エリーゼとの出会い

 いよいよ明日が魔法学園の入学試験だ。かなりわくわくしている。ちなみにあの日から力をセーブ、もとい一般的なレベルを母さんとミーアにみっちりと教えてもらった。


 魔力測定では恐らく最上位の黒が出るから必要以上に実力を隠す必要はないけど出し過ぎないようにという目的だ。基本的には母さんの学生時代がどのくらいだったのかを聞いて、それと大体同じくらいにしようという結論になった。ちなみに入学時点の母さんの魔法式を見せてもらったらこんな感じだった。


乱気流タービランス

魔法属性=風

形状=刃

発動数=1

威力=2500

魔力=6000

速度=400

誘導=100


 魔力消費が最低値の倍になっているが、それでも魔法書にあった超効率の悪い初級魔法とは雲泥の差だ。消費が多くなっている分無駄になっている数値は大きいが割合が大きく減っている。魔法書はものによって同じ魔法でも魔法式が少しずつ違う。より良い魔法書を魔法使い達は求めるわけだが、母さんはなかなか良い魔法書を手にいれたのだろう。魔法の才能だけに溺れず魔法式も良いものを手に入れた。だから母さんは国でも有数の魔法使いになれたんだろう。まぁ俺は自分で改変するから魔法書なくてもいいんだけど。


 とりあえずはこのくらいのレベルの魔法を使って少しずつ成長していく流れでいこうと考えている。それに学園のトップには母さんが話をつけてくれているみたいだし、まぁなんとかなるだろうとも思っている。さて、学園生活の始まりだ。



 王都には朝早くついた。元々王都からそんなに離れておらず、馬車で数時間だった。白雷で走れば多分数分じゃなかろうか。まぁ兎に角王都に着いたので魔法学園に向かう。ちなみに家が近いので普通に毎日家から通うつもりだ。ホームシックにはならないですみそうだ。


「入学試験を受けに来ました」


 学園の入り口の試験受付にいる人に話しかけた。黒髪の男だ。学園の教師だろうか。特徴のない、というかなさすぎる顔をしている。少し目を離したら忘れてしまいそうだ。


「はい。それではここに名前を記入してください。記入が終わったらそこの修練場に進んでください」


 ルシウス=フォン=ヴァルトシュタインっと。横文字は長いなやっぱり。試験は練習通り手を抜いてすごく優秀くらいに落ち着かせよう。貴族の遠回しな言い方とかやり方とか分からないから下手に寄ってこられると本当にいつの間にか取り込まれてるってことになりそうだからな。


 それにしてもかなり多いな。体育館みたいな場所に受験生がすし詰め状態だ。奥に的らしきものがあるが、あそこに魔法でも撃ち込むんだろうか。魔法に対する耐性はあるようだけど壊れないんだろうか。


「それではこれで入室を締め切ります。名前を呼ばれたら前に出てきてください」


 わかってはいたがこの人数の前で試験するのか。本来の実力を出せないやつもいるだろうに。まぁ本番で実力を出せないようじゃダメってことかな。


「ねぇ、ねぇったら! 聞いてる?」


「ん? なんだ? 聞いてなかった」


 考え事をして聞いていなかった。隣の女の子に話しかけられていたようだ。小声で叫ぶ器用な話し方をする子だな。


「もうっ! 無視されてるのかと思ったわよ」


「悪い悪い。ちょっと考え事をしててな」


「ふぅん。まぁいいわ。私はエリーゼっていうの。あなたは?」


「俺はルシウスだ。まだ受かるかわからないが、受かったらよろしくな」


「ルシウスね。私のことはエリーでいいわ。あなたはルウでいい?」


 カレーのルウみたいだな。まぁこの世界にカレーのルウはないからどうでもいいんだが。それにしてもルウか。ルシウスって名前愛称つけにくいなと思ってたけどルウは悪くないな。短くて呼びやすいし音も嫌いじゃない。


「もちろんいいよ」


「あなたは落ちそうにないわね」


「どうしてそう思うんだ?」


「だってあなたの魔力、ここにいる誰よりも多いでしょ?」


 なんですと。もしや魔力が漏れて……ないな。一応簡単な偽装もしているはずなんだが。何故バレたんだ? いやちょっとまだ入学もしてないうちからバレるとかどうしようマジで。


「ふふふ。焦らなくてもいいわ。別に言いふらす気なんてないから」


 一体何が狙いだ? ちょっと可愛くて綺麗な朱い髪だからって簡単には騙されないぞ。


「わ、怖い顔しないしない! ないから! なんにもないから! ただすごそうだから一緒にいたらお得かなーっと思ってね。それだけよ?」


「なるほど」


 まぁ分からないではない。虎の威を刈る狐ではないが強い者といるメリットはそれなりにあるだろう。俺も可愛い子といれるメリットが、って違う!危ない、なんて巧妙な罠を仕掛けてくるんだ。五歳で色仕掛けとか親はどんな教育をしているんだ!とても気になります。


「まぁわかった。ちなみにエリーは貴族か?」


 貴族はわかりにくい遠回しな言い方ややり方をするのが定番だ。お茶会に誘われてただお茶しにいったら陣営に引き込まれたことになってるとか訳の分からない独自ルールがあるに違いないのだ。仲良くしてたら派閥に入ったと見なされることもあるかもしれない。貴族かどうかは確認しておかないとな。


「へ? ぷ……ぷははは! なにそれいきなり!」


 あれ、なんか笑われてしまったぞ。何か変なことを言っただろうか。貴族かどうか聞くのは変だったのかな。


「だ、だって、貴族か? なんてド直球なこと普通聞かないよ! それにこの学園じゃ貴族位を誇示するのは禁止されてるしね」


 禁止? そうなんだ。まぁでも禁止しても気にしないやつはいるだろうしな。警戒はせねばいかん。まぁでもエリーは貴族かはまだ分からないけどあんまり貴族っぽくないな。話し方とか。


「わ、悪かったな。ちょっと色々と警戒してるんだよ」


「ええ。わかるわよ。あなたの魔力を視たら余計な虫がわんさか集まってくるでしょうしね。あ、ちなみに私は一応貴族よ。エリーゼ=フォン=エマニエルよ。父は辺境伯よ」


 うーむ、俺はまだしも十歳のエリーゼ、頭良すぎないか。それとも異世界はこれが普通なのだろうか。ちょっと自信なくなってきた。辺境伯かぁ……辺境伯!? かなり上位の貴族じゃなかったっけ!?


「俺はルシウス=フォン=ヴァルトシュタイン。家は男爵だ。エリーの家は辺境伯か、敬語使ったほうがいいか?」


「いらないわ。さっきも言ったでしょ? 私はルウとお近づきになりたいだけだって。ヴァルトシュタインってリエル様のところね。それなら納得だわ」


 我が人生、前世まで含めてこれほどの美少女に迫られたことがあるだろうか。いいやない。まだ幼女と言うべき年齢だが将来性は抜群だ。是非お近づきになりたい。というか母さん有名だな。しかも辺境伯の娘に様づけされるて。


「わかったよ。まぁどっちにしても試験に二人とも受かってからだろ」


「大丈夫よ。あなたが落ちるはずないし、私も落ちない」


 へぇ、結構な自信だな。ちょっと視てみるか。魔法名を口に出さないのはちょっとやりにくいんだが、まぁできないわけじゃない。


鑑定アプレーザル


エリーゼ=フォン=エマニエル

職業=魔術師

魔力=80580


 俺と母さんの魔力しか分からないが、国のトップに近い母さんの3分の2もあればそれなりじゃないだろうか。俺のやり過ぎた絨毯ブレイズ=爆撃イグニッションももう少し魔力を上げれば撃てる。まぁ魔力制御とか別の問題もあるからすぐには無理かもしれないけど魔力は足りている。ちなみに俺は更にやばくなっている。


ルシウス=フォン=ヴァルトシュタイン

職業=魔導師

魔力=489500


魔導師ってなんだよ。魔術師はどこいったんだよ。そして今の俺は絨毯ブレイズ=爆撃イグニッションを4発撃つことができる。勿論もっと強力にすることも可能だ。尤も一度に使う魔力消費が増えるとその分魔力制御が格段に難しくなるので、一度の魔法では400000くらいが限度だが魔力量的にもそれが限界だ。今なら電光トニトルス=石火エンハンスも80分は保つ。勿論他に何の魔法も使わなければだけどな。実際は使うから全力戦闘なら精々30分が関の山か。まぁ今の電光トニトルス=石火エンハンスはかなり過剰に強化してるから実際使うとなったらもっと強化度合いを下げて稼働時間を延ばすことになるだろうな。今の強化度合いは本当の切り札みたいなもんだ。普段使うなら多分このくらいかな。


電光トニトルス=石火エンハンス

魔法属性=雷

形状=纏

特殊=麻痺

持続魔力=40

強化=200

魔力=8000

速度=200×2


これなら他に魔法を使わなければ三時間以上保つ。魔法戦闘しながらでも一時間以上は保つだろう。正直これでも充分過ぎる強化だったのは身をもって体感している。だって突っ込んだだけで熊みたいな魔物が爆散するんだぜ。元々の強化は一体何と戦うんだっての。まぁ深淵アビスとか呼ばれてるやばい魔物もいるみたいだしあって損はないだろう。ちなみに研究中の魔法もあるのだが、まだ成功には至っていない。案外世界最強なんてすぐだと思ったがそうでもないらしい。


「次、エリーゼ=エマニエル」


ここでは貴族位は意味を為さないと言っていた。だから貴族を示すフォンは外されるのかな。まぁ姓がある時点で分かるんだけど名目上ってことだろうな。


「それじゃあいってくるわ」


「うん。がんばれよ」

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