トウモロコシの魔物
ゴーレムの生息地は大トカゲと同じ山の麓らしい。
討伐部位はゴーレムの核と呼ばれる宝石で、これはゴーレムを倒すと落とす赤い宝石だった。
この宝石はゴーレムの強さに比例して大きくなり、巨大なものだと一人で運ばないほどの大きさになるとか。
早速俺たちは山の麓を目指して進んでいた。
ただ、楽しそうに一番前を歩くティナと違い、ココは最後尾を緊張した様子で歩いていた。
「大丈夫ですか? もし歩くスピードが速いならティナに言いますけど――」
「いえ、大丈夫です……」
それだけで会話が終わってしまう。
どうにも距離があるよな……。
違うギルドだから仕方ないところもあるけど、このままだとゴーレムと戦ったときにも影響が出そうだな。
お互いに遠慮があるからか……。
それならまずは話し方から変えてみるかな。
「ココさん、ちょっと良いですか?」
「ふぇぇ? な、なんでございましょうか?」
突然のことに驚いて、言葉を詰まらせていた。
その様子を苦笑しながら、俺は更に言葉を続ける。
「まだお互いに遠慮があるかなと思いまして……。よろしければもっと普段通りの口調で話してくださいね」
「そ、それならアイルさんも――」
「あぁ、そうだな。普段通りの俺はこんな感じだが、大丈夫か?」
俺がまず初めに敬語をやめて話す。
「は、はい……。じゃなくて、うん、大丈夫です……だよ?」
ココの口調が前以上に安定しなくなった。
その様子に思わず俺は吹き出してしまう。
「あははっ、なんだその口調は――」
するとココは少し頬を膨らませる。
「ふぇぇ、わ、笑わないください。ちょっと緊張しておかしくなっただけですから……」
顔を赤く染めながら声を荒げてくる。
しかし、先ほどまでと比べると随分と話をしてくれるようになった。
「わかったよ。無理をしなくていいから話しやすい口調で話してくれ」
「……頑張ります!」
両手を握りしめるとココは気合を入れていた。
「それで、ティナさんは……?」
「あぁ……、まぁいつものことだ。すぐに戻ってくるから大丈夫」
おおよそ何をしているのか想像がつく。
ただ、ココは不安そうな表情を浮かべていた。
「ほ、本当に大丈夫なのですか!? この辺り、魔物が出ますけど……」
「まぁ、ティナだし不安だな……」
「そうですよね。怪我してないか――」
「変なものを食べてないか――」
ココの動きが止まる。
「えっと……、変なもの? 野草とか?」
「それならよかったんだけどな。……あぁ、ちょうど戻ってきた――」
「ふ、ふぇぇ!?」
戻ってきたティナの手には巨大なトウモロコシが三つも握られていた。
良く見てみると、どうやら討伐依頼で見たトウモロコシの魔物、トウモロンのようだ。
一体でもティナの体より大きいのにそれが三体も……。
ただ、すでに倒した後のようで、身動き一つしていない。
「アイルさーん! ココちゃーん! ご飯取ってきましたよー!」
大きなトウモロコシを振りながら笑みを浮かべてくる。
その様子を見て、ココは口をパカパカしながら指差していた。
「あ、アイルさん……、あれって――」
「ティナと一緒にいるとよくあるんだ……。慣れてくれ」
思わず遠い目をしてしまう。
「な、慣れないですよ。だって、魔物ですよ?」
「えぇ、お昼ご飯は絶対にこれにするって決めてたんですよー。早速焼きませんか?」
俺たちの側に来ると早速火をおこしていたので、その質問は意味がない気がする。
「あのあの、これって一体……?」
「ティナは食いしん坊なんだ――」
「ちょっと待ってください、アイルさん。その説明だと私がいつもはらぺこのダメダメさんみたいに聞こえますよ?」
「なんだ、違うのか?」
「違わないですね!」
笑みを浮かべながら焼いたトウモロコシを差し出してくる。
「えっと、その、あの……」
「ほらっ、ココの分だぞ」
「こ、こんな量、食べられませんよ……」
「大丈夫です。余った分は私がいただきますね」
にっこり微笑むティナ。
俺もこんなにでかいトウモロコシを一人で食い切る自信はない。
でも、残ってもティナが食ってくれるもんな。
「では、いっただーきまーーーす!」
ティナが嬉しそうに大声を出して手を合わせる。
そして、目にも止まらない速度でトウモロコシを食べていく。
「あぅぅ、わかりました。私もいただきます……」
小さな口でトウモロンをかじるココ。
次の瞬間には大きく目を見開いていた。
そして、ゆっくりと口を開く。
「あ、味がしません……」
「まぁ、焼いただけだもんな」
「そんなことないですよ。たくさん食べられておいしいですよ」
ティナは変わらない速度でどんどんとトウモロコシを食べ進めていた。
「もしかして、いつもこんな料理を……?」
「いや、ティナと組むようになってからまだ二日目だからな。まともな料理はまだしてない」
昨日の夜はドラゴンのステーキだったし、今朝は店で食事をしている。
……ティナの食べる量を考えると今後は自炊していくことを考えないといけないな。
ただ、俺は碌に料理をしたことがないし、ティナに関しては――。
「おいしいですねー♪」
幸せそうにトウモロコシを食べている……。
味にはそこまでこだわりがなさそうかも見えるな。
「も、もしよろしかったらですけど、この依頼中はわ、私が料理しましょうか?」
「本当か!?」
「えっと……、そんなにうまくできませんけど、よかったら……」
「あ、あぁ、よろしく頼む」
「なんの話ですかー?」
いつの間にか手に巨大なキノコ……いや、キノコの魔物マッシュロンを持っているティナが聞いてくる。
「この依頼中はココが料理を作ってくれることになったんだ」
「そうなんですね。ありがとうございますー」
ティナが開いている手でココの手を握る。
そして、何度も上下させる。
「わわっ、ど、どういたしまして……」
恥ずかしそうに顔を赤くして、うつむきながらもココは笑みを浮かべていた。
◇
トウモロコシを食べ、腹一杯になったあと、俺たちは再びゴーレムを探して進み始めた。
「そういえばまだお互いの戦い方とかを知らないな。ゴーレムと戦う前に軽く弱い魔物で慣らしておいたほうがよさそうだな」
「わ、私はその……、ま、魔物相手は――」
「俺たちもあまり合わせたことはないし、ココからは色々と教わりたいからな」
「ふぇぇ!? 私なんかに教えられることなんて――」
ココは恥ずかしそうに顔を真っ赤にして俯いていた。
「アイルさん、アイルさん、ごは……、いえ、魔物が出ましたよ。早速倒しちゃいますか?」
今ご飯って言いかけただろ!?
本当なら緊張する場面なのだが、ティナのおかげで興が削がれた俺は、苦笑まじりにその魔物の方へと向く。
そこにいたのは、大トカゲだった。
昨日たくさん倒した魔物だが、それほど強いわけでもない。
Eランクの魔物なら先ほど考えていた能力を見るのにちょうどいい相手だ。
「ご飯、ご飯♪」
剣を抜いて口から少しよだれを垂らすティナ。
すでに脳内では大トカゲを食べている姿を想像しているのだろう。
俺も同じように剣を抜くと、まずはティナに声をかける。
「ティナ、少し試したいことがあるから今回は手を出さないでくれるか?」
「えっ!?」
ティナの動きが固まる。
「ど、どうしてですか!? わ、私がさっきあれだけ食べたからですか!?」
「いや、それは関係ない。むしろ倒し終わったら食べていいから――」
「わかりました。それなら構いませんよ」
あっさり引いてくれるティナ。
ただ、剣は抜いたままなので、いざというときは手を貸してくれるだろう。
魔物の能力を考えるとそんなことはないと思うが。
「え、えっと……、本当にた、戦うのですか?」
「あぁ、もちろんだ。まずは俺が戦ってみせるから、次に出てきた魔物はココが――」
「わ、わかりました……」
ギュッと杖を握り込むココ。
そんな彼女を横目に俺は大トカゲに切り掛かった。
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