第36話
アジトに戻ってから三日三晩、眠り続けた。そして、ようやく起きたところだ。
身体的にも精神的にも落ち込んでいたが、餅を食べると元気になった。さすがは、餅! 私たちの主食に選ばれただけのことはある。
食事を済ませた私たちは、金庫を開いた。
普段なら、次のオメガランの製作について話し合うところだが、私たちには製作できるだけの預金がない。悲しい……。
「まさか、これを使う日が来るとは思わなかったでアリマス」
「私たちの母星……オツキサマにいる時に、お父様たちが作られた純正の兵器(いひん)を……ですワ」
金庫の中には古びたがま口がある。がま口の中は『時空の歪み』となっている。いわゆる『アイテムボックス』だ。こうした時空の歪みは、ロボにミサイルを格納させる時などにも利用している。
「さーさー、おまちかね、おまちかね。数千年ぶりに拝見するぴょーん!」
「いえいえ、うさぴょんお姉さま! 実際的には、数千年も経っていないでアリマスよ。私は知っているのでアリマス!」
「では数分振りっ!」
「ですよねー。うさぴょんお姉さまは、数分前にも、こっそりと取り出して見ていましたものね! なのに、わざわざ金庫の中に戻すだなんて! 二度手間ですワ!」
「うぴょーん。私は秘密兵器を出そうしている、こういったお約束な演出が好きなんだぴょん」
「演出でアリマスか! 一度出したのに、再び金庫の中に仕舞われたのは、演出だったでアリマスか! ……さすがでアリマス!」
「そうですワ。さすがは、うさぴょんお姉さま。どうでもいい、こだわりをお持ちですワね。まさに、これぞ、ウサギ族! ウサギ族はどうでもいいこだわりを持っている種族なのですワ」
「うっしっし」「ぷっぷっぷ」「おほほほほ」
私たちは笑い合った。そして、がま口の中にある時空の歪みに手を突っ込んで、『せーの』でロボを取り出した。
どーん、と私たちの前にロボが現われる。
「オメガラン……0号機! お父様たちがその手で作った、ウサギ族の英知がこれでもかというくらいに込められているぴょん」
「まさに最高傑作でアリマス。これまでのオメガランシリーズの始まりともいえる逸品! 似せて作っていたので当然なのですが、私たちのこれまで使ってきていたオメガランと外見が全く一緒なところも、またいい! 愛着を感じるのでアリマス。なでなで」
「そうですワ。中身の構造も全く同じなのですが、オツキサマで採れた素材だけを使って作られているのも、またカワイイ点ですワ。なでなで」
「なでなでしているだけで、癒されるぴょーん。なーんとなく、お父様やお母様、おじい様やおばあ様のぬくもりが残っている気がするんだぴょん。なでなで」
私たちはロボをナデナデして和んだ。
このロボは今までのロボとは違い、ウサギの豆の効果を100%引き出せる惑星『オツキサマ』産の素材で製作されており、私たちが保持している最強の兵器でもある。
親族の遺品なので、これまで実用することを避けてきたが、状況が切迫しているため、仕方なく使うことにした。
「しかしながら、あの南極大陸の老婆の家から『宝石』を拝借しておいて、良かったでアリマスね」
「……だぴょん」
「おほほほほ。しかし、『天然ものではない』と見破られたので、それほど高値では売れないようでしたけどね」
「しかしこれで、当面の生活費の不安は、感じなくてもいいぴょん」
「私たちが普段使うお金といえばアパート代、光熱費、そして食費としての餅代のみですものね」
「よし、弔うぴょん! これから、大事にされるんだぴょんよ。南極で、あのまま雪に埋もれるより、ずっと寂しくないだろうぴょん」
「「なむあむだぶつー」」
私たちは、売却の決まった『宝石』たちに向かって、手を合わせた。
約10日間だけだったが、これらの『宝石』の中には脱出を励まし合っていた同志だった者たちも、いるかもしれない。
本当はお墓でも作って弔おうと、持てる分だけ持ってきたのだが……。
どうか、売却することを恨まないでもらいたい。
なむ~。なむ~。なむ~。
「0号機もちゃんと動くようだし、ちゃんとこうして私達も生きてるし……ウサギ神さまが私たちに味方してくれている感じがするぴょん」
「うぬぬぬ? 本当にそんなこと言っていいのでアリマスか? 痛恨のミスをした張本人が! 本当なら、5つ目のグロウジュエリーは私たちの手の中にあったはずでアリマスよ!」
「あ……あれは、どうして間違えたのか、自分でも分からないぴょん。きっと、食べられる寸前だった恐怖もあって、気が動転していたんだぴょん」
姉は大チョンボをしでかした。単なる『石コロ』をグロウジュエリーと偽って、小僧と小娘に渡す予定だったのに、なんと、『本物』を渡していたのだ。
痛恨のミスである!
「……まあ、私も当事者だったので、気が気でなくなったという、あの時の心境は察しができるのでアリマス」
10日ほど監禁された挙句、『あ~く~まさ~ま~の♪ い~う~とーお~り♪』と、私たちのうちの誰かが殺される一歩手前までいった。極限の精神状態だった。
「私も食べられるのなら、ウサギ鍋にされて食べられたい! と思っていたくらいでしたワ。軽くメダパニクっておりましたワ」
「とはいえ、本物のグロウジュエリーを、ただの石ころと間違えて小僧と小娘に渡すだなんて、ひどすぎるミスでアリマスよ」
「ゆ、許してほしいぴょーん」
姉はその場で土下座した。
「……頭をあげるでアリマス。過ぎ去ったことより、今後のことを考えるのでアリマス」
「それにしても5つ目も、小僧と小娘に『ゲットだぜーい』されてしまいましたワ。あいつらは残すところ1つのグロウジュエリーでコンプリートしますワ。これはヤバイですワ」
海を泳いでいる時、妙に心にひっかかるものがあった。その感覚は、姉が牢屋の中で『石』を壁に向かって投げた時からあった。なので、それはないだろう、と思いつつも一応レーダーでグロウジュエリーの反応を調べてみたところ、5つ目のグロウジュエリーの反応が南極大陸で移動していたのだ。姉が大チョンボをしていたことが発覚する。
そして、しばらく経つと、パタリと反応が途絶えた。反応を消せるのは小僧と小娘しかいない。つまり、彼らは生きていたのだ。
うぐぐぐぐ……。
一体どうやって、あの死線を生き抜いたのだ!
呪いの保持する者と祝福される者……やはり、私たちは『運命』に打ち勝つことが出来ないのだろうか。
「最大のピンチは、最高のチャンスでもあるぴょん。大昔にあった中国という国の戦略家はこう言ったぴょん。何百回負けても、最後の一度だけ勝てばいいのだぴょん、と」
「その通りですワ。まさに私たちの現在の状況と酷似してます。ピンチではありますが負けてはいない。なぜなら、私たちはまだ生きているのですから! 私たちがするべきこと、それは『臥薪嘗胆』と心の中で唱えつつ、最後に勝つその瞬間を信じ、爪を研ぐだけなのですワ」
………………。
目が覚めた。
「そうでアリマスね! 研ぐでアリマス! 爪切りについている、あのヤスリでっ!」
「そうだぴょん! ……って、いやいや、実際に爪をヤスリで研ぐわけじゃないぴょん」
「爪きりって、なぜかすぐに無くなるのですワよねー」
「そうでアリマスねー」
「では、さっそく爪をパチンパチンと切って、爪を研ぎますワ」
「おまえら、私の話を聞けぴょーーーんっ!」
こうして、私たちは爪をヤスリでトギトギしながら、6つ目のグロウジュエリーが生成するのを待った。
しかし、この6つ目のグロウジュエリーは、中々生成されなかった。
そんなこんなで数か月が経過した。
桃源郷で1つ目のグロウジュエリーの反応が現われてから、もうすぐ1年が経とうとしている中、ようやく6つ目の反応が感知された。
グロウジュエリーとは、最初の1つ目が生成された時点から1年以内に、最低でも5つが生成される。それ以降は、ピタリと生成が止まる。これは、しばらくスパンを空けることで、生成に必要となるだろうエネルギーを再び蓄えるためである。
このスパンが、どれだけ続くのかは不明だ。数年の時もあれば数十年の時もある。数百年の場合や……数千年という場合だって考えられる。
レーダーを失って以降の詳細は分からないが、失う直前までは、どんどんとそのスパンが広がっている印象だった。また今回は、グロウジュエリーの獲得に失敗した場合、二度とチャンスが巡ってこないだろう、と私たちは直接口には出さないものの共通認識としてもっていた。なぜならありえない『異常』がグロウジュエリーに現われているからである。本来、宝石のような外見のグロウジュエリーが『石ころ』同然の外見になっていた。これは明らかに異常事態だ。
その要因としては『地球』か『グロウジュエリー』のどちらかにあると考えられる。中でも、『グロウジュエリーの寿命』説が最も可能性としては濃厚だ。
人間はグロウジュエリーのことを、なんでも願いを叶えてくれる永遠に生成され続ける宝物、と思っている節がある。しかし、グロウジュエリーとはウサギ族にとっての『家電製品』的なものに過ぎない。一家に一台あれば便利な移動用機器、一般庶民でも節約すれば購入できるもの、それがグロウジュエリーの正体である。寿命だってあるのだ。
とはいえ、そんなグロウジュエリーにかけられた『呪い』により、私たちは何千年もの間、母星に還ることができないでいるので、無視できない力もある。この、グロウジュエリーによってかけられた呪いは、グロウジュエリーでしか解呪ができない。
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