第39話

「本来、我らの味わった苦しみの一旦でも同じように味あわせて、反省させる事で、復讐を遂げたいと思っていたぴょん。そしてそれは、我らの呪いを打ち砕く事にも繋がる可能性があったぴょん」


「即死によって殺す事では生ぬるいですワ。不老不死である我らが、助けを待ち望んでも叶わなかった悲壮感……孤独を知ってもらいたい。家に還るためのグロウジュエリーという唯一の希望ですら毎回、人間たちの欲。くっだらない願いによって無駄に使われ続けられた、この怒りをぶつけていたのですワ」


「全ては小娘の先祖に、レーダー探知機を奪われたのが悪夢の始まりぴょん。そしてあの願いをされた事が!」


 私たちは人間に騙されて呪いにかかっていること、呪いを解く為にずっと怪盗生活を送ってきたこと、骨董品屋で壊れた状態のレーダーを発見したこと、今回のグロウジュエリーで解呪して母星に帰還したいこと、等を全て語った

 小娘はじっと私たちの話を聞いていた。


『……確かに、同情的ではあるわね。でも、あなた達は嘘をついているわ』


「嘘?」


『月にウサギ族なんて住んでないわ! そもそも月には生命自体がないもの』


 小娘は私たちの話を作り話とでも思ったのだろう。


 小娘も含めて、地球にいる人間は誰も、知らない。


 月には、ウサギ族が住んでいることを。


「ふん。何をいうのかと思えば、そのような事でアリマスか」


「現在、地球の周りを回っている月は、本来の姿ではなく、防衛システムが働いている仮の姿なのですワ。本当はもっと賑わっているのですワ」


『それを……証明できるのかしら?』


「証明する必要がないぴょん」


「さーて、お喋りもこれで終わりでアリマス。ついつい感傷的になり、我々は無駄口が過ぎたでアリマスね。身の上を喋り過ぎたであります。そして、色々と過去を思い出したら、腹が立ってきたでアリマスよ」


「ばにーお姉さま。うさぴょんお姉さま。私、もう、ここは超必殺技ではなく、究極必殺技の使用を提案しますワ」


「私もキャロットに同じくでアリマス」


「いいぴょんいいぴょん。どうせ、この塔の屋上にグロウジュエリーがあるのなら、あいつらを殺すのと同時に、ポキーンと塔をぶち折ってやるんだぴょん。これぞ一宝石二鳥」


 究極必殺技の発動を決定する。


 この技は、ウサギの豆を800粒使用して実現させる私たちの持つ最高峰に位置する必殺技だ。塔の屋上にグロウジュエリーがあるのなら、小僧と小娘をやっつけると同時に、塔を倒壊させることで、屋上にあるという6つ目を簡単に手に入れればよい。そして、彼らの持つ5つのグロウジュエリーと合わせて、そのままオツキサマに帰還するのだ。


『無理よ! この塔はどんな攻撃でもびくともしないわっ!』


 地球で聞いたニュースでは、この塔が発掘された当時、塔の内部にいた古代種たちが南アメリカの大地に溢れるように出てきた。そして、人間は古代種を屠るために、『巣』と思われる塔に原子爆弾を無数に打ち込んだ。しかし塔には、かすり傷すらつけられなかった。


「うっしっし。お前ら人間のテクノロジーと同レベルにするんじゃないでアリマス。オニ族が作った建設物など、我らウサギ族にかかれば一網打尽にするのは、容易いのでアリマス」


「究極必殺技、だぴょん」


「準備、開始ですワ」


 ロボは、紅色の光に覆われ始めた。


 究極必殺技は私たちの切り札かつ最強の武力。


 オツキサマまで戻る私たちの計画に、微塵の蔭りもない。


 ――パワーアップ。

【攻撃力・防御力×3】

「戦闘形態に特化した我らウサギ族は無敵。最初に会った頃と同じと、思うなでアリマース」


『ひえええええええ。待ちなさーーーい。まだ話は終わってないわっ! 提案があるのっ』


「待たないぴょーんだ。究極必殺技で、陸の藻屑となれぴょん」


『こないだの、超必殺技ってのよりつえーのが来るのか。見てえ気もするけど、ってか、オメーら、嘘つきだな』


 ………………。


「はっ? どういう事だぴょん? ウサギ族は嘘はつかないぴょん」


 姉は、小僧の言葉に反応した。


『南極でオメーら、確かに石を僕たちに、あげるって言ったよな? それを、力づくで取り戻そうってのは、嘘つき以外の、なんでもねーじゃねえか』


「はあ? 何をほざいてるぴょん?」


「ぐぐぐぐっぐ。うさぴょんお姉さま……悔しいですが……小僧のいう通りでアリマス。我らはウソをついた事になるでアリマス」


 私たちは必殺技を発動するため、ロボの中でウサギの豆を掴みながら陣を描いていた。しかし、一旦、それを止めた。


「あれは嘘ではなく、間違っただけだぴょん! う、嘘と間違いは違うぴょんよー」


「く、苦しい言い訳ですワ。うさぴょんお姉さま。間違ったからと発言が無効になるだなんて、苦しい言い訳ですワ」


「一度あげたものを、確かに力づくで強盗してしまえば、最初に嘘をついた事と同じになるでアリマス。これは怪盗ウサギ団の、そしてウサギ族の名折れでアリマス」


「ぐぐぐぐっぐ……なんてことだぴょん」


 ウサギ族とは、変なこだわりを持っている種族である。ジョークは口にするものの、私たちは嘘をつくことを基本的には禁忌としている。しかし、オツキサマに帰れるならば、そんなのどーでもいい。


 私がそう言いかけたところ、小娘が意外な提案をしてきた。


『返してあげてもいいわよ』


「な、なんだと?」


『ただし、勝負に勝てたらね。それも前回にもらったグロウジュエリーだけじゃないわ。私たちがこれまで集めた、5つのグロウジュエリーぜーんぶをあげるわっ』

『おいおい、いいのかよリンス!』


 小娘は挑発的に、唇の端をあげた。


「どのような勝負でアリマスか?」


 聞くだけ聞いてみる。


『勝負内容は簡単。この塔の屋上にいち早く到達する事。ちなみにこの塔は直径十キロで高さ158キロあるわ。中は幾つもの層が連なっている。どうせ最後の一個を先にあんたらが獲得した場合、それを争っての勝負となるでしょうから。この勝負で白黒つけてしまおうってこと』


「ほう……なるほどですワ。どっちが早くてっぺんに到着するか、という勝負ですワ」


「つまり、勝者が6つのグロウジュエリーと、願いを叶える権利を獲得できる、という事でいいぴょんか?」


『ざっつらいと! その通りよ!』


「どうするでアリマスか? うさぴょんお姉さま」


「受けてたつぴょん。壁登りの勝負だぴょんね?」


 小僧は馬鹿力の持ち主ではあるが、この勝負、はっきり言ってロボに分がある。腕の表面を粘着質な物質に変え、ヤモリのように壁をよじ登れる機能を搭載しているからだ。これは怪盗としての活動時、よく使っていた機能でもある。妹は勝率100%をシュミレーションによって叩き出した。


 勝負を受けても何の問題もない。


『なにいってるの。あんた達は塔の内部から登ってらっしゃい』


 ……はあああっ?


「ばにーお姉さま、うさぴょんお姉さま。内部から巨大な生物反応がいくつも検知されました」


『そうよ、確かに中には、古代生物がいるわ。あんたたちが、見下しているオニ族とかいう古代人が作った、生物兵器がね。もしかして、怖いの?』


 そう言いながら、小娘は変顔をした。その顔は、私たちを騙した小娘の先祖が、かつて立ち去る前に私たちに向けてきた顔と同一のものだった。ロボの中に、私たち三姉妹の憎悪と憤怒が立ち込める。


 これでもかというくらいに握り締めた私のこぶしから、血が滲んできた。姉と妹は歯を食いしばっている。


 うぐぐぐぐぐ。


「ちょ、挑発でアリマス! これは明らかな挑発でアリマス」


「こ、怖くなんてないぴょん。わかったぴょん。私たちは内部から屋上まで登っていくぴょん」


『よし、交渉成立ね』


「しかし約束するのですワ。我々が勝った場合はいさぎよく、グロウジュエリーを全て渡すと。駄々を捏ねたりしないことを!」


『もっちろーん。約束するわ』


「だったら、これを持っていけ、だぴょん」


 ロボの外装から『発信機』を取り出して、それを彼らに投げた。小娘はキャッチする。


「これは互いの位置情報を知らせ合う発信器だぴょん。使い方はレーダー探知機とほとんど同じだぴょん」


 小娘は『発信機』をピコピコと操作した。それほど複雑な使い方の装置ではないので、操作方法はすぐに理解できる。


『分かったわ。じゃあ勝負、スタートよっ!』


 小娘がそう告げた直後、ロボは手前の壁をパンチして、穴を空けた。そのまま塔の内部に侵入する。核爆弾ですら傷を付けられなかった壁を破壊できたということは、現在のロボのパンチの破壊力は、もはや核爆弾以上ということだ。


「千回負けようとも、最後の一回で、勝てばいいぴょん」


「その通りですワ。勝ち逃げするのですワ」


「ウサギとカメの競争。どちらも本気であったなら、ウサギが勝つのは明白なことでアリマス」


 私たち三姉妹と、小僧と小娘による、グロウジュエリーを巡る最後の戦いが今、始まった。

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