第34話
地下から1階にあがると、玄関ではなく台所に向かった。そこには、あるものが置かれているはずだからだ。それは『オイル』だ!
「本当に、『調理用の油』で大丈夫ぴょん?」
「当然ながら、ダメでアリマス!」
「ええええ~ですワ」
「しかし、今はそんなことを言ってる場合ではないのでアリマス。最悪から脱するための応急処置が必要なのでアリマス」
「オイルはどこでしょ~う。あっ! 発見しましたワ。ストックも結構、ありますワ!」
妹がシンクの下の棚から、サラダ油を大量に発見した。
ナイス!
「よし、ありったけを持って、オメガランに戻るでアリマース」
「全部、持っていくぴょーん」
私たちは油を持てるだけ抱えて、ロボまで駆けた。
家から500メートル離れた場所である。そこには、雪に埋もれかかったロボの一部がかろうじて見えていた。グロウジュエリーの効果が消えて、雪のクレーターが埋もれかけていたのだ。
「潤滑油の補給口と、私たちの搭乗口まで掘り起こすぴょん」
「ウサギは穴掘りが得意なのですワ」
「雪掘りはしたことがないでアリマスが、やるでアリマス」
私たちは死に物狂いで雪を掘った。
途中、どうしてこんな目に遭っているのだろうかと、怒りが沸いてくる。手は冷たいし、寒いし、最悪だ。
しばらく雪を掘った後、サラダ油を、潤滑油の補給口に入れた。そして、搭乗口の周りを更に掘り起こして、中に入った。
その時、地響きがした。
ハッチのドアを閉めるや、近くの岳からの雪崩がロボを襲った。
私たちは生き埋めとなる。しかし私たちは危機感を持っていない。状況は一変した。潤滑油(サラダ油)のおかげで、ロボは再び動けるようになったのだ。
地響きが続く中、ロボは覆う雪を突き破り、地上に出た。
私たちは逃げない。ようやく私たちのターンとなったのだ。
これから、レッツ復讐タイムである!
老婆の家まで戻ったところ、小僧と小娘は老婆の家で見つけたと思われる、氷上バイクに乗っていた。しかし、地響きの影響で、前方の氷がめくれあがり、氷上バイクは横転し、2人は放り出されていた。
集音装置を作動し、遠方にいる小僧と小娘の会話を拾った。
『いてててて。な、なんだ一体』
『地震? 南極に地震なんてものがあるの? いや、違うわ。あわわわわ。なにあれっーーーーー』
………………っ!
ガコンガコンと音を立てながら、氷面から巨大ロボットの顔が出現した。
未だに続いている地響きの原因は、あの巨大ロボットにあるようだ。
徐々に頭だけではなく体も氷下から現われた。リフトのようなもので持ち上げられているのだろう。そして、巨大ロボットは完全に地上に姿を現わした。全長は推定50メートル。
『まさか、怪盗ウサギ団か?』
『いや、違うわ。これはあらかじめ、ここに収納されていた、という感じよ。つまりは……』
巨大ロボットは膝を曲げると、ジャンプして、小僧たちそばに着地する。
ズドーンガシャーンと、氷の欠片が飛び散った。巨大ロボットの塗装は真紅。装甲のあちこちにダイヤモンドが飾られていた。いかにも強そうな見た目だ。そして……。
『ひょっひょっひょ。逃がさんぞ。おまえらは、わしが喰ってやるのじゃ。そして遺骨からはダイヤモンドを作るのじゃ。ひょっひょっひょ』
老婆の声がした。
あの巨大ロボットに老婆が搭乗しているようである。内部に生体反応を確認する。
『ぞぞぞぞぞ。あの老婆よ。うわああ。やっぱり、あそこで退治しておけばよかったじゃない』
『か、かっけーーーこの巨大ロボ』
『馬鹿! 男の子はどーして、巨大ロボに憧れるのかしら!』
『女だってキラキラするものに憧れるじゃん!』
『それと一緒にするなああーーーーー。どうでもいいけど、逃げるわ。もう一度、氷上バイクに乗ってっ』
『ひょっひょっひょ。鬼ごっこかい。楽しいのおぉ。付き合ってやるわい。さあ、乗るといい』
老婆は追いつける自信があるからだろうか、余裕だ。一方、小僧と小娘は氷上バイクにまたがり、発進させようとしている。
しかし……。
『エ、エンジンが上手くかからないわ。それ以前に、どうやって操作するのかもわからない』
『おおおおおーい。さっき動かしてたじゃーん』
『仕方ないじゃない。運転した経験ないんだもん。さっきは適当に触ってたら、勝手に動いたのよ。えーと、ここをこうして、おっ、エンジンがかかったわっ! と思ったら、消えたっ』
小僧たちが水上バイクの操作に右往左往していた間に、妹が巨大ロボットの鑑定を終えた。
鑑定結果。
『巨大ロボット』は……『ザコ』。
ただの見かけ倒しだったようである。
私たちは彼らの前に姿を現わした。
「その必要はないぴょん」
大きな一つ目で巨大ロボットをギョロリと睨みつけながら、ロボは大きくジャンプする。そして……。
「うっしっし。よくも我々をこれまでコケにしてくれたでアリマスね。この変態人間様」
「お仕置きですワ。おほほほほ」
『な、なんじゃあああああああ』
ロボは弧を描きながら、巨大ロボットの頭上付近に到達する。
そして、私たちは一斉に叫んだ。
【【【くらえ普通の、ジャンピングぱぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーんち】】】
腕の一本が伸びて、巨大ロボットの頭部にヒットした。
すると、頭部は簡単にもがれ、ゴロンと氷上に落下した。
私たちが氷上に着地すると同時に、頭部を失った巨大ロボットは前のめりに、ゆっくりと倒れた。
ドゴオオオオオーーーン。
周囲に氷の破片と雪が舞い散った。
巨大ロボット、機能停止。
頭部の付け根から、バチバチと漏電現象が見られた。
鑑定結果の通り、話にもならない『ザコ』だった。
「ぷっぷっぷ。ざまーだぴょん」
「人間ごときの科学技術で作ったマシーンは、底が浅過ぎですワ」
ザコと鑑定したが、巨大ロボットの総合的な戦闘力でいえば、古代種並のポテンシャルはあった。しかし、ウサギの豆を1000年分も注入したこの5号機ロボは、仮にもオニ族を滅ぼしたとかいう前回のオニと再戦しても、軽く始末できる仕様となっている。
これは、戦闘力をインフレさせた私たちにとって、この地球上においては、もはや敵は存在しないことを意味する。ロボはこの地球上で、別次元の存在となったわけだ。
「球体こそが一番バランスのとれた形なのでアリマス。さーて、どこらへんでアリマスかねー」
ロボは動かなくなった巨大ロボットの背中に飛び乗ると、8本の腕でウネウネガシャンガシャンと移動して、ある場所で停止した。
「ばにーお姉さま。うさぴょんお姉さま。こちらから生体反応を確認しましたワ」
「オッケーだぴょん。やるぴょん」
「レッツ復讐の始まりでアリマス。目には目薬を、歯には歯磨き粉!」
『だから、そのことわざ、ちょっと違うってー』
小娘が叫んだ。
………………。
私たちは巨大ロボットの装甲を剥ぎ取った。すると、コックピットのようなものが露出する。それを引っこ抜くと、前方に放り投げた。
コックピットは小僧たちのすぐ近くに落下して、転がった。その動きが止まると、コックピットのドアが開き、中から老婆が出てきた。老婆は小僧と小娘に、這うように向かっていく。
『ひゃ、ひゃああああ。あわわわ。た、助けてくれええ。たの、頼むぅうううううう』
『あんた、よくそんな言葉が口から出てくるわね。私たちを食べるとかダイヤモンドにするとか、鬼ごっこをするとか言っておきながらさ』
老婆は必死の形相で小僧にしがみついた。
本能的に、小僧ならば私たちに対抗できるとでも思ったのだろうか?
否。
小僧についての鑑定結果も出ている。
現在のロボにとって、小僧も――『ザコ』なのだ。
助けを求めるも虚しく、老婆はまもなく動かなくなった。
ロボから放たれた注射器が老婆に刺さり、体内に薬剤が注入されたためだ。老婆はゆっくりと瞼を閉じると、ばたりとその場に倒れた。
小僧はロボを睨んできた。
『お、オメーら、何をしたんだ』
『殺したの? あなたたち、もしかして殺しちゃったの?』
私は小娘の質問に答える。
「殺しでアリマスか? うっしっし。本来、我々は殺生を好まないのでアリマスよ」
「ぷっぷっぷ。殺しというより、願いを叶えてやった、という事だぴょん」
「つまりは、グロウジュエリーによってなされた『永遠の命』の効力を無効にしてやったのですワ。おほほほ。寿命を既に迎えているため、そのまま老死したのですワ。老死するためにこれまで研究を続けていた変態人間を老死させて、何か問題でもあるのでしょうか?」
「我々はむしろ優しいんだぴょん。ここまでコケにしてきた変態人間の『願い』を叶えてやったのだから」
グロウジュエリーは私たちウサギ族が開発した家電のようなものである。グロウジュエリーによって願われた永遠の寿命――『不死』を無効にすることは不可能ではない。なぜなら、その薬はすでに開発されているのだから。これは私たちの親族が、ウサギ族の特性の一つである『不死』をキャンセルして『自殺をするため』に使った薬だ。また、この薬の効果性は、グロウジュエリーよりも高位に位置している。
老婆は、すでに寿命を迎えていた。なので、そのまま死んだだけのこと。
死因は、老婆がそうなることを願い、研究を続けていた『寿命死』だ。
『あ、あんたたち、なんでそんな芸当ができるのよ! 嘘つきなさい! グロウジュエリーで叶えられた願いなのよっ! そんなの、あんたらなんかが無効にできるわけないじゃないの』
「うっしっし。キャロット。うさぴょんお姉さま、聞いたでアリマスか? ちゃんちゃらオカシイでアリマスよ」
「グロウジュエリーとは元々は我らウサギ族が開発したものだぴょん。本来は、小娘の思っているような奇跡などを起こす類のモノではないのだぴょん。いうなれば、ただ便利な機能が色々と付いているだけの移動の為の道具なんだぴょんよ」
「今、変態人間に注入したのは、まさに『不死』を解除する為の『薬品』。我らウサギ族に打てば、高度な知恵も体も失い、ぴょんぴょん飛び跳ねまわるだけのウサギになるが、不死なる人間に打つと、単に不死属性が消えるだけなのですワ」
「ところで、小僧。先程、やった石について、だぴょんが……」
姉は先程、手錠を外してもらう交換条件で小僧に差し出した『石』について言及した。
『返さねーぞっ! オメーら、嘘はつかねえんだろ? 僕たちにくれたんだろ?』
「ぷっぷっぷ。返してほしいだなんて言ってないぴょんよ。なぜなら5個目のグロウジュエリーは、後にも先にも我らが保持しているからぴょん」
『はあ?』
「まさか先程の宝石を本物のグロウジュエリーだと思ったでアリマスか? うっしっし。そう思わせるよう、演技をしていただけでアリマス。我々はそれを『石』とは言ったが、『グロウジュエリー』だなんて、一度も言ってないのでアリマスよーだ」
姉は獲得したグロウジュエリーを、そのまま老婆の家に持ち込んだ。
しかし、『小僧に渡した石がグロウジュエリーである』なんてことは一言もいっていない。
「たまたま、我々が見つけていた『本物のグロウジュエリー』と『同じような形の石』が牢屋に連れてこられた浮浪者のポケットに入ってて、そのまま捨てられていたのを拾って、利用しただけだぴょん」
『どういうことだ? 僕、意味がわからねー』
「つまりは、『必死の命乞い』作戦とは、お前らが寝ている間から、すでに開始されていたのでアリマスよ」
「おほほほ。我々は怪盗。様々な逃走劇を考えていたのですワ。そんな折、おまえらが牢屋にやってきた時点で、最も成功率の高い戦略を開始させたのですワ」
「その名も『必死の命乞い』作戦だぴょん」
「小僧の馬鹿力であれば手錠ごとき、簡単に引き千切れるだろうと我々は考えたのでアリマス。必死の命乞いとは、変態人間に対してではなく、これまで幾度も命を奪おうとしてきた、お前達に対してする内容でアリマス。助けてください、と。石をお譲りしますから、と」
要するに、私たちがグロウジュエリーを保持している限り、小僧と小娘も老婆の家にやってくると考えられたので、石をダシに交渉して助けてもらっちゃおう、というのが今回の脱出作戦だった。
脱出における一つ目の壁が『生き残り続けること』。そして、2つ目の壁は『これまで命を狙っていた小僧と小娘に命乞いをして、助けてあげてもいいかな、という気にさせること』だった。
誤算は2、3日でやってくるだろうと思っていたが、大幅に遅れてやってきた点だ。
「『必死の命乞い』作戦の全貌、お分かりに、なりまして? おほほほ」
「そして、ウサギ族は嘘はつかないぴょん。だからこそ、今この場でお前らを殺すぴょん」
『必死の命乞い』作戦はまだ完結していない。続きがある。
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