第38話

 この塔こそが、私たちが目指している古代遺跡である。そして南アフリカから人間たちを追い出した元凶の施設でもある。この古代遺跡が発見されると同時に、大量の古代種たちが塔から出てきたらしい。


「前方に、どでかい塔が見えるでアリマース」


「なんだぴょん、あの塔は?」


「オニ族たちの作った遺跡の一つですワ。レーダーが示している場所は、あの塔に向いておりますので、あの塔の周辺、もしくは塔の内部に6つ目のグロウジュエリーがあると思われますワ。ただし、今回も電磁波を受けておりまして、捜索の難航が予想されていますワ」


「それにしても、塔に近づくにつれて、たくさんの古代種たちを見かけるでアリマス。これは明らかに、フラグでアリマスねー」


「ばにーお姉さま、フラグとはなんでしょう?」


「もっちろーん、古代種との戦いのフラグでアリマース!」


「ポキーン! 今、私がそのフラグを折ったぴょん」


「さすがはうさぴょんお姉さま!」


「いやいやいや。フラグは折れないでアリマス。ほら、アニメなんかでヒーローと怪人が現われたらどうなるでアリマスか? ヒーローと怪人が戦うフラグが立つのでアリマス。そのフラグは折ろうとしても、折れないのでアリマス」


「そういえば、ヒーローと悪役の戦いでは、いつも最後はヒーローが悪をやっつけておりますワ。……はっ! 怪盗は犯罪だから、今回の私たちはその悪役なのでは?」


「キャロット、縁起でもないことを言うんじゃないぴょん! ヒーローが悪役に勝つ……それはどうしてだと思うぴょん?」


「さて、どうしてなのですか?」


「悪役がヒーローに負けるその理由は……ずばり、それは大人の事情だぴょーん!」


 姉はドヤ顔でそう言った。


「「お、大人の……事情?」」


「ヒーローグッズとかを売りたいぴょん。円盤や出版物とかも、正義が悪にやられるようなことがあったら、激減するらしいぴょん。つまり、悪が正義に負けるのは……これ、だぴょん」


 姉は親指と人差し指をくっつけて、悪そうに『ぷっぷっぷ』と笑った。


「い、言っちゃいましたね! 中々、言えないことをっ! 裏の事情をっ!」


「言っちゃったぴょん。何か問題でも?」


「全くないでアリマス! では、突き進もうではありませんか、悪の道。怪盗道をっ! 他人のものは俺のもの! 俺のものは俺のもの」


「おほほほほ。その意気ですワ。現実では、悪が勝つことの方が多いのです。さーてさてさて、レーダーには、相変わらずこれまでの5つのグロウジュエリーの反応はありませんワ。しかし、小僧と小娘の反応はありますワ」


 レーダーは、すでに小僧と小娘も探索できるようにしている。


 かなり古代遺跡に接近しているが、十分に追いつける距離でもある。


「きっと持ってきているぴょん! 髪洗家の小娘がグロウジュエリーの性質について知らないはずなんて、ないぴょん! ゆえに私たちは今回、回収する6つ目と、これまであいつらが集めた5つのグロウジュエリーを総取りしちゃうんだぴょーん」


「ワルですワー。これまでコツコツ集めたグロウジュエリーを奪っちゃい、そしてそのまま、星に帰るという願いまでしちゃうだなんて、ワルの極みですワ。しかし、これぞ怪盗っ!」


「我らは怪盗。極悪非道でアリマス!」


「怪盗ウサギ団、結成から長かったぴょん。しかし、これで終焉だぴょんっ!」


「そうでアリマス。終焉でアリマス」


「終焉ですワ。今回で終焉なのですワ」


 今回、私たちはグロウジュエリーを回収できる最後のチャンスだと直感で捉えており、その覚悟を示すため、ウサギの豆の全てをロボに注入した。ウサギの豆の数は前回の1000年分か?

 生ぬるーーーーーーーーい!

 一粒残らずである。大昔から作り続けていたウサギの豆の『全て』を使う。


 なので今回の私たちは、背水の陣で挑むことになる。もう後がないのだ。


 さすがに不老不死の種族とはいえど、これから再び何千年分もの期間をかけてウサギの豆を作り、蓄える気力はない。全てをこの瞬間にかけるのである。


 これぞウサギ道っ!

 この0号機ロボの戦力は、前回の5号機とも比較にもならないほどに、ハイパーインフレしている。


 1年前のことが懐かしい。苦戦した巨大亀の怪獣と再戦しても、今のロボの戦闘力ならば、デコピン一発で屠れる。まさに異次元のレベルだ。


 グロウジュエリーで作られた『運命』を変えることは可能か? その問いの答えは、『可能だ!』と私は信じている。


 グロウジュエリーの奇跡の力――私たちにかけられた呪いの力を、それ以上の奇跡の力――『ウサギの豆』の力で圧倒し、凌駕してやるのだ。


 古代遺跡の塔にまもなく到着するといったところで、レーダーが感知しているグロウジュエリーの反応が、1つから6つに増えた。小僧と小娘が、これまでの集めた5つのグロウジュエリーを、何らかの事情でレーダーでも拾える状態にしたと思われる。1つは相変わらず古代遺跡からの電磁波の影響を受けているが、5つの信号はしっかりと拾えた。


 私たちは急いだ。


 木々生い茂る森に入り、颯爽と駆け抜ける。そして、森を出たところ、高くそびえる塔の壁が目前に現われた。さらには、小僧と小娘の姿も確認できた。何故だか知らないが、二人は塔の壁に引っ付いていた。小僧は塔の壁の隙間に指をひっかけてクライミングしている。小娘はそんな小僧の背中におぶさっていた。まさか、この塔を登るつもりだろうか?

 この塔は、150キロほどの高さがあるのだが……。


『うん?』

『なにかしら……あっ!』


 ウネウネガチャンガチャンというロボの移動音で、彼らは私達に気付いたようだ。


 姉は、小僧と小娘にわざとらしく言った。


「おおおっ! グロウジュエリーの反応が5つも揃っているから、まさかとは思ったが、お前らだったのかぴょん。くっそー。こないだは痛恨の間違いをしてしまったぴょん」


「まさか偽物と本物を間違えて渡すだなんて、本来ならおてんとうさまがズッコケても、ありえないことでアリマス」


「そもそも、その宝石は本来我々の所有物ですワ。全て渡すのですワ」


『なに寝ぼけてるのよ! グロウジュエリーが、あんたらの所有物だという証拠がどこにあるのよっ!』


 小僧におぶられた状態で、小娘が唾を飛ばしながら叫んだ。


 たしかにグロウジュエリーが私たちの所有物であるという証拠はない!

 しかし……。


「ぷっぷっぷ。そんな証拠なんて、ないぴょん」


「そして我々は、それを証明する必要もないのでアリマス。うっしっし」


「ただただ、奪い返すのみ。おほほほほ。我ら怪盗ウサギ団の最後で最後のお仕事ですワ」


「それをいうなら、『最初で最後』だ、ぴょん!」


「さあ、小娘と小僧。グロウジュエリーをすぐに投げ落とすでアリマス。さもなくば、超必殺技でぶっころした上で、奪うでアリマス」


 超必殺技とは、前回の南極で放った、巨大な球体をぶつけるという技だ。


 ウサギの豆を大量に注入している今のロボには、もはや超必殺技が直撃しても、大破することはない。それだけロボの防御力を向上させてきた。負ける要因は微塵もない。


『うげええええええ。あの、めちゃくちゃな技で攻撃してくるってことー』

『リンス、最初に言っておくけど、無理だからな。僕には到底無理だから! しかも今、両手両足が塞がってるしっ。……飛び降りるか?』

『と、飛び降りないでっ! モモくんは大丈夫だとしても、降りた衝撃で、私の体は無事で済まないだろうからっ! なによりも怖いっ!』


 今の彼らは隙だらけでもある。どうやら、いきなりチャンスが到来したようだ。


「ぷっぷっぷ! 八方ふさがりだぴょん」


「では大人しくグロウジュエリーを投げ落とすのですワ」


『ちょっとあんたたち、話し合いましょう! 今度は、こちら側から話し合いを要求するわ。これまで、ずっとそっちからの話し合いの要求に応じてきたんだから。いいわよね?』


 小娘が話し合いを要求してきた。


 たしかにこれまでは、こちら側から話し合いを持ちかけていた。その目的は時間稼ぎというものだったが、彼らはいつも応じてくれた。


 う~ん。


「……ムっ。確かに、そうだったでアリマスね」


「いいぴょん。では、少し、お喋りに付き合ってやるぴょん。……っで、どんな話だぴょん?」


『6個目は、どこにあると思う? 私たちは知ってるのよ』


「さあ……この建築物の内側から反応を検知しているので、内側ではないのでしょうか。お忘れですか? 私たちもレーダー探知機を持っているのですワ」


 古代遺跡から出ている電磁波の影響で、詳細な場所こそは分からないが、妨害の度合はそれほど強くはない。なので、捜索で骨を折ることはないだろう。


「教えてあげるから、見逃せ、という事でアリマスか? 位置情報など別に教えてもらわなくても……」


『違うわ。無条件で具体的な場所を教えてあげる。この塔の一番上よ。屋上にあるのよっ』


 塔の上にグロウジュエリーがあるのか?

 小娘の言っていることが真実であった場合だが。


「なんでそのようなところにあるでアリマスかね?」


「ばにー。グロウジュエリーとは、おかしなところに出現するものなんだぴょん。そういうモノなんだぴょん。ぷっぷっぷ。そういえば、この建築物についても思い出したぴょん。確か、オニ族が建設していた塔だぴょんね」


 そういえばオツキサマにいた頃に、塔についてのニュースが流れたことを思い出した。たしか、オニ族がオツキサマを侵略するために、月まで届く高さの塔を建設している、といった内容だった。これがその塔か。150キロほどの高さで建設が止まっているので、途中でギブアップしたようではあるけど……。


「あぁ。マヌケなオニ族どもが我らの星に喧嘩を売ろうと、無駄な努力をして作っていた塔でアリマスね。私も思い出したでアリマス。笑われている事も知らずに、御苦労様なことだったでアリマス」


「塔伝いに直接、我らの星へ生物兵器を送り込む、という構想でしたワ。たしか……」


 私たちの会話を聞いて、小娘は不思議そうな顔をした。


『というか、あんたたち……一体、何者なの? これまで一体、何があったの? ずっと私たちの命を狙ってきて……謎だったのよ。もう全部、洗いざらい教えてくれない?』


「最初から言っているでアリマスよ。ウサギ族だと。卑劣な地球人の罠に嵌められて、『呪い』にかかり、故郷である惑星『オツキサマ』にただただ帰りたいと願っている、純血の誇りあるウサギ族」


「小娘、お前の先祖こそが、我々を罠に嵌めたその地球人なんですワ。しかも、世代を挟んで、二度も我らを騙したのです!」


「この怨み、小娘には直接的な関係がないとはいえ、その血が許せない! 運命が許せない! その存在自体が許せないのでアリマス」


 私たちは小娘の先祖に2度も騙された。『魂』の観点から見れば同一人物でもある。私たちを騙した最初の人間は『永遠の命』を願った。


 その結果、魂が一族内で輪廻することになった。結果的に死んでも、新しい肉体を得て再び生誕する、という形での『永遠の命』を授かったわけである。その場合、ほとんど同じ外見となる。


 いつもは女性として生誕していたが、今回はなぜか男性(男の娘)となっていた。もしかすると、前世の記憶はないものの、性別に関して何かがおかしいと思うところがあり、それを『取り戻そう』としているのかもしれない。


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