第42話

「キャロット、うさぴょんお姉さま、ここは情に訴えるのでアリマスよ」


「話せば、きっと宝石を譲ってくださるかもしれないですワ」


「小僧と小娘。我らの話を聞いてくれないかぴょん? 我らがその宝石を求めている理由を」


「どーせ、そんな事を言って、何か策を考えているんでしょう。あんたらの目の前にいる二人は、これまで『お喋り≒時間稼ぎ』の図式に何度も引っかかってきた私たちだということを、忘れたのかしら?」


「もう、どうこうするつもりはないのですワ」


「我々には、もう後がないのだぴょん」


 ロボに搭乗していないので、今回ばかりは時間稼ぎをしても意味がない。


 ただただ情に訴え、グロウジュエリーを譲ってもらいたいのだ。


「なー。リンス、話くらい聞いてやってもいいんじゃないのか?」


「……わ、分かったわよ。ただし、聞くだけよっ」


「良かったぴょん。では、話すぴょん」


 私たちは自分達の過去について語った。


 これは私たちの始まりの物語である。


 約6千年程前に、私たちはウサギ族の親族たちが惑星『オツキサマ』から地球に訪れた。その目的は観光だった。その時の移動手段として使用したのが『グロウジュエリー』だ。


 蓄えたエネルギーを利用して、瞬間移動させる道具がグロウジュエリーの正体である。


 瞬間移動以外の奇跡も起こせるのは、サービス精神旺盛なウサギ族の科学者が、求められてもいないニーズに応えるため、『おまけ』の機能を大量につけたからだった。ただ、本当にそれだけなのだ。


 地球の観光をしていた私たちは、ある地球人と知り合い、仲良くなった。それが小娘の先祖だ。笑い話として私たちは、こうしたおまけ機能がたくさん付いた瞬間移動の道具――グロウジュエリーについて、おもしろおかしく語ってしまった。


 それが不幸の始まりだった。


 その後、小娘の先祖はグロウジュエリーを盗み、ある願い事をした。


「それは、どんな願いだったんだ?」


「永遠の命や、私たちに呪いをかける……などの願いだったのでアリマス」


「その呪いがなければ、私たちは、すぐにもオツキサマに還っていたぴょん。私たちはグロウジュエリー同様に自然界からエネルギーを集めるというテクノロジーを持っているぴょん。それを使えば星に還るくらい、わけない事だぴょん」


「あなたたちも知ってる必殺技の一部は、自然界から集めたエネルギーを使って『奇跡』を起こしていたのですワ。グロウジュエリーと同様にですワ」


 ウサギの豆のことだ。ウサギの豆は、私たちの血液を媒体に『大気』のエネルギーを吸って実となる。一方、グロウジュエリーは『地』のエネルギーを吸って鉱物として育つ。


「『子孫繁栄』、『ウサギ族が地球を出られなくなること』そして……『永遠の命』。これこそが小娘、てめーの先祖がしたグロウジュエリーへの願い事でアリマス」


 『子孫繁栄』は、小娘の一族への『祝福』を、『ウサギ族が地球をでられなくなること』は、運命が私たちの帰還を邪魔することを意味する。


 帰省本能の強い私たちウサギ族にとっての『呪い』である。


「なんでよ。子孫繁栄ってのは願い事として分かるけど、あんたたちを地球から出られなくするっていうのは、どんな意味があるわけよ?」


「欲……でアリマス」


「グロウジュエリーが何度も、この地球で出現してるのは、どうしてか分かるかぴょん?」


「それは所有者である我々が、地球上にいるからですワ」


「つまり、所有者である我々がオツキサマに還ってしまっては、グロウジュエリーが地球上で出現しなくなる、とも話してしまったのであります。だからこそ小娘の先祖は、我々を地球に留めさせて星へ還さない、という呪いをかける事で、永久に地球でグロウジュエリーを出現させるよう計らったのでアリマス」


 グロウジュエリーの所有権は地球を訪れた私たち親族全員にある。


 現在の所有者である私たち三姉妹が母星に還るか、全員死ぬか、そのどちらかが為されない限り、グロウジュエリーは永遠に地球上で生成される。


「だったら、地球に腰をおろせばいいんじゃないの?」


「……私たち3姉妹の他は、そうしたのですワ。つまり、オツキサマに還ることを諦めて、地球で暮らす事を選択したのですワ」


 私たちの親族は、ウサギ族特有の不死の属性を捨てた。


 あの南極大陸の老婆に打ち込んだ薬と同じものを自らに投与して、高度な知能を捨て、ただのウサギとなったのだ。


「それが現在のウサギ目となっているんだぴょん」


「チャーミングでフワモコな可愛い……あのウサギたちは、みんな、我らのお父様、お母様、おじい様、おばあ様、そして他の親戚たちが不死を捨てた、なりの果ての姿なのですワ」


「本当なんか? なんか、嘘みたいな話だなー。僕にはその話、とても信じがたいぞっ」


 小僧は首を傾げた。


「証明しろと言われても、出来ないのでアリマスけどね」


 呪いによって母星に還れなくなった私たちは、それでも星に還ろうと、あの手この手の手段で帰省方法を模索した。


 しかし上手くいかなかった。


 ロケットを製作して、直接帰ろうとしたが、失敗が続いた。これは『地球を出られない』という『呪い』によるものだ。例えば、ロケットが打ち上った瞬間、『運悪く』、滅多に降ってこない『隕石』がロケットにぶつかったり、打ち上げの瞬間に大地震が起きて見当違いな方向にロケットが飛んでいったり等々……。


「お前達が、これまでスムーズにグロウジュエリーを集めてこられたのは、幸運に頼ったところもあったんじゃないぴょんか?」


「なんで、そう思うの?」


「これまでが、そうだったからでアリマス! 私たちの親族で、グロウジュエリーを集めきった者は誰もいないのでアリマスよ。毎回、対立者というものが現われ、不思議な幸運が、そいつらに舞い降りるのでアリマス」


「昔は、数年間のスパンでグロウジュエリーは誕生していましたワ。それが、数十年となり……レーダーを奪われる直前には、数百年単位の間隔となっていました……」


「何度も何度も、オツキサマに還ろうと、グロウジュエリーを集める努力してきた親族も、一匹、また一匹と、諦め出したぴょん。そして、不死を捨てて、ウサギの姿となったぴょん。完全に、地球で暮らすために。星に戻りたいという気持ちを強く持っていても、戻れないという、そんな猛烈な葛藤から目をそらすために、この素晴らしい知能を、みんな捨てたんだぴょん」


 私たちの話を聞いて、小僧と小娘は合点がいったように、ウンウンと頷いた。


「確かに僕たち、意外な形でグロウジュエリーをゲットしてきたなー」


「それは、お前らが有能とか幸運とかではなく、実際のところは私たちのアンフォーチュンの間接的な効果によるものなのですワ。アンフォーチュン……こういう言い方もできます。『私たちが宝石を集められないように、運命が、対立者に宝石を集めさせた』と」


 いつしか地球に残ったウサギ族は私たち3姉妹だけとなった。私たち3姉妹だけは決して、星に還ることを諦めなかった。そんな時、『小娘の先祖』が再び私たちの前に現われた。


 結論から述べるなら、私は『小娘の先祖』の策略に嵌められて、集めていたグロウジュエリーとレーダーを同時に奪われた。


 最初、『小娘の先祖』は、自身の先祖が私たちにした行いを悔いて、私たちを月に還す手伝いをしたい、と申し出てきたのである。そして私たちはレーダーを、『小娘の先祖』は財力を使い、グロウジュエリーを集める提案をしてきた。


 姉と妹は、『小娘の先祖』のことを疑って信じていなかった。一方、私は信じた。


 あの時は、本気で先祖の行いを悔いているように見えたのだ!

 私の前で涙を流して、ジャパニーズ土下座までしたのだ!

 ……本気で反省しているのだと思ってしまった。


 私は姉と妹を説得し、この『小娘の先祖』が如何に反省しているかを説いた。そして、疑いを払拭させるように努めた。その努力が実り、いつしか姉と妹も『小娘の先祖』に心を開いた。そして信用した。


 ウサギ族とは嘘に弱く、騙されやすい種族である。


 『小娘の先祖』は『世界征服』を企んでいた。実は私たちを利用してグロウジュエリーを集め、レーダーも手に入れるという野望を抱いて近づいてきたのだ。そして実際にグロウジュエリーを全て集め終えた時、私たちを裏切った。


 しかし願い事を行う寸前で、レーダーが故障するというトラブルが起きた。


 『小娘の先祖』の身内で揉め事があって、レーダーの取り合いとなった。おそらく、世界征服をした後の世界での、それぞれが得られる土地の所有権などで、言い争いでも起きたのだろう。そして、揉み合いとなり、レーダーを落として壊した。


 そのため急遽、願い事の内容を『世界征服』から『新しいレーダー探知機が欲しい』と変更した。そして現われたのが、小娘が持っている第二のレーダーである。レーダーがあれば、今後いくらでもグロウジュエリーを集められるとでも思ったのだろう。


 しかしこの時、『小娘の先祖』は知らなかった。すでにグロウジュエリーが復活するスパンが数百年単位となっていたことを。


 『世界征服』の願いは叶えられる事なく、小娘の先祖は寿命で死んだ。そして、第二のレーダーは数百年、小娘の一族が保管していた。


 レーダーを盗まれた私たちは、深い落胆に襲われた。


 しかし、それでも母星に還る事を諦めなかった。


 そして『怪盗ウサギ団』を結成する。


 グロウジュエリーが『宝石の形で出現する』『類稀な魅力がある』という性質に着目し、数々の博物館等から、宝石を盗み出して、グロウジュエリーかどうかを調べるという日々を続けた。


 そして1年前に、好機が訪れた。怪盗として、犯行予告を出していた博物館に向かう最中、たまたま訪れた骨董屋で、壊れた状態のオリジナルのレーダーを発見した。


「あの時はビックリしたぴょん」


「うさぴょんお姉さまが、漏れるって言いながら、トイレを借りに入った骨董屋で、売られていたのですから」


「しかも、激安値段でアリマス!」


「当然ながら、すぐに購入したぴょんっ!」


「そして、それを修理したというわけなのですワ。人間には直せずとも我らには直せるものですからね」


「複製品もたくさん作ったでアリマス! しかも、より使いやすく改良したのでアリマス!」


 売ったら大儲けだろう。


 テクノロジーが漏れるので、売らないが……。


 そして私たちは、グロウジュエリーの反応が現われていることを知り、桃源郷の小僧の家を訪れた。


「私たちの一族は、グロウジュエリーを何千年も探し続けてきたんだぴょん。決して集める事ができない、そういう運命だと分かっていても諦めずに探し続け、ずっと運命に抗い続けてきたんだぴょん」


「そして現在、待望し続けた6つのグロウジュエリーが揃って、目の前にあるという状況でアリマス」


「更に言うなれば我々はこれを最後のチャンスであるとも、考えているのですワ」


「グロウジュエリーにも寿命があるぴょん。広がり続けている、グロウジュエリーの復活のスパンから推測して、もうこれが最後。運がよくても、あと1度か2度、願いを叶えられるかどうか、といったところだぴょん」


 グロウジュエリーの寿命が、もはや尽きかけている。


 宝石だったはずの見た目が、石ころになっていることからも、間違いないと思う。


 形ある物はどんなものでも、いずれは朽ちるのだ。



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