6
ひとしきりお喋りしたあと、お友達のみんなはお目当ての男性とダンスを踊りに行った。
キャロラインもオルフェウスお兄様を捕まえて一曲踊って来るわとダンスホールに向かって、わたしがポツンと一人取り残されていると、続けて五曲ほど踊ったサヴァリエ殿下がやってきた。
「聖女なのに一人ぼっちなの?」
「あなたのお兄様のせいです」
「ははっ、兄上は心が狭いから」
サヴァリエ殿下は楽しそうに笑ってわたしの隣に腰を下ろした。
「遅ればせながら、お誕生日おめでとうございます殿下」
「ありがとう」
笑うと、サヴァリエ殿下はメイナードとよく似ている。体を動かすことが得意じゃないから、メイナードよりも線が細いけれど、背の高さは負けていない。メイナードとサヴァリエ殿下、二人並ぶと圧巻なのよねぇ。
「それで、兄上との痴話喧嘩はいつまで続けるの?」
「ち、痴話喧嘩ってなんですか……」
「あれ? だってそうでしょ? 浮気して悪かった! 許さないわ! 的なやつでしょ?」
「……違いますよ?」
サヴァリエ殿下、くすくす笑っているから冗談なのか本気なのかわかんないわ。
サヴァリエ殿下は給仕からシャンパングラスを受け取って、軽く揺らして泡を立てて遊びながら、
「でも、仲直りは本当に早くした方がいいと思うよ。早くしないと、僕まで参戦することになりそうだ」
なんて言うからびっくりよ。
わたしが目を丸くすると、サヴァリエ殿下が指先でわたしの頬をつつく。
「僕を選んでくれるなら大歓迎だけどね。兄上に抹殺されそうで怖いけど」
「殿下、ご冗談がすぎます」
「冗談ってわけでもないんだけど。アイリーンとの人生って飽きなさそうだし」
「人を珍獣みたいに言わないでください」
サヴァリエ殿下は昔からわたしをからかって遊ぶの。
幼いころから城に出入りしていたわたしが、メイナードと一緒になって数々の悪戯をしたのを知っているからか、わたしのことをあんまり女扱いしていない節もある。
サヴァリエ殿下は部屋で本を読んでいるのが好きだったから、わたしたちと一緒に庭で騒いだりはしなかったけど、メイナードは弟のことをすっごく可愛がっていたから、悪戯をするたびに武勇伝よろしくサヴァリエ殿下に語って――、そのせいでわたしは珍獣扱いされる羽目になったんだと思うわ。メイナードのせいじゃない!
拗ねたように頬を膨らませるわたしの頬をもう一度つついて、サヴァリエ殿下はシャンパングラスを傾けて――
「え……?」
サヴァリエ殿下が目を見開いたかと思うと、そのままシャンパングラスを床にたたきつけて喉をおさえた。
「殿下⁉」
床に倒れこむように膝をついて、額に汗を浮かべながら、
「……毒だ」
掠れた声で告げた殿下の言葉に、わたしは大きく息を呑んだ。
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