ブラッドオーガと白の砲
「くそ! なんでこんなところにブラッドオーガがいるんだ!」
「シーラ! お前はギルドに報告に行け! こいつは俺が抑える!」
ブラッドオーガなんて冗談じゃない。Aクラスの化け物なんか相手にできるわけないだろ。俺はここで終わりだろう。でもせめて若いシーラだけは逃げてほしい。そしてギルドに報告してくれればあの人が倒してくれるはずだ。被害は出るだろうが、このままじゃ王都が半壊してしまう。来月には子供が産まれるはずだったんだがな……俺は成長を見守ってやれないみたいだ。
「でも! ギルを置いていけない!」
「いいから行け! 後からすぐに追いつく! 早くしろ!」
後から追いつくなんてのは嘘だ。動きはなんとか見えるが一撃が半端じゃない。たった一発も受けられない状況だ。それにあの巨体。五メートルはあるか、あいつの一歩が俺の何歩分だってんだよ。しかもあの巨体で身体強化の魔法まで使うんだぞ。だがお前は討伐される。王都の冒険者をナメるなよ。冒険者にだって化け物はいるんだ。
「……絶対に後から追いついて!」
「あぁ、任せておけ」
これが俺の最後の戦いだ。王都には俺の子を身ごもった妻もいる。絶対にいかせやしない。首だけになっても喰らいついてやる。ブラッドオーガが振り上げた腕。まるで大木じゃないか。せめて、せめてシーラが逃げる時間だけは!
その時だった。突然視界が白に染まった。いや違う、これは恐らく魔法だ。オーガを包み込む程巨大な白の砲がすぐ目の前を埋め尽くしているんだ。その白の砲が通り過ぎたのは時間にして数秒だったと思う。バチバチと弾けるような音をさせながら何事もなかったように元の景色が戻ってくる。いや、大地や木々が白の砲の形に抉られた景色だ。そして抉られた大地には首から下が消滅し、ブラッドオーガの振り上げた腕と首だけが転がっていた。
「はぇ?」
駆け出そうとしたシーラが間の抜けた顔で固まっていた。というか俺も固まっている。今の光はなんだ?あの堅くて刃の通らないブラッドオーガの体を……。いや、あれ程の魔法を俺は過去に一度だけ見たことがある。Sクラスの冒険者が使っていた魔法に近かった。ということは王都にいるあの人だろうか。しかしあの人は水系統の上位属性、氷魔法を得意としていたはずだ。あの白の砲の属性はよくわからなかったが水や氷には見えなかった。なら一体誰が?
「助かった……の?」
シーラも状況を飲め込めてきたようだ。俺たちは窮地から何とか命を繋いだ。いや、繋げてもらった。そして王都にも被害はない。森は少し抉れてしまっているが、ブラッドオーガが出したであろう被害に比べればなんてことはない。
「そうみたい、だな。」
「うぅ」
「う?」
「うわぁぁあん! 怖かったよー! ギルが! ギルが死んじゃってー!」
「ま、待て待て! 俺は生きてるぞ! 来月には子供も産まれるんだ! 死んでたまるか!」
「……あれ、ホントだ。ギル生きてる」
まだ混乱しているようだな。全く、せっかく命を繋いだのにあっさり殺さないでほしい。それと脅威は去ったが、念のためギルドには報告しておかなければいけないな。
「ギルドに報告しに行くぞ」
「うん!」
◆
「ブラッドオーガですか!?」
まぁそういう反応になるだろうな。だがまぁもうブラッドオーガはいないんだ。本当に良かった。
「ああ。もう死んだけどな。何か森に異常が起きているのかもしれないから調査をしたほうがいいと思ってな」
「ギルさんが倒したんですか!?」
「そんなわけないだろ。俺にブラッドオーガは倒せない」
「では一体誰が?」
なんと言うべきか。ブラッドオーガが死んだのは見たし首も持っているんだが、倒した張本人は見ていない。あの後周辺を確認したが誰もいなかった。白の砲の危険を感じてか普通の魔物すら全くいなくなっていた。まぁでもそのまま伝えるしかないよな。
「誰かは知らない。戦闘に入る直前に突然、多分魔法が飛んできてブラッドオーガを殺したんだ。これがブラッドオーガの首と腕だ。」
「これが……いえ、魔法が飛んできたとは? 術者は見なかったんでしょうか?」
「周辺を探してみたんだが、誰もいなかったんだ。というか魔法の跡が王都まで続いていた。王都から誰かが魔法を使ったんじゃないのかと思っていたんだが。」
「王都からですか!? そんな超遠距離魔法だったんですか!?」
「そうだ。最初はミリアーナさんだと思ったんだが、あの魔法は水でも氷でもなかった。だから誰か他のSクラスが王都に来たのかと思っていたんだが……」
「今王都にいるSクラスはミリアーナさんだけですね」
「だよな。来てたら噂になってるはずだしな」
「なら一体誰が……」
「それなら心当たりがある」
「ミリアーナさん!」
ミリアーナさんに心当たりがあるということは知り合いなのだろうか。しかしSクラス以外であんなことができるやつがいるのか?
「心当たりとはどなたでしょうか?」
「その時間、魔術学園で入学試験をしていたな」
「ええ、多分していたと思いますが、それが何か?」
「その魔法は魔法学園から放たれている」
「魔法学園……シルフィア様ですか!」
「いや、あの魔力はシルフィアではなかった」
魔法学園から放たれた、確かに言われてみればあの方向には魔法学園がある。それに王都から放たれたのだとすれば端からだ。中央から放てば間にある建物も諸共消え去っているだろうからな。そう考えれば確かに魔法学園しかない。しかしあそこの学園長でないとしたら一体誰が?優秀な魔法使いが多く在籍しているようだがいくらなんでもあの魔法が使えるとは思えない。
「でもシルフィア様以外にそんな魔法が使える人なんて……」
「そうだ。誰も知らないしそんなやつがいれば話にあがらないはずがない。」
「それなら……」
「入学試験をしていたと言っただろう。つまりその受験生の誰か、だろう」
「なるほど! っていくらなんでも入学前の子にそんな魔法は無理ですよ! 十歳ですよ? というか最上級生にも無理ですよ!」
理にはかなっている。とはいえいくらなんでも信じられない。前宮廷魔術師ならもしかしたらと思わなくもないが、彼女は今日試験を受けていないだろう。
「もしかして……
「その可能性があるというだけだがな。水でも氷でもないのだろう? 彼女はどちらでもない」
確かにあれは水でも氷でもなかった。しかし火だったかと言われるとそれも違う気がする。あのバチバチと白い雷のようなものが……雷? あれは雷か? これまでの違和感がまるでない。あれだけ分からなかったのだが、雷と気づいてしまえばそれしかないという気さえしている。
「ミリアーナさん、あの魔法は恐らく雷だと思う」
「何だと? 雷魔法なんて聞いたことがない。確かなのか?」
「さっきまでは何かわからなかった。水でも氷でもない、そして火とも違う気がする。なら地か? 風か? と言われればそれも違う。だから分からなかったんだが、雷と考えるとしっくりくるんだ。これしかないというくらいに」
「……魔法学園に確認する」
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