第37話
グロウジュエリーを巡る最後の戦いの発端は、妹の一言からだった。満面の笑みを浮かべた妹が、私たちの元に駆けてきた。
「お姉さま方、出ましたわー」
「ウンコが、でアリマスか? 快便だったのでアリマスか?」
「ええ。快便でしたワ。それはもう、便器が詰まっちゃうかと思う位にモリモリと……って違いますワ。何を言わせるのですか?」
「じ、自分で言ったでアリマスよ……まさか、そこまで詳細に説明するとは、思っていなかったでアリマス」
「だったら、お化けでも、出たぴょんか?」
「そうですワ。ハロウィーンの日に、カワイイお化けたちが『トリック・オア・トリート』ってやってきたのですワ。私は彼らにお菓子を渡したのです。……ってそれも、ちがーう。私が言いたいのはそんなことではありません」
「だったら何が出たのでアリマスか?」
「レーダーの反応ですワ! 6つ目のグロウジュエリーの反応が出たのですワ」
………………。
「な、なんだってーーーー」
私と姉は喉チンコが見えるくらいに大口を開けて、驚いた。
「だ、だったら、どうして、すぐに言わなかったでアリマスか!」
「言いたかったのですが、お姉さま方が話をするのを邪魔をしてきたのですワ。快便とか、お化けとかって!」
「……しかし、吉報でアリマス! この日の為に、私たちはずっと準備して待っていたのでアリマス。すぐにでも出発するのでアリマス」
「そうですワ」
「よし、みんな。オメガラン0号機に乗るぴょーん! 6つ目は絶対に、小僧と小娘に取られるわけにはいかないんだぴょん。残された日程的にも、あいつらは、これまでに手に入れた5つのグロウジュエリーを全て持ってくる可能性が高いぴょん」
「グロウジュエリーは1年間しか力を発揮できないと、そのことを知っていれば、間違いなく持ってくるでアリマスよ! もはや、タイムリミットはギリギリでアリマスからね!」
「そもそも、私たちは小僧と小娘が隠して持っている5つのグロウジュエリーを、いつでも手に入れることが出来たのでアリマス。たしかに彼らはグロウジュエリーの反応を消すことに成功していますが、小僧と小娘自身をレーダーで探知することも可能なのでアリマスからね」
レーダーは、頭に探したいものを思い描きながらボタンを押せば、どんな対象でも探し出せる。なので、いつでも回収に向かうことはできた。
「小僧と小娘の近くにきっと隠されているはずだぴょん。しかし、それをあえてしなかった! そこには意味があるんだぴょん」
「ずばり、消耗戦を回避したかったのですワ」
私たちの戦力は小僧と小娘を凌駕しているが、私たちの真の敵は『運命』でそれ自体である。実際に今回、グロウジュエリーの回収に向かうたびにロボが大破した。これは小僧と小娘にではなく『運命』に敗北しているわけである。最初から勝算が低いため、戦いの頻度が増すほど、私たちにとって不利にとなるわけだ。
「あいつらも私たちの顔を見たのでアリマス。レーダーの真の使い方を知っているのかどうかは知らないのでアリマスが、アジトに攻めてこられたら厄介でアリマスもんね」
「私たちは、オメガランに搭乗している時は無敵の力を発揮できますが、この力はよくあるゲームのように宿屋に泊まったら全開になるという類の力ではありません。限りある資源を使って、力を発揮しているのですワ。いずれは底を尽く力」
「だからこそ、待ったんだぴょん! 最高のチャンスを! そして、そのチャンスが今、到来したんだぴょん!」
「そうでアリマス! 今こそが好機でアリマス。今回で、決めなくてはいけないのでアリマス!」
「では……行くぴょんよ。オメガラン0号に搭乗するぴょん。すぐに発進だぴょん」
「がってんでアリマス」
「ま、待って下さい!」
私と姉が、ロボに乗ろうとしたところ、妹が引きとめた。
「その前にスーパーに行きましょう! 今日はバーゲンセールなのですワ」
「はぁ? 何寝ぼけたこと言ってるぴょん。スーパーなんかに行くわけないぴょん。そんなことしている場合じゃないぴょん」
「キナコも特売の対象で、ポイント5倍デーでもあるのです」
「う……うむむ。そうぴょんか?」
「冷凍していた餅のストックが切れかかっておりますワ。今回の遠征で、不足するかもしれないのです」
「よし……では、Bダッシュでスーパーに行ってから、最後の戦いの地へと、向かうぴょん」
………………。
私も、ついでとばかりに提案した。これは本日、何も無かった場合、私が予定していたことに関連している。
「う、うさぴょんお姉さま。そのスーパーの近くで、今日から新しいオシャカワイイなカフェが開店するらしいのでアリマス」
「……それで?」
「行こうでアリマス」
「あほかああああああああああああああああああああ~~ぁぁぁぁ」
姉は叫びながら拒否してきた。
しかし……。
「店舗限定のきなこ餅パフェが、オープン記念で半額になるのでアリマス」
「う、うむむ。では戦前の腹ごしらえ……してくぴょんか?」
「がってんでアリマス」
「行きますワ」
姉の弱点はキナコ。
私はアンコ。
妹は醤油に海苔。
毎回毎回、私たちの出発は遅れている。しかしこれは無駄なことではない。私たちが気合を入れるための儀式みたいなもの……と勝手に思っている。
それから1時間後。目的地までの食料のストックを万全にした!
腹ごしらえもバッチリだ!
妹は、いつもは忘れる『枕』と『パジャマ』をロボ内部にしっかりと持ち込んだ。
いざ、最終決戦の地へ行かん。
私たちは門前町の川底からロボを発進させ、お台場を横切って、日本海へ出た。太平洋を東へ東へと進む。
そして、目的地である大陸に上陸した。
今回訪れた大陸は、かつて南アメリカと呼ばれていた場所だ。
現在、人は住んではいない。代わりに『古代種』がたくさん生息している地となっていた。人間は古代種たちに住処を追われたのである。
現在のロボにとっては、古代種はザコ扱いだが、古代種は一体だけでも国を滅ぼせる戦力を保持している。
多くの古代種には、対艦ミサイルなどの人間の兵器が効かない。中には核兵器をぶつけられても、へっちゃらな個体だっている。例えば巨大亀の怪獣がそうだ。あれから調べたが、あの怪獣もかつては国を滅ぼしたことのある名を持つ古代種で、核兵器が効かなかったらしい。
地球には、こうした古代種がたくさんいる。なのに人類が滅びていないのは、運が良かったとしかいえないだろう。
古代種は口内摂取をせず、体内で核分裂を起こして、それを活動エネルギーとしている。彼らはただの動物ではなく、オニ族の遺跡を守護する外部ガーディアンなる『生物兵器』なのである。
しかも、核分裂によって無尽蔵にエネルギーを作り出せるからといっても、体内に蓄えられる容量には限界があるので、古代種は基本的にはジッとして動かない。仮に古代種が口内摂取でエネルギーを得る生命体だったならば、人類だけではなく地球上の多くの生物や植物は古代種に食べられて、絶滅していただろう。すなわち、運が良かった!
上陸後、目的地に向かう道中で、多くの古代種たちとすれ違った。そして、古代種たちの遭遇率も徐々に高まっていった。
おそらく、古代種たちが守護している古代遺跡に近づいているからだろう。今回、グロウジュエリーの反応は、既知の古代遺跡から感知されていた。普通、一つの古代遺跡には一体の外部ガーディアンが護っているのだが、この古代遺跡は特殊であり、何体もいた。
不思議なのは、古代種たちが遺跡に近づく私たちに無関心である点だ。彼らは外部ガーディアンなのに、なぜ見て見ぬふりをしているのだろうか。砂漠にいた大ミミズのように、襲ってこない。
しばらくして、巨大な塔が見えてきた。
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