模擬戦
「今日ははじめての授業ですね、エリーさんや」
「それはルウだけよ……なんでたまにそんな変な話し方するのよ?」
「まぁまぁ。気分だよ気分」
未だに同じクラスの人と会ったこともないし、
「おはよう。俺はルシウス、よろしくな」
「あんたがルシウスか。噂は聞いてるぜ。俺はレウスってんだ」
試験の時のことだろうな。まぁSクラスとはいってもエリーより実力は劣るだろうな。魔力検査も黒はエリーと俺だけだったみたいだし。すぐに黒になるだろうけどな。
「ここに顔を出したのは初めてだよな?」
「あぁ、ただクラスメイトの顔も見たことがなかったからな。友好的な関係を築こうとね」
「なるほどなるほど。そりゃこっちこそ是非お願いしたいな」
「あー! レウス抜け駆けかー!」
「見過ごせませんね」
Sクラスの残りの二人が揃って到着したようだ。どちらも女の子のようだけど、女の子のほうが多いのか。魔法は女のほうが潜在的に向いてるとかあるのかな。
「クラスメイトのルシウスっていうんだ。よろしくな」
「よよよ、よろしく! ボクはラレーナ! レーナでいいよ!」
「私はマルグリットと申します。よろしくお願いします。私のことはマリーと呼んでいただければ嬉しいです」
レーナは少し緊張してるのかな。赤茶のショートヘアが似合う元気な子だ。こんな子が部隊にいると明るい雰囲気になりそうだ。
マリーはザ・お淑やか。深い蒼の腰までかかる髪がとても綺麗だ。歩き方一つとってもすごく整っている気がする。かなりの上位貴族なんじゃないだろうか。
レウスは薄い翠色の短髪。正に戦士って風貌だ。男はレウスだけだから仲良くしたい。このままだと女が強くなりすぎてしまうからな。男同士の同盟が必要なのだ。
「わかった。レーナにマリーだな。俺のことはルウって呼んでくれ」
「ホームルームはじめるぞー。席に着けよー。」
クラスメイトと自己紹介をしていると無精髭を生やした男が入ってきた。台詞から察するにあれが担任か。見た目や雰囲気はそこらのおっさんだが、確か教師の中で一番魔力が高かったな。実力は確かなんだろう。
「なんだ、ヴァルトシュタインもいるのか。初登校だな」
失礼な。研究室に行っていただけで登校はしていたとも。断じてサボりではない。
「確かにここに来るのは初めてですね」
「ははは。分かってる分かってる。年頃だもんな?」
何が分かったのか。この男は阿呆なのだろうか。
「睨むな睨むな。研究室にいたんだろ? 冗談だ。俺はアドルフ。先生と呼べよ」
こういう軽い奴の冗談は分かりにくい。普段からずっと冗談を言っているようにしか聞こえないからな。いや、もしかして本当にそうなのかもしれない。
「よし、全員揃ってるな? さて、来月は新人対抗戦があるのは知ってるな?」
知りませんけど……ってみんな頷いてる? 知らないの俺だけなの?
「一名を除いて全員知ってるようだな」
バレてら。いいんだよ別に。今知ったから。
「対抗戦は各国の偉~い人も来るからな。まあお前らは仮にもSクラスだからメンバーには選ばれるだろうが、気を抜くなよ」
「なぁエリー」
「何?」
「対抗戦ってどことやるんだ?」
「帝国と法国、他にも小さな国がいくつか出てくるわね」
帝国……? 偉い人って絶対俺のこと知ってるよな……やばくね?
「あのー……その対抗戦メンバーって辞退はできます?」
「あぁ? んなのさせるわけないだろうが」
ですよねー……どうしよう。いっそすっぽかしてやろうか。いや、ダメだな。みんなに迷惑かけることはしたくない。とはいえ事情が事情だしなぁ……
「それでだ。それまでに少しでも実力を上げるために、今日から模擬戦をする。」
あれ、何故だろう。嫌な予感がする。こう首のあたりがムズムズする感じ。
「組み合わせはヴァルトシュタイン対その他な」
なんでやねん。いや確かに一対一じゃ練習にならないかもしれないけどさ。一対四の練習なんか意味あるのか?
「対抗戦は六人が一人ずつ戦うのはヴァルトシュタイン以外は知ってるな」
俺はもう知らない前提で話が進んでいる。解せぬ。まぁ実際知らないんだが。というか一人ずつ戦うなら、ますます一対四の意味がわからん。
「ヴァルトシュタイン相手に訓練してればそれ以上の敵はそうそう出てこないだろ。ってことでヴァルトシュタインを仮想敵に見立てて訓練だ。ヴァルトシュタインの攻撃を捌いてちゃんと攻撃できるようになれば上出来だ。ヴァルトシュタインは手加減しろよ? 試験みたいな魔法使ったら死人が出るぞ」
なるほど。もちろん手加減はするが、俺の魔法を防いで攻撃に転じれるようになれば大体の相手はなんとかなりそうだ。俺はある程度実力は抑えないといけないし、みんなに頑張ってもらわないとな。てか帝国は俺のこと知ってるからなんかしてきそうな気がする……さすがにそれは俺が対処しないとダメだろうなぁ。
「せんせー、質問があるんだけど」
「なんだレウス」
「ルシウス一人で勝てる気がするんだけど」
「そうかもな。だが相手にもヴァルトシュタインみたいなのがいたらどうする? それに勝てるからってお前らは今のままでいいのか?」
「え、あーそれは……」
「まぁそういうことだ。お前らも魔術師隊に入りたいだろ? せっかく国のお偉いさんがわざわざ見にきてくれるんだ。無駄にするなよ」
適当に見えるけどちゃんと考えてくれる先生なんだな。みんなも先生の言葉を真剣に聞いてるようだ。まぁ俺は全力出す気ないっていうか出したら大惨事だから絶対出さないけど。まぁそれでもSクラスに相応しい実力くらいは出すつもりだ。
「んじゃそろそろいいな? 訓練場に移動するぞー」
◆
「それじゃ分かれて始めてくれー。ヴァルトシュタインは殺さない程度に攻撃、他は死ぬ気でヴァルトシュタインに一撃入れることを考えるんだぞー」
みんな真剣に構えてるな。みんながやる気なのはいいことだし、真面目にやるか。まずはレウスと……レーナ? レウスが剣なのはイメージ通りとして、レーナは拳闘士なのか。
「硬く、硬く、硬く。何者も貫くこと叶わず。重く、重く、重く。超重量の拳は悉くを打ち砕く」
『
身体強化もできるみたいだな。魔法式は……こんな感じか。
魔法属性=無
形状=纏
持続魔力=20
強化=100
魔力=2500
速度=100
なかなか無駄が少ない魔法式だな。強化値はまだまだだけど魔力量と魔力制御を上げていけば身体強化を主に使ってるレーナは深淵と戦うのに向いてるかもな。
『
レウスもほぼ同時に身体強化を詠唱していたな。レーナとは少し魔法式が違うみたいだ。
魔法属性=無
形状=纏
持続魔力=20
強化=150
魔力=2900
速度=50
レウスは少し攻撃寄りだな。魔力消費はレーナよりは少し無駄になっているが、まぁそんなに悪いってほどじゃない。それに二人とも持続魔力は最低値になってるのはすごいな。
この二人を前衛に他が後衛から遠距離魔法を使うって感じかな。さすがに生身はきついから少し強化はしておくか。
『
魔法属性=雷
形状=纏
性質=麻痺
魔力減衰=2
持続魔力=50
強化=500
魔力=25000
速度=500×2
みんなに比べると結構強めの魔法式にした。四人相手だし。これでも十分すぎるとは思うけど。
「詠唱破棄!?」
レーナよ、戦闘中に驚いている暇はないぞ。レウスは驚いて……るな。声に出してないだけか。
「何だよそれ! めちゃくちゃカッコいいじゃねーか!」
見入ってただけか……白雷が気に入った様子で斬りかかってくるレウスの剣を横に逸らして、レーナの拳を右手で受け止めた。そして掴んだまま後ろへ無造作に放り投げた。
「あばばばば」
レーナが壁に向かって飛んでいく……ってしまった。レーナ麻痺ったままじゃん! ……まぁ身体強化してるし大丈夫か。
レウスは一瞬そっちに意識を向けたみたいだけど、すぐに切り替えたな。
そしてマリーの詠唱が終わったようだ。二人は時間稼ぎとしては悪くなかったかな。あとはマリーの魔法次第だけど……
『
水の上位にあたる氷属性か。マリーもSクラスだけあってなかなかやるようだ。俺の周囲に魔力が形成されていくのを見るに
『
マリーが不発に終わった自分の魔法を見て呆然としている。そしてレウスが振り抜いた剣も空を斬っている。レーナも戻ってこようとしていたが、俺を呆然と見上げている……ってあれ? みんなもしかして飛べないのか? ってエリーの魔法がもう完成するじゃん!
『
ここ数日で見慣れた炎猫が俺に向かって空を駆けて来る。そりゃ精霊なんだから空くらい飛ぶか。まぁでもこの程度でやられてやるわけにはいかないな。
『ウォーターボール』
魔法属性=水
形状=球
魔力減衰=2
発動数=1
威力=5000
魔力=2600
速度=100
誘導=100
俺の目の前に形成された水球が炎猫に向かって飛んでいく。
「避けて!」
エリーは回避させようと炎猫を横に跳ばせたようだが、誘導100のウォーターボールは少々的が動いた程度、難なく追尾する。
そして炎猫へと着弾し、そのまま包み込んだ。炎猫は少しの間、水球の中で藻掻いていたが、そのまま消滅してしまった。
「
ちょっと防がれたくらいで惚けてたらいかんぞ。反撃くらったらどうするんだ? 例えばこんなのとか。
『
エリー、レウス、レーナ、マリーが上空から突如落ちてくる洪水を呆然と見つめて、そのまま流された。
……っておい。せめて防御しようとしないの? 何で成すがまま流されてるんだよ……うん、分かった。魔法の使いどころが分かってないのと、実戦経験が圧倒的に足りないってことだな。
よし決めた。
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