第41話

 そして蠱毒を始めた原因ともなった『オニの怪物』が地上に現われたというシグナルを感知し、まもなく塔から出るつもりでもあったらしい。なお、オニの怪物は私たちが砂漠で退治したわけだが、『蠱毒の頂点』はそれを知らなかった。もしも『蠱毒の頂点』が塔から出たならば、確実に地球は滅んでいただろう。オニの化け物を倒したことを説明したところ、存在する目的を見失った『蠱毒の頂点』は全てを無に還すと言っていた。


「地球上ではこのオメガラン0号機が最強だと自負していたでアリマス。しかし上には上がいるのでアリマスね」


「でも話せるやつで助かったぴょん。会話で時間稼ぎが出来なかったら、究極必殺技を発動させる時間が稼げなかったぴょん」


「それにしても、オニの怪物を倒すためだけに、明け暮れる戦いの日々……悲しいものがありましたワ」


「私たちが戦いの連鎖から解放してあげたので、きっと感謝しているのでアリマスよ」


「これで小僧と小娘との競争に集中できるぴょんね」


「そうですワ! 今度は私たちが私たちの力で、私たちの呪いから私たちを解放してあげるのです!」


「一気に追いかけるぴょーん」


 蠱毒のシステムも破壊し、不安要素の無くなった私たちは、上へ上へと目指すことに集中した。


 現在のロボは2本の腕しかない。そのため、機動力がかなり低下している。しかし、不眠不休でロボの運転をしながら、そして残存している化け物たちと戦いながらも、私たちは塔の屋上を目指した。


 小僧と小娘はかなり屋上に近い場所にいて、差をつけられたようでもある。なので、無理をしないと追いつくことができない。


 そして……まもなく小僧と小娘が屋上に到達しようとしていた。


 このままのペースでは、確実に私たちの負けとなる。


 負けるのは……嫌だ。


 だから私たちは一か八かの賭けに出た。この賭けには保有している全ウサギの豆が必要となる。


 さらに、成功率が17%であることも、妹がシュミレーションをして算出した。


 だが、やる!


「みんな、陣は描いたぴょんか?」


「大丈夫ですワ。ポーズを決めてスタンバっておりますワ」


「私も同じでアリマス。究極のラストスパートを小僧と小娘に見せてやるのでアリマス」


「きっと……屋上まで行けますワ!」


 うん。屋上まで、いける!

 ……17%の確率で。


「では、究極必殺技……発動だぴょーーーんっ!」


 ――究極必殺技を発動。


【【【10000000000000トンぶちかまし】】】


 ロボは真紅のオーラに覆われ、異空間内の空へとぶっ飛んだ。


 途中、ドゴーン、ドゴーンドゴーンと音が続いた。


 これは異空間の壁をぶち破っている音だ。


 究極必殺技『10000000000000トンぶちかまし』は、実際に100兆トンの圧力を対象に加える技だ。


 ただし、それだけではない。


 生命エネルギーや精神エネルギーなど、存在し得る全てのエネルギーを『刈る』というエゲツナイ効果も付与されている。それは異次元空間を創っているエネルギーすらも刈った。


 唯一の不安要素は、発動時間の短さ。


 最後まで、もってくれるだろうか?

 私たちはロボの中で「いけえええええ」と叫んだ

 そして。


 賭けに……。


 勝った!

 ロボは塔の屋上の床をぶち破り、塔の外に出た。目の前には、大きな月が見えた。


 スーパームーンだ。


 私たちの母星。


 ちょうど、究極必殺技の発動時間が終わる。


 小僧と小娘の姿も確認した。


 まだ塔の壁にヘバリついている状態で、屋上には、あがりきってはいないっ!

 ロボは、そのまま屋上の床へと、弧を描くように落下した。


 エネルギーが完全に切れかかったロボは、あちこちが破損しており、ボロボロな状態だ。


 残り少ないエネルギーで、集音機能を発動する。


 小僧と小娘は、ロボを眺めながら、ポツリと呟いた。


『モ、モモくん。早く登り切ってちょうだい。アイツらが落ちたポイントのすぐ近くに、6個目のグロウジュエリーがあるわ』

『お、おうっ』


 うぐぐぐ。


 まずい。


 彼らが先に6つ目を手に入れたら、願い事をされてしまう。


 そうなるとグロウジュエリーは効力を……失う。


 小僧と小娘は屋上に登ると、6つ目のグロウジュエリー目掛けて走った。


 距離としては1キロ程だった。


 一方、私たちもロボのハッチを蹴破り、グロウジュエリーに駆けた。ロボはエネルギーが切れて、完全に沈黙した。


 姉は走りながら叫んだ。


「よくもひっかけてくれたぴょんな! 塔の内部にこんなに超強力なやつらがうじゃうじゃいるとは、聞いてなかったぴょんっ! 卑怯者めっ!」


 その通りだ。


 塔の中から屋上に向かうのと、壁を登るのとでは、難度の次元が違っていた!


「壁をただただよじ登るのとでは、負荷が全く違ったでアリマスよ。塔の内部から登る方がめちゃくちゃ圧倒的に不利でアリマシたよーー。この勝負、対等じゃなーーいっ」


「しかし、私たちの科学力の大勝利ですワ」


「我々の勝ちでアリマース」


 ロボが屋上の床をぶち破った時に、まだ彼らは屋上にあがってはいなかった。


 しかし、小娘も走りながら、叫んだ。


「いいえ。私たちの勝ちよぉー!」


「嘘を吐くなですワ。我々が屋上の床をぶち破った直後、屋上の床には、一つたりとも、お前らの指紋はついてなかったのですワ」


「嘘おっしゃい! そんなの調べられるわけないでしょう」


 いいや! 調べた。


「私たちの科学力を甘く見るなだぴょん。カメラ映像で、証拠として記録媒体におさめたぴょん」


「なっ! あ、あんたたちが、落下して屋上に降りる前に、私、屋上の床に手をつけちゃったかもしれないもんねーだ」


「ぐぐっぐ。それについては確認していなかったぴょん。でも、どちらにせよ、お前らよりも、我々が先に床を突き破って、屋上に現われたんだぴょん。だから我らの勝ちだぴょん」


「それを言うのなら、私たちの勝ちね! だって先に、顔一つ分も、屋上に出ていたものっ! そういえば、『爪の先』でちょこんっと床をタッチしてたかもしれなーい。それなら指紋がでなくて当然だわ!」


「うぐぐぐぐ……。ああいえばこういうぴょんね、この減らず口め」


 結果、6つ目のグロウジュエリーに先に到着したのは小僧と小娘の方だった。私たちの運動性能はかなり低いので、走るのが、めちゃくちゃ遅い。


 小娘はリュックを開けて、6つ目のグロウジュエリーの周囲に、これまで集めた5つのグロウジュエリー全てを放り出した。これでグロウジュエリーが6つ揃ったことになる。


 私たち姉妹に激震が走った。


 ま、負ける……。


 いや、まだだ!


「やったわ! 6個揃った。これで豊満な胸になれるわ。やっほーーーい」


「あれ? 何もおきねーな」


「これから、どうするのよ? てっきり、集めた時点でボインになれると思っていたんだけど」


「呪文でも唱えるんじゃねえのか?」


「アダブラカダブラー」


 ………………。


「ヒラケーゴマ・坦・々・麺っ!」


 ………………。


「かみさまほとけさま、願いを叶えたまえー。叶えたまえー」


 ………………。


「何も起きねーな」


 小僧と小娘は適当な『呪文』を思いつくまま唱えていた。


 しかし、何も起きない。


 それもそうだ。


 グロウジュエリーの使い方が間違っている。集めただけでは、何も起こせない。


 とはいえ、使い方といっても難しい工程は必要としない。ただただ、強く念じればいいだけなのだから。


 私たちはグロウジュエリーに向かって叫んだ。


「星に! 私たちを星に還らせてほしい、ぴょん!」


「オツキサマに還りたいのでアリマス」


「還るのですワ」


 私たちの想いに反応した6つのグロウジュエリーに、ポワンと赤色の光が灯った。そして、私達も、ようやくグロウジュエリーの元に辿り着いた。はぁはぁと息を整えながら2人を睨む。一方、小娘も私たちを睨みつけてきた。


「ちょっと、私もボインになりたいのよ! 横から邪魔しないで。ボインになるのっ!」


 グロウジュエリーの赤色の発光が消えた。代わりに、今度は緑色に輝き出した。


 げげげげげ!

 グロウジュエリーを見つめながら、小僧が驚いた。


「おおおお。今度はグロウジュエリーが緑色に光ったぞー。どーなってんだ?」


「私の胸を、ボインにして。ボインになりたいのっ! ボインボインボインボインっ!」


 小娘は即座にグロウジュエリーの使い方を悟ったようだ。グロウジュエリーに向かい、願いを叫ぶ。すると、緑色の発光が強まっていく。


 まずい、小娘の願い事が叶えられてしまう!


「やめるだぴょん! そんなくっだらねえ願いを止めるだぴょんっ! 話し合うだぴょん」


「そうですワ。話し合うのですワ」


「いやよーーー。私は話し合わない。今すぐにボインになるのっ!」


 くそー。男の癖に巨乳になりたいだなんて、なんてヤツだ!


「うぬぬぬ。こうなれば、緊急キャンセルでアリマス」


 私はウサギ言語による緊急キャンセルのフレーズを唱える。すると眩いほどに輝いていた光が消えた。


 ギリギリセーフ!


「え? え? 光が消えちゃった。ボインになりたーーーーーい」


 すると再び宝石に緑色の光が灯る。


 今度は姉が、緊急キャンセルのフレーズを唱えて、光を消した。


「やめろおおおお。小娘のアホな願いなど叶えさせてたまるか。キャンセルだぴょん。グロウジュエリーの発動の緊急キャンセルをできる事こそが、我らの所有物である証だぴょん」


「人間に知らない機能も色々とあるのでアリマスよ。このグロウジュエリーには」


「それを、返してほしいのですワ」


「嫌よっ!」


 小娘は明確な拒絶の意志を示した。グロウジュエリーを守るように私たちの前に立ち塞がる。


 男のくせに、なぜ、そこまでして巨乳になりたいっ!

 私たちと小娘は、互いに睨み合った。


「モモくん、予定通りにあいつら、こてんぱんにしちゃってよ。球体ロボに乗ってないから今なら楽勝よーん」


 ぎくううううううううっ!

 まずい。


「うぅっ………………」


 私たちは涙目で、小僧を見つめた。


 生身のままで小僧と戦えば、勝負にすらならないだろう。


「……やだ」


 うんっ?


「なんでよー」


「僕は弱い者いじめはしないから」


「こいつらは、弱くなんかないわ。強いのよっ」


 おおおおお~。


 これは好機っ!

 私たちは弱者アピールで畳み掛ける。


「弱いのでアリマース」


「弱い者いじめは、しちゃいけないんだぴょん」


「いじめないでほしいのですワ。いじめはダメ! ぜったいダメ!」


「ほーら、そういってるじゃんか」


 小娘は悔しそうに地団駄を踏んだ。小僧と小娘の間に絶対的な主従関係がある、というわけではなさそうだ。


「くっ。……でも、このグロウジュエリーは私たちが6つ集めたのよ」


 そう、小娘が主張した。


「なんだ、おまえたち、その宝石を本当に自分たちの実力で集めたと思っているのかぴょん」


「思い上がりもいいところですワ。これまで、予期せぬ幸運が積み重なって、集めてこられたのではないでしょうか?」


「もし本当に自分たちの実力で集められたと思っているのなら、はっきりと教えてやるのでアリマス。とんだ勘違いをしていると」


「オメーら、それは一体、どういうことだー?」


 私たちの敵は『小僧と小娘』で間違いない。しかし、真の敵は彼らの後ろにいる『運命』それ自体なのだ。


 こちらは『呪い』、そして小娘には『祝福』がかけられている。


 小僧と小娘はこの1年間、グロウジュエリーを順調に獲得し続けてきた。しかし、それは『実力』によるものではない。


 私たちはただのウサギではない。運命に抗うウサギなのだ。








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