13
「それで塩だらけなのか」
「……ごめんなさい」
あの後騒ぎを聞きつけてやってきたメイナードは、塩だらけのわたしの部屋――もとい、王太子妃の部屋を見て唖然とした。
もうね、自己嫌悪よ。
塩ってさ、部屋の中に撒くもんじゃないわ、外に撒くものよ。
わたしもキャロラインもセルマさえも怒り狂っていたから何も考えずに部屋の中に塩をぶちまけたけど、考えなくてもわかる。掃除が超大変。
さすがに「うっかり部屋の中に塩をまいちゃったから掃除してくれない? えへ?」なぁんてお城の使用人さんたちに言えるはずもなく、わたしたち三人はさっきから一生懸命お掃除中よ。
メイナードはそんなお掃除中にやってきたから、呆れた顔でまだ片付いてない部屋の中を見渡しているし、恥ずかしいったら、もう!
「そんなことより殿下、リーナがふざけたことを言っていましたけどなんですのあの女」
キャロラインが箒を持ったままメイナードに訊ねれば、メイナードと一緒にやってきていたバーランド様がすかさず叱責した。
「お前は! その口調を正せといつも言っているだろう!」
「ここにはお兄様と殿下しかいないじゃない」
あー、キャロライン。その殿下だけど、いずれこの国で一番偉くなる人よ? わたしも人のこと言えないけどね。
メイナードはくすくす笑い出して、わたしの手から箒を取った。
「私も手伝おう」
「え、さすがにそれは……」
「あら、助かりますわ、殿下!」
キャーローラーイーン―――!
さすがに王子に掃除はさせられないと焦るわたしに、人手が増えてラッキーとばかりのキャロライン。
バーランド様もため息をついて、「手伝おう」って言いだして、なぜかみんなで掃除をすることになってしまった。
メイナードに箒を取り上げられたから、わたしは布でテーブルや棚の上を拭くことにする。
「それで、リーナがサヴァリエと婚約するって?」
「はい、さっきそれを言いに来ました。……わざわざ」
思い出してイラっとしたわたしは、やっぱり顔面にケーキをぶつけてやればよかったと後悔だ。
八つ当たりのようにテーブルをごしごししていると、メイナードがぼそりと「壊れるよ」って。壊さないわよ! そんなに怪力じゃないもの!
「確かに、ワーグナー伯爵が父上のところに来ていたなぁ」
「……じゃあ、婚約は本当に?」
「まだそんな話は出ていないけどね」
まだって言うことは、その可能性もあると言うことだ。
わたし、いつまでお城で生活していればいいのかわかんないけどさ、ここにリーナが引っ越して来たら嫌だなぁ。ただでさえ使用人の皆様のわたしを見る目が冷たいのに、リーナまで来たら針の筵じゃない?
そもそも、婚約したとしてもお城に引っ越してくる必要はないと思うんだけど――、たぶんそれは「わたくしが本物の聖女です」って言うこの言葉が少なからず影響しているのかしらね。聖女は城で守ってもらえ――ってやつでしょ?
わたしが大きなため息をつくと、メイナードはちょっと申し訳なさそうな顔をした。
「もう少しだけ待っていてくれ。すぐに住みやすくしてあげるから」
それってどういうこと?
リーナが引っ越してくるのとわたしが住みやすくなるのがどう関係しているのかがわかんなくて訊き返そうと思ったんだけど――
「アイリーン! お前の悪口言っていたやつ、一匹、兄ちゃんが始末してやったぞ――」
物騒なことを言いながら満面の笑みを浮かべたオルフェウスお兄様が部屋に入ってきて、バーランド様が「何やらかしたんだお前―――!」って絶叫した。
そのあとバーランド様とお兄様の二人がぎゃーぎゃー言い争いをはじめちゃってこれ以上何かを訊けるような状況じゃなくなって、わたしはただ黙々と塩まみれになったテーブルを拭くことに専念したのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます