勉強会

「それにしてもルシウスが属性付きの身体強化まで使えるなんてなぁ」


「ホントホント! あれすっごかったねぇ! バチバチィ!! って感じで!」


「さすがルウです。」


 レウス、レーナ、マリーは模擬戦について振り返っているようだ。それ自体はいいことなんだけど、途中から俺の魔法の話ばっかりになってるな。


「エリー、あの三人どう思う?」


「どうって一般的な話? それとも部隊の話?」


「部隊の話だよ」


「やっぱり三人ともSクラスに入っただけあって実力は高いと思うわよ。それに人柄も私は嫌いじゃないかな」


 エリーは好きって表現をあまりしないな。嫌いじゃないって言い方をするけど、多分好きって言葉を口に出すのが苦手なんだろう。幻のツンデレの素質があるかもしれない。


「そうか。俺もみんなの印象良かったんだよな。それに勧誘が遅くなればなるだけ訓練も遅くなるし、もう誘っちゃっていい気がしてる」


「いいんじゃない?」


 軽いな。まぁでもこれで副隊長のお墨付きももらったし、勧誘してみるか。


「なぁみんな、ちょっといいか?」


「なんだいなんだい? 僕になんでも聞いてよ!」


「何でレーナに聞くんだよ。みんなって言ってるだろ……それでどうしたんだよ?」


 このメンバーなら楽しくできそうだな。訓練は厳しいかもしれないけど、まぁこいつらならなんとかやってくれるんじゃないかと思う。


「俺さ、最近できた白雷隊アルベドに入ってるんだけど、みんな入ってくれないか?」


「微妙に隠すのやめなさいよルウ。えっとね、ルウが隊長で私が何故か副隊長をしてるの。あとは隊員がもう一人いるわね。」


 三人が驚いて、顔を見合わせている。表情からはどうなのかよく分からないけど、入ってくれるといいなぁ。


「それ本気か?」


「私で良いのでしょうか?」


「はいはい! 僕入りまーす!」


 一人は即答で確定した。レーナは明るくていいな。グループに一人いると場が和んで非常に良いと思う。そして一人入る意志を示せば他も早かった。


「あ、レーナずりーぞ! 俺も! 俺も入るぞ!」


「私も入りたいです」


「よし。じゃあ決まりだな。改めてよろしくだ。」


 エリーもそうだったけどこの三人も貴族みたいだし、色々あるのかもしれないな。長男でも長女でもないみたいだし、家は継げないとなれば目指す先はみんなそう変わらないってことか。


「最近俺の研究室でエリーとアリスって子に魔法教えてるんだけど、みんなも今日から来てほしい。勿論授業が終わってからでいいから」


「行くに決まってるだろ!」


「僕も行くー! ルウに魔法教えてもらってあのバチバチィってのやりたい!」


「分かりました」


 みんな意欲的で良い子だな。ただレーナは確か土属性が得意って聞いた気がするぞ。身体強化の詠唱もそれっぽかったし。属性はまださすがになかったけど。まぁこれで、やっと白雷隊アルベドが本格始動できそうだ。



「じゃあまずはみんなこれをしっかり読んで頭に入れてくれ。エリーにも使ってもらった俺特製の教科書だ。あ、そうそう。これはエリーもまだだからまとめて教えるけど、詠唱破棄も覚えてもらうからな」


 深淵アビス相手に詠唱なんてしてる暇はまずない。相手が遊んでいれば待ってくれるかもしれないが、そんな希望的観測で詠唱破棄を放棄するのはバカのやることだ。俺は隊員全員が詠唱破棄できるようにするつもりである。


「詠唱破棄!? それルウがやってたやつだよね? 僕やりたーい!」


 レーナのやる気は本当にすごいな。こういうのは周りにも影響するし、とてもいい環境になりそうだ。レーナにはその調子でこれからも頑張ってもらいたい。


「なんか……俺は自分が新設されたばっかの部隊にいることがまだ信じられねぇぜ」


 隊員もみんな学園の生徒だし、アリス除けばみんなSクラスだしな。代わり映えしないから仕方ない気もする。だけどまぁ仕事はしっかりやらんとな。


「まぁ詠唱破棄はもう少し後だな。とりあえずその教科書をある程度理解するのが先だ。エリーはみんなが追いつくまで魔法改変でもして待っててくれるか?」


「ええ、分かったわ」


「魔法改変……ってなんでしょうか?」


「そのままの意味だよ。それもその教科書を読めばわかるさ」


 この言葉を聞いてSクラス三名+アリスの目の色が変わった。周りのことなどまるで見えないとばかりに教科書をこれでもかと睨みつけている。そんなに握りしめないでも誰もとらないんだがな。


「あ、そうそう。白雷隊アルベドで教えることは全て機密になる。その教科書もな。だから持ち帰ることは許可できない。写本もダメだ。読みたい時は必ずここで読んでくれ」


 みんなものすごい勢いで頷いている。よしよし、守秘義務は守ってくれそうだな。これが漏れたら正直どうなるのか予想もできないが、良くないことだけは分かる。


「今日はとりあえずそれをしっかり読んでくれ。細かい説明とかは明日からな」



「お前らどうしたんだ? たった一日で随分変わったな……?」


 今日も昨日に引き続き対抗戦のための模擬戦中だ。昨日あの後、家に帰ってから夜遅くまで魔法改変をやっていたんだろうな。みんな目に隈ができている。

 ただ成果は出ているようで、魔力の無駄はかなり少なくなっているようだ。それに威力も少し上がっている。エリーの魔法も更に磨きがかかっているな。


「ふふーん。これが僕たちの実力だ!」


「調子にのるな」


 レーナがアドルフ先生に拳骨を受けている。日本ではもうこんな光景もなくなっていたな。俺はやり過ぎなければ必要なこともあると思っていた側の人間だから、この先生のやり方は嫌いじゃない。


「良くなったとは言ったが、まだヴァルトシュタインに一撃も入れられてないだろ」


「でもよー……実際ルシウスに一撃あてるのは無理だろ。隙なんかどこにもないぜ」


「ヴァルトシュタインが本気を出したら無理かもしれないが、そうじゃない。さっきも惜しかっただろ?」


「みんなかなり良くなってる。もう少しだと思うぞ」


「ホントー!? よーし、がんばるぞー!」


「見てなさいよ。私が最初にルウに一撃入れるんだから」


「ルシウスにまで言われちゃしゃあねぇな。頑張るとするか」


「私ももっと頑張ります」


 そうだそうだ。今はまだ深淵アビスレベルなんて求めちゃいない。一つずつ確実にモノにしていってくれれば、それが深淵アビスに届く道に繋がってるはずだ。


「よし、分かったようだな。お前らもう一回やるぞー。レーナ、さっきのフェイントは悪くなかったぞ」


 確かにあれは良かった。これまで一直線だったレーナがフェイントをいれたんだ。まだ粗が目立ってバレバレだったが、その考えに至ったのは良い傾向だと思う。


「へへへ!」


 みんなもレーナに対抗心を燃やしていい連鎖になっている。これは対抗戦の相手が可哀想な結果になるかもしれないな。

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