第7話 仲間はずれ

ある朝、自宅敷地の駐車場に次男の車が停まっていた。次男の車は家の前の有料駐車場を契約しているのに、妻の車の駐車スペースに停めてあったので、おそらく一人暮らしを始めて家を出た長男の車がなくなったからこちらへ移動したのだろうと思った。


だとしたら有料駐車場の解約手続きをしなければいけないので、事前に相談してほしいと妻に伝えると、また「言いたくなかった」と言われた。言いたくなかったって‥「それはよくないことだと思わないの?」と聞くと、犬のケージを相談なしに居間に追加されたから、私も同じことをしただけだと開き直られてしまった。言葉が出ない。


妻の声がだんだん大きくなって口論になりかけたので、「とにかくイヤな思いをさせたり、相談なしに物事を進めて困らせないでほしい」と伝えると、「にされていることがイヤなんでしょ」と含み笑みを浮かべたドヤ顔で言われた。

その時‥ 一瞬頭が混乱したが、子ども達を味方につけられ、意図的に仲間はずれにされていることを確信した。僕にとっては、強烈なひと言だ。


平日は朝遅めで出勤して夜は遅い帰宅のため、ほとんど家族と会わないが、最近はますます休日の食事の時間が苦痛になっている。ギリギリ聞こえる絞り出すような小声で、言いたくなさそうにご飯の用意ができたと遠くで妻が僕に向けて言う。テーブルについても誰も話してくれない。同じ食卓で、妻が楽しそうに子ども達と会話をしている。この残酷な状況は意図的に作られていたんだ。


子ども達に嫌われる理由は思い当たらないが、がそこにはある。

たとえば、クラスの中で逆らうと怖い存在がいると嫌われたくないため、その怖い存在が敵対視する人物を理由なく敵対視してしまう。その怖い存在が自分にやたら優しくしてくれれば、尚更だ。そこにという哀しい状況が出来上がる。教室や会社ではなく、管理者のいない家庭内で起きているのだ。敵対視された本人は、たまったもんじゃない。


子ども達は自分のことをすごく気にかけてくれる妻が敵対視すれば、同じように敵対視する。妻が犬の世話をせずにうるさい!くさい!しか言わなければ、子ども達もそうしていればよいことになる。犬がかわいそうなんて思わなくなるのが怖い。


子どもの頃にいじめられた記憶はあまりないが、これが「」なんだと思った。妻だけでなく、子ども達へも話しかけにくい空気を感じ、最近は向こうからも話しかけてこない。これでは子ども達まで嫌いになってしまいそうだ。自分の子どもには、人の痛みがわかる大人になってほしい。きつすぎる。自分が悪者になったようで、とてもへこむ。


妻は昔から子ども達の前では、ことあるごとに僕を見下した態度をとり、父親はダメで自分は正しいというような構図を印象付けて来た。

なので、子ども達は父親を軽視するように仕向けられて育っている。


異常な怒り方をして怒らすと面倒なことを子ども達も充分知っているので、病的なアイドル依存症や僕へのモラハラについては、そう感じても見て見ぬふりだ。

会社などの組織でなら、管理責任者が注意して調整することもできるだろうが、家族や夫婦という密閉された中では、誰も注意してくれない。


外国人ならとっくに離婚しているだろう。僕はこうして記録に残す作業で気を紛らわしたり、自分には少しだが自由な時間とネットショッピングでストレスを発散する程度の楽しみがあるので、こんな状態が何年も続いているのに、なんとかうつ病にならずにすんでいるような気がする。


・・・もっと強くならないといけない。と思うが、無意味な衝突は避けたいのだ。

とにかく、孤立感を感じる家の中でも堂々としていようと思う。ここは僕の家なのだから。


今夜もまた向こうの部屋から、大好きなタレントの動画を観て喜んでいる妻の不気味なひとり言が聞こえて来た。

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