第40話

 塔の1階には、ドッペルゲンガー機が群れとなって待機していた。周囲でサイレンが鳴るや、私たちに向かってゾロゾロと集まり始める。姿を変えられる前に、先制攻撃で手前のドッペルゲンガー機1体を、腕一本で殴りつけた。ドッペルゲンガー機は猛スピードで吹っ飛んでいき、遥か彼方の壁にぶち当たり、爆破した。


「おお、かつて強敵たちがたくさんいるぴょん」


「今はザコでアリマスけどね。うっしっし」


「195体を確認しましたワ。数だけは異常ですワ」


 周囲にいる全てのドッペルゲンガー機が、ロボと同じ外見になった。私たちがそのテクノロジーを利用して、あのオニ族の怪物を倒したように、今の彼らも私たちと同様の必殺技を繰り出すことが出来る。


 机上の空論上では……。


 私たちは偽ロボたちを、次々に叩き潰していった。戦況は圧倒的にこちらが有利である。


「うっしっし。エネルギー量が違うのでアリマスよ」


 私たちの操るオリジナルロボが、偽ロボたち相手に無双している理由は単純である。


 RPGでいうと、敵たちは最強の魔法を覚えはしたものの、使用できるだけのMPが足りないといった状況なのだ。また『攻撃力』と『防御力』においても、オリジナルロボと同程度になる為のエネルギーが、足りてはいなかった。


 つまりは、全くの『ザコ』である。


 プチプチと潰していたところ、全てのロボが一斉に飛び掛かってきた。そして、オニの怪物戦以降に搭載した『自爆』の必殺技の初期モーションを見せた。


 もしもの場合、敵に一矢報いたいと思って搭載した必殺技である。


 オリジナルロボに、山のように積み重なったロボたちは一斉に、ちゅどーーーーーん、と大爆発を起こした。カランカランと、自爆したロボたちの残骸が周囲に散らばる。しかしオリジナルロボは全くの無傷だった。


「ぷっぷっぷ! 果たしてこの塔に、防御力でハイパーインフレを起こしちゃったオメガラン0号機に傷を付けられる敵はいるぴょんかな~」


「いいえ! いませんワ。この塔のぼりの勝負、もらいましたワ。おほほほ」


「さーて、2階に進むでアリマス。あそこに階段があるのでアリマス」


 塔の2階から9階に駆け上がった。道中の各階層は全くの無人であり、トラップもなかった。このまま屋上まで一気にいけるだろうと思った。楽な勝負のようだ。


 しかし10階に到達した時、私たちは目を疑った。そして、その異常な空間を眺めた。


「な、なんだこれ……」


「砂漠が広がっておりますワ。そして、天井が無く、太陽が……これはまさか『ダンジョン機能』……!」


 塔の中なのに、地平線の彼方まで砂漠が見える。そして、天井があるはずなのに、晴天の青空が広がっている。


 私たちは小型の偵察ロボを周囲に飛ばして、情報を収集させた。


 いくら、インフレしたロボに搭乗しているからとはいえ、私たちは慎重派だ。


 まもなく妹は、偵察ロボが送ってきたデータの分析結果を伝えた。


 私たちは険しい顔となる。


「オニ族のやつら……やりやがったぴょん!」


「『蠱毒』を行っていたでアリマスねっ! あの、禁止されていた悪魔の所業をっ!」


 この瞬間、私たちの完全なる勝利に、影が射し込んだ。


 はっきりと分かる。この塔は――地球を滅ぼす塔でもあったのだ。


 『ダンジョン機能』とは、異空間を設置するテクノロジーのことで、ウサギ族が開発したものでもある。オツキサマの地下はある意味、異空間と同じ状態となっており、そこでウサギ族が繁栄している。


 このテクノロジーも、オニ族に伝わったグロウジュエリー同様に、太古の昔に地球を訪れたウサギ族の誰かが、オニ族に伝播したものなのかもしれない。


 ダンジョン機能を使って行われる禁忌の中に『蠱毒』というものがあった。


 『蠱毒』とは、異空間内で疑似有機生命体たちを発生させる装置を作り出すことから始まる。そして発生させた疑似有機生命体たちを各異空間内でバトルロワイヤルで戦わせる。そこで生き残った個体を集め、他の異空間に移動させて、再びバトルロワイヤルで戦わせる。


 そこで生き残った個体を、今度はリーグ形式で戦わせる。


 優勝した個体は、そこで解放されるわけではない。


 まだ戦う。


 同じようにリーグで優勝した個体同士を戦い合わせる。そして、今度は……。


 『蠱毒』とはつまり、グロウジュエリーやウサギの豆ような『奇跡』の力を併用させて、戦いを延々と繰り返させるシステムのことである。相手を殺した個体は、相手の強さに応じた『経験値』を入手し、『レベル』が上がるといったゲームのようなシステムとなっており、強い敵を倒せば倒すだけ、青天井で強くなれる。この『レベル』に上限はない。


 私たちウサギ族は、『ウサギの豆』を膨大な年月をかけ、収穫し続けることで強大な力を得られる。同様に、『蠱毒』でも膨大な時間をかければそれだけ、強大な力を持った『レベル』の個体を造り上げられる。


 蠱毒によってレベルを上げた個体が塔の外に出れば、まず地球は滅亡するだろう。元々、戦いに明け暮れる日々を送っていた生物だ。呼吸するかのように、他の生物の命を奪いにかかる。それが生きる道だということを学んでいるからだ。何万年もかけて身についた習慣は、地球にいる全ての生物を殺しきるまでは止まらない。


 かつてウサギ族も意図しない形で『蠱毒』を発動させたことがあった。そして、大事故になった。


 その後、『蠱毒』にならないよう厳重管理をしつつ、蠱毒自体も禁止にした。一方、オニ族たちは故意的に蠱毒を発動させていた。おそらく、ウサギ族に対抗する為の、切り札として用意していたのだろう。


「お……お姉さま方、勝てるのでしょうか。3姉妹『ごとき』が数千年かけて溜めたウサギの豆『だけ』で……」


「数千年だって、めっちゃくっちゃ長いぴょん。だから勝てるぴょん! たぶん……」


「とはいえ、この『蠱毒』が行われていた期間の数万年は数千年より、もっともっと長いですワ。蠱毒の頂点にいる存在は、そりゃ~、ものすごいバケモノになっていますワ」


 孤独の頂点にいる化け物を『蠱毒の頂点』と呼ぶことにする。


 数千年かけて作ったウサギの豆を注入したロボが、数万年かけてレベルアップしてきた『蠱毒の頂点』と戦った場合の勝率は、全くの不明だ。ただただ、嫌な予感しかしない。


 姉は腕を組んだ後、言った。


「……よし、戦略を発表するぴょーん。もしも現在、この塔でランキング1位の化け物が現われたら……その時は……」


「どうするで、アリマスか? ごくり……」


「全力で隠れるぴょーーーん!」


「がってんでアリマス!」


「さわらぬ神にたたりなしですワっ!」


 戦略が決定!

 楽勝だと思われた『塔のぼり』の勝負だったが、『蠱毒の頂点』がいると判明したことにより、雲行きが怪しくなった。


 私たちは小型の偵察ロボを飛ばしたり、遺跡にアクセスしたりして、塔のデータを集めながら上に上にと進んだ。


 異空間には入口と出口のドアがある。出口のドアを入ると、上層へと繋がる階段がある。


 この出口のドアを見つければ、上層に行けるわけだが、見つけるのはこれまた大変だった。また、注意が必要な敵は『蠱毒の頂点』だけではないこともすぐに知った。『蠱毒の頂点』と戦わせるためにレベルアップをしている、高レベルの強敵たちもウジャウジャいたのだ。


 激闘を強いられた。


 おそらくこれも、呪いによる試練なのだろう。


 運命は……最後に、強烈な試練を用意してきたようだ。


 しかし私たちは乗り越える。そして、小僧と小娘との競争に打ち勝つのだ。


 そう意気込んでいた時――『蠱毒の頂点』と遭遇した。


 結論だけを述べるなら、死闘の末に勝った。


 隠れる前に見つかり、逃亡も許してもらえそうになかった。


 『蠱毒の頂点』は、素早さも含めた全ステータスが、ロボよりも格上だった。


 完全に圧倒された。


 ボコボコのケチョンケチョンにされたが、『究極必殺技』を放ったことで、流れが変わった。そして、仕留めた。


 ただし、ロボの大部分が破損するという代償を負った。


 エネルギーも大量に放出して、残量は10%を切った。


 まずい状況だ。


「な、なんてバケモノだったでアリマスか」


「間に合いましたワ……究極必殺技が、ギリギリ間に合いましたわワ」


「九死に一生を得たぴょーん」


 なお、『蠱毒の頂点』を倒した後、『蠱毒の頂点』が保持していた手記(アプリ)を見つけた。そして、蠱毒が行われた背景を知った。


 この蠱毒は、ウサギ族ではなく、オニ族を滅ぼしたあの化け物に対抗するために、オニ族の研究者の生き残りが、発動させたものだった。


 その研究者の可愛がっていた当時、愛玩動物だったペットが『蠱毒の頂点』になっていたようだ。





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