第43話

「その為に、この数千年間、溜め込み続けたエネルギーの元、『ウサギの豆』全てをアジトから持ってきて、勝負をかけたのでアリマス。しかし、この塔を登る際に、それらのエネルギーをほぼ全部、使い切ったのでアリマス。つまりオメガランで『奇跡』を起こす必殺技は、もう使えないのでアリマス」


「我々の戦力は、本当の意味で空っぽになったんだぴょん」


 以上が私たちの身の上話だ。


 どうだろう。


 情に訴えるために、全てを話したが……譲ってもらえるだろうか?

 というか、譲ってもらえないと、困る!


「ふーん。なるほどね。事情は分かったわ」


 小娘は真剣な表情で何度も頷く。


「譲ってくれるでアリマスか?」


「やーだね。ボインの方が大事だもーん」


 こ、こいつ!

 やはり、私たちを騙してきた先祖と『魂』が同一なだけある!

 性根が腐っている!


「こ、この小娘! 若干は、心が動いてくれるかと期待していたのですが、やはり、でしたワ」


「あわよくば同情を誘おうと思っていたぴょんが、やはり動じなかったぴょん」


「だって、あなたたちが星に還っても還らなくても、私のボインには関係ないでしょ?」


「この薄情者めぇええええ」


「リンス、オメー、すげーゲスだな」


 私たちが小娘を非難すると同時に、小僧も目を細めて小娘を見つめた。


 しかし……。


「モモくん、忘れないで。私たちは、こいつらに何度も殺されかけてるのよ」


「ああ。そっか。そーだった。僕も殺されかけてるんだっ」


 娘の一言で、小僧が眉間に皺を寄せて、こちらを睨んできた。


 そういえば私たちはいつも、小娘だけではなく、小僧も巻き添えにしようとしてきた。


「あ、あれは、小娘の『祝福』が腹ただしかったからでアリマスよ」


「『祝福』という点について、小娘を殺す事で反故にできるのなら、その後に続く『そしてウサギ族が地球を出られなくなること』という『呪い』も、反故にできると思ったんだぴょん。全ては呪いを解く為だぴょん。本来、我々ウサギ族は殺傷を好まない種族だぴょん」


「巻き添えにしようとしたのは、1000年謝り続けるので、許してほしいのでアリマース」


「殺人未遂でも罪は罪よ。あんたたちさー、漂流させて殺そうとか、無人島で放置して殺そうとか、地下遺跡に閉じ込めて殺そうとか、『私たちを孤独にする』という悪質なやり方での殺害を企ててきたわよねー。謝罪されても許せないわよ」


「でもそれは、こいつらが、自分達と同じようにオメーにも『帰りたくても帰れない苦しみ』を味あわせたかったからじゃねーのか?」


 と、小僧。


 小娘は再び味方に反論されて、面食らう。


「そのとーりですワ、小僧」


「モモくん、あんたも巻き添えで殺されかけてるんだからね」


「あっ。そっか。僕も、巻き添えで殺されかけてたんだっ! こんにゃろー」


 ………………。


 小僧は気分屋のようだ。


 私たちの味方になってくれるかと思いきや、再び睨んできた。


「ぐぐぐ。小僧には悪い事をしたと思っているのでアリマス」


「話は、それだけかしら?」


「そ、そうだぴょん……」


「残念だけど、私の回答はこう。『ボインになるお願いをするのに、邪魔だからどっか行って』」


「オメー、本当に血も涙もないなー」


 小僧は呆れ顔になった。


 本当に血も涙もない小娘である。


「どれほど、オツキサマがいい星なのかは知らないけれどさ、地球に住むのが嫌? どこも『住めば都』なの。帰りたい帰りたいばかりで、ここを第二の故郷にするという選択肢を考えない時点で私はね、地球をバカにされた気がして腹立たしいわ。さあ、モモくん、追い払っちゃって」


「……わりーなー、オメーら。僕は深く同情したけどさ。リンスも本気でボインになりたいって思っているんだよ。強い想いでさ」


 小僧が私たちに近づいてきた。


 追い払うためだろう。


 姉は手を前に出して、小僧に向かって叫んだ。


「待て、小僧。私たちは、お前らに勝負を申し込むぴょん」


「おう。受けて立つぞ」


「やっちゃって、やっちゃって! 申し込まれたら、どんどん受けちゃっていいわよ、モモくーん。私が許可するわー」


 小僧はさらに、私たちとの距離を詰めてくる。


「ま、待つのですワ。単なる力勝負ではないのですワ。暴力はんたーい!」


「は?」


 私たちはそれぞれ懐から、ウサギの豆を掴んで、取り出した。


 最後に残ったウサギの豆、3粒だ。


 小僧は警戒して、足を止めた。


 ウサギの豆の不思議な力を感じとったのだろう。


 チャンス!

 私たちは舞いながら陣を描き始めた。


 これは、いつもロボの中でやっている工程を、ロボの外でやっているだけだ。必殺技は、ロボに搭乗していなくても発動させることができる。


 私たちは順々に啖呵を切っていく。


「想いの強さでの勝負でアリマス! 鳴かぬならー」


「殺しませんよ ほととぎすっ!」


 姉の持っていたウサギの豆から、光の粒子が飛散。


 ――ミラクル×1。


「鳴かぬならー」


「鳴くまで待たない ほととぎすっ!」


 私の持っていたウサギの豆から、光の粒子が飛散。


 ――ミラクル×2。


「鳴かぬならー」


「鳴かせてやらない ほととぎすっ!」


 妹の持っていたウサギの豆から、光の粒子が飛散。


 ――ミラクル×3。


 小娘は、目を細めながら、私達を見つめてきた。


「あのー、何を言ってるのか意味が分からないんですけどー」


「小娘、おまえも勝負を受けると確かに言ったぴょんな! 私たちは確かに聞いた。だから私たちに残された本当に最後のエネルギーを使って、この必殺技での勝負を挑むぴょん。地球での暮らし、長かった。しかしこれにて終焉」


「終焉でアリマス。これにて終焉でアリマスよ」


「想いの強さ、どちらが上なのかを計るのですワ」


 陣の完成率――94%。


「スポーツマンシップにのっとりー」


「正々堂々とグロウジュエリーを奪い合うことをー」


「誓うのでアリマース」


 99%――着地。


 飛散された光の粒子が、周囲の空間に戻ってきた。


 ――必殺技、発動・準備完了。


 ウサギの豆の消費数……『3粒』。


【【【ととのいました。鳴かずとも 無視して決着つけよう ほととぎすぅぅぅーーーー! これぞ遊戯必殺、USG局年末こうれい紅翠押合戦っ】】】


 私たちはポージングを決めて叫んだ。


 ウサギの豆が砕けると、6個のグロウジュエリーは移動した。


 そして2メートル間隔で一直線に並んだ。


 さらに並んだグロウジュエリーの中央に透明なガラスの壁が出現する。


 ガラスの壁の厚さは50センチ、縦と横の幅が5メートルの正方形。ただし、30センチだけ床から浮遊している。


 この透明な壁で隔てるように、私たちの側の3つのグロウジュエリーが赤色に輝いた。一方、小僧と小娘の側の3つのグロウジュエリーは緑色に輝いた。


「ちょっと、まさか……!」


「心配するなでアリマス。願い事はまだ、この時点では、叶っていないのでアリマス」


「私たちは正々堂々と闘う事を誓ったのですワ。ちなみにこれから行う勝負での反則は即負け、となりますワ」


「これは、想いの強さで闘う勝負。ルールを説明するぴょん。我々は赤。お前らは緑。これはグロウジュエリーの色を全て一色にすれば勝ちという遊戯だぴょん。小僧、そのガラスを力一杯、押してみるんだぴょん」


 私たちが繰り出した必殺技は『ゲームを行う』という内容の技だ。ただし、普通のゲームではない。これは『強制力』のあるゲームである。


 つまり現時点で、負けた側は駄々を捏ねたり、力づくで決着を反故にすることが不能となった。


 小僧はガラスの壁を押し始めた。


「お、おう。こうか。うぎぎぎぎぎぎぎっぎぎぎ」


 ガラスの壁は全く動かない。


 小僧の怪力で押しても、空中に浮遊したまま、ビクともしなかった。


「では、次に、何かしらの『想い』を胸に抱きながら、押してみるのでアリマス」


「想い……?」


「例えば、したい事、叶えたい事を心に浮かべながら押すんだぴょん……」


「よっし、美味しい料理が食べたいぞおおおお。うががあああああ」


「おっ。動きましたワ。まあまあの想いの強さですワ」


 ガラスの壁はズズズと動き始める。


 そして、赤く光っている私たちの陣地のグロウジュエリーの一つを通過。すると、グロウジュエリーの色が赤色から緑色に変わった。


「つまりは、こうやって相手の陣地へ、このガラスの壁を押して動かす。そして、全てのグロウジュエリーを自分たちの陣地側の色に染めれば勝ちなのですワ。私たちは赤色。おまえらは緑色に。6つのグロウジュエリーを全て同じ色に染め上げた時点で勝利、となるわけです。シンプルでしょ?」


 ルールとしては綱引きの逆だろう。


 綱引きは引っ張るが、このゲームは押す。


 押す力は『腕力×想いの強さ』の総合力で決まる。


 腕力が強い者が勝つという単純なゲームではないのだ。


「さあ、レッツゲームでアリマス。そして、これが終焉っ!」



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