蜥蜴(とかげ)とワイバーン(とかげ)とドラゴン(とかげ)

「どこに行くのですか? そっちは町じゃないですよ」

「いや、大トカゲを狩っていかないと何のために町の外に出てきたのか分からなくなってしまう」

「でも、そろそろ暗くなってきませんか?」

「そうだな。急がないとね!」



 グッと指を立てて笑みを見せる。



「わかりました。私もお腹いっぱいなので、全力で探しますねー」



 一度敬礼をしてみせると全力で走り出すティナ。

 とんでもない速度で俺を放置したまま――。



「ちょ、ちょっと待て!! だから勝手に行くな!!」



 大声も空しくティナの姿はあっという間に見えなくなっていた。

 そして――。



「どうぞ、大トカゲですー!」



 すぐに戻ってくるティナ。

 その手にはワイバーンが掴まれていた。


 大きさは相変わらず巨大でティナの体を優に超えているし、背中には翼がある。

 ただ、ドラゴンよりは一回り以上小さい、俗に言う飛竜と呼ばれる魔物だった。



 ……どう見ても大トカゲではないんだけどな。



 満面の笑みをしているティナを見てると、これが大トカゲでいいような気もしてくる。



 もちろん依頼の魔物としては提出できないが――。



 ただ、それだとティナ一人では、まともに討伐依頼が出来ないことになってしまう。

 依頼内容に書かれた魔物と違うものを討伐してしまうわけだからな。

 やはり、誰かサポートとしてつかない限りティナの能力はフルに活かせないか。



 それに、これからギルドのメンバーとしてやっていくなら、モンスター名は教えておくべきだな。



「ティナ、少し言いにくいことなんだけどな、そいつは大トカゲじゃないぞ?」

「えっ、違うのですか!?」

「あぁ、そいつはワイバーンだ。大きさが全く違うだろ?」

「……本当ですね。さっきのはもっと小さかったですもんね。でもでも、たくさん食べられる、と考えたら得した気分になりませんか?」



 どうしても基準が『食べる』ことにあるようだ。

 それならば、その基準で説明したら……。



「でも、どっちも味は違うだろう? 依頼人にも好みがあるんだ……きっと」

「なるほどです。確かに味が違いますね」



 ティナが手をポンッと叩いて納得してくれる。

 やっぱりこういう説明の仕方で良かったんだな。



「それだとこのトカゲはいらないってことになりますね。……朝ごはんにしましょうか」

「……そうだな」



 軽々とワイバーンを持ち上げるティナ。



「もう暗くなってきましたね。まだ探しますか?」

「――いや、明日にするか。一旦町へ戻って……って、いたー!?」



 薄暗く周りがあまり見えない状況の中、視界の端にチョロチョロと動く大トカゲの姿を発見する。



「本当ですね。サクッといっちゃいますね」



 ティナは思いっきりワイバーンを振りかぶっていた。



「って、それは武器じゃないだろ! しかも、そんなに振りかぶったら――」

「いっけーーーー!!」



 勢いよく大トカゲにぶつかると、そのまま遠くに飛んでいってしまった……。



「ありゃー、少し飛ばし過ぎちゃいました」

「少しじゃないだろ、全く……。とにかく大トカゲを拾いに行くぞ!」

「はーいっ」



 手を挙げたティナと共に俺は星になった大トカゲを探して、先へと進んでいった。




◇◇◇




 しばらく周囲を探していて、ようやく倒した大トカゲを発見する。

 しかもちょうど落ちた場所が大トカゲの巣、だったようで周りにたくさんの大トカゲが倒れていた。

 優に数十体は倒れているだろうか。

 そして、地面は大きく窪み、クレーターのようになっていた。



「たくさんのご飯、ゲットですね」

「いやいや、これは討伐魔物だから回収しないと」

「そうですか。残念です」



 本当に残念そうな表情を見せてくる。


 まぁ、こいつ一匹で一食分くらいになるわけだもんな。

 それにトカゲばかり食べるのもどうかと思うし……。



「わかったよ。それなら報酬で何か旨いものでも食いに行くか!?」

「いいのですか!? 私、そんなにお金ないですよ?」

「あぁ、これだけ大トカゲがいたら余裕で払えるだろうからな」

「やったー! では早速帰りましょうか?」



 大トカゲを運ぼうとする。

 しかし、どう頑張っても両手に抱えるだけで精一杯だった。



「全部は持って帰れないか。ティナはどのくらい持て――って、えっ!?」



 ティナはワイバーンの上に残っていた全ての大トカゲを載せていた。

 そして、ワイバーンの尻尾を掴んでいた。



「よいしょっ、と」

「えっと……。ティナ、その……、重たくないか?」

「このくらい軽いですよー。でも、心配してくれてありがとうございますー!」



 尻尾を引きずっていくティナと両脇に大トカゲを抱えた俺。

 なんだろう……、凄く負けた気がするのだが――。


 ただ、ティナの笑顔を見ていると、そんなことを考えるのすら馬鹿らしく思えてくる。

 これなら何とかやっていけそうだな――。


 苦笑しながら俺たちは町へ向かって歩いて行った。




◇◇◇




 町へ行くとまっすぐギルド本部に向かいたかったところだけど、時間が既に夜でギルド本部も閉まっている。

 仕方なく、一旦ギルドホールへと運んでいく。

 人が少ない時間に戻ってきたのが幸いだったかも知れない。


 大通りですれ違った人たちはティナの持つワイバーンを見て驚き、そのあと上に乗っているたくさんの大トカゲとそれを運んでいるのがティナということで、二度目の驚きを見せていた。



 うん、その気持ちは痛いほどよくわかる。



 ティナの細腕でどうやってあれだけのものを運んでるんだろうな。

 少しかになるところではあるが、今日は色々とあって疲れたのでゆっくり休みたい。


 難しい事は明日また考えよう。


 ギルドホールに戻ってくる。

 そして、扉を開いた瞬間に埃が舞ってきて咳き込んでしまう。



「ごほっ、ごほっ、そうだった。掃除もしないといけなかったんだ……」

「あははっ、今日は野宿になりますね」

「すまない……」

「私は気にしてませんよ。明日、頑張って片付けましょう」



 笑みを見せてくるティナ。

 俺もグーッと親指を立てて、そのあと野宿の準備をしていた。




◇◇◇




 翌日、朝一番に俺たちはギルド本部へとやってきた。

 もちろん目的は大トカゲを渡して報酬を得ること。

 ただ、さすがに大トカゲの量が多すぎるので、ティナと一緒に外で待っていてもらって、俺が話をしてくることになった。


 あと、荷台代わりに使っていたワイバーンはティナの腹に収まっていたが、そちらは今は気にする必要もないだろう。



 ギルド本部内は建物入ってすぐ正面にカウンターがあり、奥で事務員達が慌ただしく働いている。

 このカウンターでは依頼の受注や達成報告、あとはギルドを作るときや特定のギルドへ推薦してもらうときなどをするときはここで話しかける。

 あとは魔物の買取もしてくれるようだ。


 そして、カウンターのすぐ横には巨大な掲示板が置かれ、そこに依頼書が貼られていた。


 更に周りの壁にはこの町近辺の地図や緊急依頼、更には盗賊や素材の情報等が貼られている。


 もちろん今の俺は討伐依頼の報告になるので、まっすぐにカウンターへと向かう。



「ようこそ、ギルド本部へ。本日はどのようなご用件でしょうか?」

「魔物討伐を行いましたので、確認をお願いします」

「はーい、では依頼書を見せて貰えますか?」



 俺は大トカゲの依頼書を受付の女性に手渡す。



「『大トカゲ』ですね。魔物本体……はお持ちでないですね。討伐部位である大トカゲの尻尾を見せて貰ってもよろしいでしょうか?」

「討伐部位……ですか?」



 よく見ると依頼書にもそのようなことが書かれていた。



『魔物本体か討伐部位(尻尾)を確認します。また、魔物本体なら買取も行います』



 つまり、魔物本体を持って帰らなくても良かった。

 受付の女性も俺が魔物を持っていないので、尻尾を持ってきたと思ったのだろう。



 この辺りは俺の勉強不足だな。魔物は討伐すれば良いものだと思っていた。



 ――いや、あれだけの量があるんだもんな。

 ティナがいなかったらまともに運べなかったところだ。



 それに魔物の数が多いのは悪いことばかりではない。


 俺たちが大量に魔物を討伐できる、ということを知れわたったらギルドに入りたいという人が出てくるかもしれない。



「いえ、討伐部位ではなく、倒した魔物を持ってきましたのでそれを確認してもらっても良いですか? ちょっと量が多いので仲間と一緒にこの建物の外に置いていますから」

「量が多い……? かしこまりました。すぐに職員のものを向かわせますね」



 受付の女性が席を立ち、奥にいた男性と話をしていた。

 そして、男性が俺の前までやってくる。



「私が魔物の鑑定をさせていただきます。その場所へ案内してください」



 男性と一緒に大トカゲの下へと向かう。

 ただ、男性は大通りに山のように積まれた大トカゲを見て、「こ、これほどの量を……」と驚きのあまり口をぽっかりと開けていた。

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