入学試験

 エリーはどんな魔法を使うんだろうか。さっきまでの受験生は予想はしていたが酷いものだった。初級の魔法書より少しマシ程度の魔法ばかりで見るのも辛かった。あのレベルを演技しろと言われなくて本当によかった。あんなのは逆にしんどいぞマジで。


「燃える火の輪に煌めくは、雄々しき獣の鋭牙。全てを灰に変える炎猫えんびょうは揺らめく熱と踊る」

踊る炎猫イグニス=カッツェ


 詠唱は有りか。踊る炎猫イグニス=カッツェって魔法は知らないな。というか基本改変のオリジナルばっかりで一般的な魔法はあまり知らないんだけどな。魔法名通り炎が猫を象ってるな。あれは猫を象っているだけなのだろうか。魔法式はどうなってるんだろう。


踊る炎猫イグニス=カッツェ

魔法属性=火

性質=精霊

精霊格=50

覚醒=50

発動数=1

魔力=5000


 性質と精霊格、覚醒は使ったことがない魔法式だ。猫っぽい式は無いな。精霊格50の火の精霊があの炎猫ってことか?ということはあれは猫を象っているというよりは猫の精霊ってことかな。なかなか面白い改変ができそうだ。精霊格は計算式にどう入るんだろうか。まぁそれも要確認だな。まぁぱっと見る限り精霊格×覚醒×発動数で魔力消費最低値は2500ってとこかな。


 エリーの召還した炎猫は踊るように的に向かっていった。そして爪で引っかいた。表現は可愛いが大人と変わらない大きさの猫が繰り出す引っかきだ。虎に引っかかれるのを考えれば恐ろしさが分かるんじゃないだろうか。しかもその虎は炎に包まれているのだ。切り裂かれると同時に燃やされる。


 召還魔法だから一撃で終わりではないんだろう。炎猫が数度爪で切り裂いて的はズタズタになって燃えている。すぐに燃え尽きてしまうだろう。エリーが指を鳴らすと炎猫はスッと消えていった。召還時間はまだありそうだったな。


 面白いな。エリーは有象無象の似非魔術師とは違うみたいだ。詠唱破棄を覚えれば詠唱の隙もなくなるし召還は使い勝手が良さそうだな。


「あれがエマニエルの炎魔法か。あれ精霊だよな? さすがに深紅の炎クリムゾンブレイズのエマニエルは別格だな」


「あれが同い年って詐欺だろ? ホント嫌になるぜ」


 周りの反応からもエリーは頭一つも二つも抜けているようだな。ていうか深紅の炎クリムゾンブレイズってなんだよ。エマニエル家の称号みたいなもんか?中二病全開だなこの世界は。


 まぁ俺もそれに乗っかってるわけだが。いいんだよここには誰も笑うやつはいない。むしろ日本の感覚で中二病にならない魔法名ってなんだよ?言ってみろよ。炎の玉飛んでいけとかか? それこそこの世界だと笑われちまうぜ。つーか言霊ってあるんだよマジで。自分に合わない魔法名を使うと魔力効率も威力も大きく下がるんだよ。しかも魔力制御まで不安定になるんだぞ。詠唱はやっぱりいらない派だけど魔法名はマジで重要なんだよ。言い訳じゃないんだからね。


「さすがですね。次は魔力測定です。この魔水晶に手を翳してください」


 教師は感嘆はしているようだが驚いてはいない。エマニエルならあれくらいできるだろうということか。エリーが魔水晶に手を翳すと水晶が白に光り、緑、青、赤へと変わる。赤が少し濃くなっているが黒には変わらない。


 エリーでも赤なのだろうか。それともまだ成長途中だからだろうか。と思ったら黒に変わった。黒以上はないから一般的に見れば母さんと同じに見えるんだろうな。ギリギリで黒に変わったのを見ると黒と赤の境界は80000くらいかな。まぁまだ五歳だしエリーの魔力はまだまだ成長するだろ。それに魔力消費5000の魔法制御ができるのはなかなかだと思う。いくらか無駄にはなってるだろうけど。


「黒ってまじかよ! 前に黒が出たのっていつだよ!?」


「前に黒が出たのは20年以上前だよ! 元宮廷魔術師で今はヴァルトシュタイン男爵に嫁いだリエル様!」


 母さん!そんなに有名だったのか。まぁ宮廷魔術師なんかしてたら有名にもなるわな。にしても20年も前って黒って相当出ないんだな。


 それはそうと一般的な魔力を知ろうと思って受験生と教師を調べてみた。それぞれ受験生が魔力1000~5000、教師が魔力40000~60000程だった。教師が全員エリーより低いこともそうだが受験生低すぎだろ。うちにある初級の魔法書のウォーターボール数発しか撃てないって何の役にもたたないじゃないか。いや、飲み水にはなるか。訂正します。水筒にしかならないじゃないか!


「……エリーゼ=エマニエル、合格です」


 そりゃそうだろうな。エリーがダメならみんな落ちるんだから。ていうか教師以上の実力を示したエリーを落とすわけがない。


「次はルウよ」


「ああ。それはそうとおめでとう、エリー」


「あら、ありがと。でもその言葉よりあなたの実力が見たいわね」


 俺の本当の力をご所望か。いいだろう、見せてやろう!ってわけにはもちろんいかない。学園長の庇護は得られたけど率先してひけらかすつもりはない。まぁ単体で的があれだから威力はそこそこ出しても問題ないかな。


「まぁ見ててくれ」


 さて、何を使おうか。まっやっぱり好きな魔法かな。単体用だが、まあ一応人が近くにいないことは確認済みだ。


雷神の大槌トール=ハンマー


魔法式は勿論それなりに抑えてある。

魔法属性=雷

性質=麻痺

発動数=1

威力=10000

魔力=10600

速度=500

誘導=100


 威力は母さんの入学時よりかなり高いけど、単体魔法だからパッと見はバレないだろう。どうせならあの的を完全に破壊してみたいしな。速度は属性によって同じ値でも全く違う。火に比べると雷は恐ろしく速い。元々速いからそういう性質なんだろう。


 代わりに水のように速度がそのまま威力に直結することもない。誘導は雷だから本来金属とかに飛びやすい。つまり剣とか持ってるのが周りにいるとどこに飛んでいくか分からないのだ。誘導を100にすることで正確に対象に飛んでいく。ちなみに誘導は100以上にしても違いがあまり感じられなかったので100が上限なのかもしれない。まぁ雷避けるとかあり得ないだろ普通に考えて。


 俺の手の前に瞬時に魔法陣が形成される。そして瞬くような光とともに極太のレーザーのようないかづちが射出された。アニメとかでたまに出てくるような荷電粒子砲レールガンをイメージしてもらえばわかりやすいだろうか。


 轟雷が射出されていたのは時間にして数秒、しかしその効果は歴然だった。的なんて跡形もない。そして修練場の壁に穴が空いて……穴? 穴が空いているー!? し、しまった。まさか魔法を訓練する場所の壁があんなに脆いなんて……後ろに誰かいなかったか!? あ、人がいないことは確認したんだった。いやでも修練場! 学園の! やばいどうしよう不合格にならないだろうか。と思いながら恐る恐る周りを見た。全員はじめて俺の魔法を見た家族のような顔をしていた。


 そして試験監の教師は口を大きくあんぐりとあけて今にも目が飛び出そうな程驚いている。これは学園に損失を与えたことに対する顔だろうか。それとも魔法に驚いただけだろうか。後者だといいなぁ。ていうか修練場が王都の端でよかった。それでも遠くの森まで一部消し飛んでいるような気がする。さすがにあそこまでは見てないぞ……人、いなかったよね? 信じるよ? この年で人殺しにはなりたくないよマイマザー。

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