第2話 家に救急車が来た
妻が突然、犬を家の外か2階で飼ってほしいと言う。理由はウンチが臭いから。
暑さ寒さに弱い犬種なので外は無理。2階は北側の寝室になるので、薄暗いし人の気配も感じられずかわいそうだ。それはむずかしいと伝えたが、大声を出しながら理屈責めでいっこうにあきらめない。
外や2階がダメなら、とりあえず玄関にケージを移動してほしいと言う。玄関は薄暗いし、夏冬の室温管理も心配になるが、検討する余地はあると内心思った。
家族の一員として迎えた犬なので、家の中心で一緒に暮らして行きたいと思っていた。妻の要望は、あまりにも犬のことを考えていない冷酷な仕打ちに感じてしまう。
妻は以前飼っていた犬の時代に、ほとんどの世話をひとりでしていたからという理由で、今の犬を飼うことに賛同しなかった。また、今の犬が家に来てからの2年、最初に賛同しなかったことを理由に犬の世話を一切していない。
2年前、家族全員の賛成は得られなかったが、ひとりでも世話をする覚悟で犬を迎えた。散歩で運動不足を解消する目的もあるが、いちばんの理由は自分の家なのにどこか息苦しい。空気がギクシャクしている。家にいて寂しいことだ。
深夜に仕事で疲れて帰宅すると、ケージの中でウンチまみれになっている犬を見て、掃除をしながら泣けそうなったこともある。
以前から妻は話しかけてもひとこと返事か無視。子ども達を囲い込み、僕だけを疎外しようとする行為に異常性を感じている。そこまでやるかという感覚に嫌気がさしていた。自分の意地だけで、そんな両親の不協和音を見せて育つ子ども達にとっては、マイナスの影響であることに気づかないのだろうか。
家にいる時間を少しでもリラックスできて心地よくしたい思いで犬を飼うことにしたのに、逆効果で犬がかわいそうでならない。
ウンチが臭いのは、犬がウンチをしてもそのまま放置しているからだ。家族誰ひとり片付けようとしない。妻が片付けない理由は、飼う時に賛成しなかったからだと言う。だとしてもだ。臭かったら片付ければいいと思うし、ウンチまみれになっている犬がかわいそうに思わないのか。
妻は動物のことよりも自分の意地を優先してしまっている。ウンチまみれになっていても知らんふりで、空気清浄機を強に設定してケージの前にくっつけて置き、隣りのソファでテレビを見ている姿は、まさに動物虐待だ。
妻は犬を名前で呼ばず、コレとかソレと呼ぶ。名前で呼ぶと愛着がわいてしまうからか、それとも意地悪で言っているのか。犬のことをモノとしか思っていないから、軽く外で飼えと言えるのだろう。普段から犬に対して「臭い」と「うるさい」しか言わない。ケージの中で犬が吠えて何か訴えていると、ものすごい音をたててケージを叩く。そんな冷酷で意地悪な人間の命令言葉に対して、うんそうだね、考えてみるよ。なんて、簡単には言えない。
「犬のウンチが臭うから、ちょっと考えてよ。」
こんなごく平凡な家族の日常会話のようなことが、救急車を呼ぶところまで発展してしまうことに、妻の根深い異常性を感じる。とても悲しくて恥ずかしいことだ。相談ではなく、命令口調から始まる時点で普通の会話ができない。
「ウンチが臭いって言ってるのに、どうして犬のケージの場所を変えないんだ!家族の言うことがなんで聞けないんだ!」と、途中から妻の加勢に加わったママっ子の長男には、そこしか見えていないと思う。いまだに過保護な接し方をされている長男は、妻に洗脳されているようにも感じる。また、親の僕に向かって「オマエ」という言葉を使ってしまうところがとても情けない。すごくショックだった。これは子どもの前で父親をバカにする態度をとり続けて、父親を軽視させる育て方をした妻の刷り込みの結果でもある。
長男は妻が悪いと感じる時はお互い様のような理屈で見て見ぬふりをするが、僕が悪いと思う時は妻の味方をして徹底的に攻撃して来る。哀しい。自分の思うようにならないと、大声で怒って人を従わせようとする人間にはなってほしくない。長男は妻の悪い所が似てしまっている。将来子どもができても、自分の子どもにも同じことをしないでほしい。
2対1の構図でエキサイトし、その場で希望が通るまでいっこうにあきらめないふたり。計画性を感じる。最初からケンカ口調で感情的になり大声を出すので、冷静な話し合いなどできない。
途中から見かねて中立的な立場で仲裁に入ってくれた次男が、突然キッチンで呼吸困難になり倒れてしまった。救急車を呼び大事には至らなかったが、これは面前DV。自分の感情をコントロールできない次男には申し訳なかったと思う。
次男が倒れた場所は、約20年前にまだ歩き始めたばかりの長女が手首に熱湯をあびてヤケドをした時と同じ場所であることを思い出した。あの時も妻が何かの理由で異常に怒りまくっていた。シャレにならないレベルで、病的に気性が荒い。
客観的に考えてどうしても自分が間違っているとは思えないのに、家族から「頑固で家族の言うことを聞かないダメな父親」とされていることに納得がいかない。普段はこちらの言うことをぜんぜん聞いてくれないのに。
食事と洗濯は子ども達のついでがあるが、それ以外のことは何もしてくれない家事放棄状態。数年前に思いやりとかやさしさを感じないことを伝えたことがあるが、その時も妻は無言で無表情だった。
妻は子ども達には積極的に話しかけ、笑い声を会話に混ぜて気を使っているのがすごくよくわかる。子ども達は昔と違う妙に優しい母親の姿に慣れてしまい、父親だけ蚊帳の外の状態を作り上げた。孤立させられたこちらは、家にいても息苦しくて安らげない。
誰も気付かない。誰も変えることができない。そう思った。
ひとつ屋根の下に暮らしている実感がしないのだ。
15年以上前から熱を上げている男性タレントの動画を見ては、キャーキャー言っている声が隣りの部屋から聞こえることが日常だ。怖い。あまりに過剰なため、優先順序の間違えを注意したことがある。その依存度のことを注意しているのに、「楽しみをもっちゃいけないのか!」と、必ずいいか悪いかの話にすり替えようとする。
見下したり、孤立させようとする態度を、長期的に受けている。これは「言葉や態度による嫌がらせをしたり、いじめたりする」モラルハラスメントに該当するだろう。精神的な暴力や、精神的な虐待で、このままでは、自分の健康にも影響が出てしまいそうでとても心配である。
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