-3削り節- 帝-ミカド-

 皆様初めまして、せい神門ミカド姫麻呂ヒメマロもうす元女子大生です。

 半年前に同棲どうせいしていた彼氏に振られ家を追い出された結果、このボロアパートに住むことになりました。

 元カレとは大学が同じでゼミも同じ。そんな事はよくありますし私も最初は気にしていませんでした。

 しかし周囲の女子からの嫌がらせや根も葉もない噂を立てられ、私は何もかも嫌になり大学を中退。

 今は私の事を誰も知らないこの猫田町ねこだちょうでキャバ嬢をしています。


 ポコンッ!


 あ、店長からLIME《ライメ》が来ました。

 今日は休みなんだけどなぁ。当欠とうけつでも出たのかなぁ?

 嫌だなぁ、見たくないなぁ。

 あ、バナーでちょこっと確認すればいいじゃん。


「アアアアァァァァッ!」


 既読を付けてしまった。

 案の定休んじゃった子が居るから来てほしいって書いてあるし。

 やだなぁ、返信したくないなぁ。

 っていうかそろそろ時間じゃない?

 

 私はノーメイク、スウェット&スポブラのスタイルで例の子達を待ちわびる態勢に。


「さぁ早くおいで、らいおん君……!」


 夜の世界に生きる私を癒す地域猫のらいおん君。

 この町に来て日が浅かった頃の朝、酔い潰れた私が偶々たまたまこのアパート前で出会い、偶々持っていたブラシで撫でてあげたら毎日私の部屋へ通うようになった私の天使!


「にゃ、にゃおーん」


 来 た !


 玄関の扉越しでも分かるダンディズムあふれる低音ボイスがたまらない!

 私はらいおん君がビックリしないようゆっくりと扉を開け、高級ブラシを振って部屋の中へ誘う。

 ふと見ればらいおん君の隣に今日はもう一匹猫が居た。


「ニャッ!」


「あばばばば……シュヴァルツオッドアイ君だ。猫田町地域猫のイケメンランキングで上位を争うイケ猫が一緒だぁぁ……」


 元気な声で鳴き、首を傾げるシュヴァルツオッドアイ君……。

 滅茶苦茶 あ ざ と い !

 興奮こうふんを無理やり抑えつつ、私は彼らを室内のソファへエスコートする。

 キャバ嬢を舐めるなよ天使達、私の超絶テクで骨抜きのデロデロにしてあげるんだから。


「今日は少し遅かったじゃない、らいおん君。それにシュヴァルツオッドアイ君を連れてくるなんて、私のコトお友達に紹介したくなるくらいよかったのかしら?」


「にゃふ。うなぁ〜ん」


 猫の言葉は分からないけれど、らいおん君は頷くように返事をしてくれる。

 いつもは真っ先にソファに座るのだけど、今日はご新規のお連れ様に席を譲る。

 そのまま窓辺に佇むらいおん君、超エモいんですけど。


「ナァン?」


 らいおん君に見惚みとれる私にシュヴァルツオッドアイ君は右前足でちょんちょんと触れる。


「ごめんなさいシュヴァルツオッドアイ君!まずは貴方から気持ち良くしてあげるね。ソファで楽にしてね?うん、そうリラックスして……」


 私はシュヴァルツオッドアイ君のしなやかな身体にブラシを当てて、黒く美しい毛並みを柔らかくく。

 時折彼の顎に指を当て、小刻みに指を動かしながらツボを探る。

 次第に喉を鳴らしお腹を私に向ける。

 チョロい、チョロいぞシュヴァルツオッドアイ君。

 男を落とすより簡単だ。

 らいおん君も直ぐに落ちたけれど完全じゃない。お腹はまだ見せてくれないのだ。


「ねぇ? こんな所はどうかなぁ?」


 猫撫で声で彼に話しかけた私は、シュヴァルツオッドアイ君の全てを攻略する事に成功する。


「ナァ……ナフゥン……」


 ほうけた鳴き声を上げ、ソファから微動だにしなくなったシュヴァルツオッドアイ君。

 それを見た私は、らいおん君に膝をトントンと叩きアピールしてみせる。

 さぁ次は君の番よ、らいおん君。

 今日こそ猫田町のナンバーワンキャバ嬢、神門……否、ミカドのテクで陥落かんらくさせてあげるわ。

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