13

「死ぬかと思った……」


 わたしとオルフェウスお兄様、それからバーランド様の三人で大慌てでメイナードから小虎を引きはがして、わたしは血だらけになったメイナードの傷を癒した。


 うん、やっぱりわたしの癒しの力、強くなっているみたい。でも、どうしてかしら?


 自分の手を見つめて首をひねるわたしの背中に張りつくようにして、メイナードが大きな小虎に視線を向けている。


 メイナード、突然襲ってきた男の人に切られたよりも、大きな小虎に噛みつかれた方が怖かったらしい。


 オルフェウスお兄様もバーランド様も、小さな小虎が噛みついたときは笑っていたけど、さすがに今は洒落にならないと言ってメイナードから小虎を遠ざけている。


 キャロラインは大きな小虎を見て大興奮で、大きな体に抱きついてもふもふしていた。


 セルマに訊いたところ、小虎が突然部屋を飛び出していったんですって。わたしとメイナードの危機を察して駆けつけてくれたのかしら?


「ああ、もうっ、かわいい! 大きい! 背中に乗ってもいいかしら?」


 小虎にすりすりと頬ずりをするキャロラインに、バーランド様が信じられないようなものを見るような目を向けていた。


「お前、怖くないのか?」


「どうして? かわいいじゃない!」


 バーランド様はメイナードがその大きな口で噛みつかれたのを見ているから、さすがに警戒しているみたいね。


 傷は癒えたけれど血だらけだったメイナードと、メイナードの血がこびりついていたわたしがお風呂に入ったあと、わたしたちはメインダイニングに集まった。


「でも、どうして急に大きくなったのかしらね」


 小虎は部屋の隅に寝そべってくうくうと眠っている。


「わかるわけないだろ。一瞬で体が何十倍にも膨れ上がる動物なんてはじめて見たぞ」


「膨れ上がるって、お兄様、風船じゃないんだから……」


 せめて成長と言ってほしいわ、オルフェウスお兄様。


「この前バニーがなんか言ってたじゃない。あいつに訊けばわかるんじゃないの?」


 バニーじゃなくてダニーさんね、キャロライン。


 ケーキ屋でダニーさんに会ったときに、彼は小虎に不思議なことが起こったら教えてほしいと言っていた。そう言えば大きくなっていないかとも訊かれたわね。ダニーさん、何か知っているのかもしれないわ。


 わたしたちがいくら顔を突き合わせて悩んだところで、答えなんて出るはずもないし、ここはダニーさんに訊くのが一番よさそう。


「エイダー卿のところの養子か」


 メイナードはなぜか不満そうだけど、ほかに知っていそうな人がいないんだから仕方ないでしょ?


 別荘にはあと二日ほど滞在することになっているから、王都に帰ったあとでダニーさんと連絡を取ってみると言うことで意見が一致する。


 わたしの癒しの力が増したことも気になるけど――、まずは小虎の不思議よ。


「こんだけでかいと、家に連れて帰んの大変だなぁ」


 オルフェウスお兄様が息を吐きだしながらそう言った。


 そうねぇ、さすがに玄関から入らないような大きさではないけど――、お父様は間違いなく驚いてひっくり返るわね。お母様はどうかしら? 驚いたあとにキャロラインみたいに抱きつくかしら?


「名前変えるか? 大虎に」


 可愛くないから却下よ、お兄様。






 大きい小虎の心配をしていたわたしだけど、次の朝、その心配はなくなった。


 ごろんと寝返りを打った先で、もふっとした何かにあたって目を覚ましたわたしは、そこで小さな体を丸くしてくーくー眠っている小虎を発見して飛び起きた。


「小虎?」


 さすがにベッドには乗せられない大きさだから、絨毯の上で眠っていたはずの小虎が何故か小さくなって隣で眠っている。


「……小虎、小さくなれるの?」


 嘘でしょ?


 驚いてぱちぱちと目をしばたたくわたしの横で、小虎はくわっと大きく欠伸をしたあとで目を覚ました。


「あなたいったい、なんなの?」


 小虎を抱き上げて背中を撫でながら訊ねるけど、答えが返ってくるはずもない。


 まあとりあえず、大きな小虎問題はこれで解決したみたいだけど、謎は深まるばかりね。

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