよ?」

「食べるはずないですよ」

「……今かじってただろう?」

「ちょっと味見をしただけですよ」



 いや、普通に食えたのならそのまま食っていただろう……。



 呆れ顔になりながらティナを見る。



「まぁ、依頼が終わったらまた飯でも食いにいくか」

「……っ!?  は、はい、行きましょう! 早く行きましょう!」



 華が咲いたような笑みを浮かべてくるティナ。

 猛スピードで走り去ってしまい、すっかり点のようになってしまったところで、大声を上げてくる。



「アイルさーん、ココちゃーん! 早く行きましょう―!」



 そんなティナの姿を見て俺は苦笑を浮かべる。



「仕方ないな……。少し走るからしっかり捕まっておいてくれ」

「は、はい……」




◇◇◇




 ラッツェンの町へ戻ってくる。

 いつの間にかティナの手には大トカゲの姿があった。



「えへへっ、デザートです」



 嬉しそうな表情を浮かべていたティナ。



「それよりも早く報告をしないとな。日も暮れてきたからな」



 夜になるとギルド本部は閉まってしまう。


 ほとんど金がないことを考えると今日中に達成の報告はしておきたい。



「そうですね。早く終わらせてご飯にしましょう」



 嬉しそうな表情をしながらギルド本部へと入っていくティナ。

 それに付いていくと、ギルド本部に入った瞬間にココから小さな声が漏れる。



「ひっ……」



 ココの視線の先にいたのは目つきの悪い男性だった。



「……知り合いか?」

「ギルドの……マスターです」



 なるほど、あいつがBランクギルド【混沌の蛇】のギルマスか。

 相手もココに気づいて、俺たちの方に近づいてくる。



「ココ、戻ってきたか。無事に戻ってきてくれて嬉しいよ」



 笑みを作りながら手を差し出してくる。

 それを見て、ココは体を震わせていた。


 特に怯えるような相手ではないと思うが、じっくり見るとめの奥が笑っていない。



「あなたは――?」



 俺がココの代わりに質問を投げかけると笑みを浮かべながら答えてくれる。



「おや、これは失礼。私はギルド【混沌の蛇】のマスター、スレイクです。あなたはココに雇われたのですか?」

「いや、俺たちは倒れていたココを助けただけだ」



 一緒に依頼を受けていた件は黙っていた方が良いかな、と別の理由を口にする。



「そうですか。それはありがとうございます。お礼らしいお礼はできませんが」

「いえ、そんなつもりはありませんので――。それよりも先に依頼の報告をさせてもらってもよろしいですか?」

「おっと、失礼。もうじき受付が閉まってしまいますよね。では、ココはこちらでお引き受けしますね」



 スレイクが軽く頭を下げて、ココを受け取ろうとする。



「いえ、私はもう歩けますので……」



 ココが慌てて俺の背中から飛び降りる。

 まだ本調子じゃないようで、足を震わせて今にも倒れそうな様子ではあったが――。



「そうか。それならあとから話がある。ギルドホールに来てくれ。では、私の方はこれで失礼しますね」



 スレイクが頭を下げてギルドを出て行った。




◇◇◇




「うぅぅ……、怖かったです……」



 腰が抜けてしまったココがその場に座り込んでしまう。



「大丈夫か?」

「は、はい……、大丈夫です。ちょっと、力が抜けてしまっただけです……」

「――確かに怪しいやつだったな。ギルドを抜けることは考えないのか?」

「何度も考えたんですけどね。やっぱり依頼を受ける以外ですとお金を稼ぐ方法がないんですよ。でも、こんな私ですから他のギルドに入れなくて――」

「他には入れないからうちに来れば良いんですよ」



 笑みを浮かべながら勝手に言うティナ。

 でも、それで全て解決する訳か。



「それもそうだな。ココの借金も一人で稼ぐより三人で稼いだ方が早いわけだもんな」

「ですです♪」

「ちょ、ちょっと待ってください! そんなことをしてもらっていいのでしょうか? だって私、モンスターを前にすると緊張してしまって今みたいになるのですよ……。とても戦力には――」

「いや、十分すぎるほどの力を持っているだろう?」

「ふぇぇ??」

「そうですね。あの花火、綺麗でしたし――」

「いやいや、違うだろう。ココも緊張してしまうからうまくいってないだけで、本来の力を発揮できれば、十分に戦力になる。それに料理ができるんだろう?」

「えっと、それは簡単なものでしたら――」

「それこそが今の俺たちに必要な力なんだ! だからこそ俺のギルドに入ってくれないか?」



 ココの手を握り、何とか頼み込む。

 すると、ココは顔を真っ赤にして小さく頷いていた。



「わ、私が皆さんの役に立てるのですね――」



 それからココは少し考え事をしていた。

 しかし、すぐに大きく頭を下げてきた。



「よ、よろしくお願いしましゅ……」



 大事なところで噛んでしまい、ココの顔は真っ赤に染まっていた。

 その姿に思わず笑い声を上げてしまう。



「あははっ……」

「わ、笑わないでください……」



 ココが真っ赤になって、必死に言ってくる。



「すっかり仲良しさんですね」



 そんな俺たちを見て、ティナが嬉しそうにしていた。




◇◇◇




 受付へと移動する。



「ようこそ、ギルド本部へ。本日はどのようなご用件でしょうか?」

「魔物討伐を行いましたので、確認をお願いします」

「はーい、では依頼書を見せて貰えますか?」



 ゴーレムの依頼書を受付の女性に手渡す。



「なるほど、ゴーレム討伐の依頼ですね。こちらはゴーレムの核を納入してもらうことになっています」

「はい、こちらになります」



 ティナが真っ赤な宝石をカウンターに置く。



「はい、受け取らせていただきました。では、相違ないかの確認をいたしますので、少しお待ちください」



 女性が奥へと入っていく。

 そして、しばらくすると戻ってくる。



「確認させていただきました。ゴーレムの核で間違いありませんでした。なかなか大物を仕留めてくださったのですね。こちら、報酬の十万リンと核が大きいものだったので上乗せの一万リン、あわせて十一万リンになります」



 基準はわからないが、多めにもらえるのはありがたい。

 ただ、どれだけ大きいゴーレムを倒したんだ……、ティナは。



「かしこまりました。そちらで大丈夫です」



 俺は女性から金の入った小袋を受け取る。



「あと、一つ質問してもいいですか?」

「なんでしょうか?」

「ギルドを辞めるのに何か条件ってあるのでしょうか?」

「えっと、もうギルドを解散されるのですか?」



 女性が少し驚いた様子を見せていた。



「いえ、違います。ココが今のギルドを辞めて、うちに入ることになったのですが、辞める際に何かあるのかな、と思いまして――」

「あっ、そういう事なのですね。それなら何もありませんよ。ギルドはあくまでも同じ志を持つ人たちの集まり……というだけですからね。拘束力もありませんし、抜けたい時に抜けてもらったら大丈夫ですよ。むしろ、無理やり拘束すると監禁罪が適用されて、町の衛兵に突き出さないといけないですから――」

「なるほど……、もしそんな事をしようとするギルドがあったら本部としてはどう動くのですか?」

「私どもはせいぜいギルドの登録を剥奪するくらいしかできないですね」



 それが聞けただけで十分だった。

 あとは実際にギルド【混沌の蛇】へ出向くだけだな。



「色々教えてくれてありがとうございます。では、失礼します」



 俺は女性にお礼を言うとギルドから出て行く。

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