第28話

 ……そして、乗り切った! 貧困の時期は終わりを告げたのだ。5号機ロボ、ほぼ完成! あとは潤滑油を流し入れるだけ……といった時に、姉と妹がバイトから戻ってきた。私は姉と妹に、ロボがほぼ完成していることを伝えた。そして、3姉妹で、ロボを感慨深く見つめた。


「や、やったぴょん……9千円と言っておきながら、2020年の東京オリンピック予算のごとく、予算がどんどんと膨れ上がり、結局はバイトで稼いだお金のほとんどをつぎ込んで……ようやくここまで仕上がったぴょんね」


「オリンピックは数千億単位で予算が膨れあがりましたので、それと比べたら微々たるものでした。しかしながら、ここ数ヶ月間の生活は、大変に厳しいものでしたワ」


「とはいえ本来なら残り900万円ほどを必要としていたところ、かなり工夫しながら仕上げたのでアリマス。4号機を製作した時のように、時の権力者の埋蔵金を掘り起こさなくても、バイトでなんとか乗り切ったのでアリマス。これはある意味、偉業でアリマスよ!」


「偉業ですワ! ばんざーーい」


「偉業、ばんざいだぴょーーん」


「振り返れば、あれをしたかった。これを組み込みたかったという希望はあります。しかし、4号機よりも、性能面では確実にレベルアップしているのでアリマス!」


「それは、どれくらいですか、ばにーお姉さま?」


「疑似必殺技を使わなくても、前回のオニをちょろ~~~く倒せるほどのレベルでアリマス」


 何せ、ウサギの豆を1000粒も注入したのだ。1000粒だなんて、狂った量である。


「素晴らしいですワ」


「ぴょんぴょん。だったらもはや敵なしだぴょん」


「まさに無敵っ! ビバ、バイトっ!」


「元々ほぼ9割がた完成させていたとはいえ、私たちのバイトで仕上げきった機体だと思うと、感慨深いものがありますワ」


 姉と妹は派遣会社に登録し、ティッシュ配りから引っ越し作業まで、多種に渡るバイトを日払いでこなした。朝から深夜まで掛け持ちで働いていたこともあった。苦しい日々だったに違いない。ロボを見つめながら涙ぐんでいた。


「今日は、久々の贅沢をするぴょん。完成パーティーだぴょーん」


「餅をたくさん食べるでアリマスよー。腹いっぱいになるまで食べるでアリマスよー」


 今日は餅をたくさん食べよう。今からワクワクしてきた。そんな時、妹が下唇を噛み締めた。手にはレーダーを持っている。


「お、お姉さま方……完成パーティーの話で盛り上がっているところ、申し訳ないのですが、5つ目のグロウジュエリーの反応が出ております」


「なんとっ!」


「今朝はまだ出ていなかったので、ここ数時間の間に育ち切ったのですワ」


「どうするでアリマスか? 完成パーティーをしてから向かうでアリマスか?」


「それはダメだぴょん。なぜなら、小僧と小娘はすでにグロウジュエリーを4つも獲得している状況なんだぴょん」


「……そうでアリマスね」


「グロウジュエリーは6つ揃えて奇跡を起こすものですワ。このままのペースでいけば、1つ目のグロウジュエリーが育ってからの1年以内に、6個目までは育ちそうです。しかし、私たちの分……つまり12個目まで育つのは難しそうですワ」


 つまり小僧と小娘が6個揃えた後、次は私たちの順番だとして新たに6個集めることは厳しいという状況である。『スパン』というものがあり、一気にたくさん育った後に、空白期間がある。次にいつ1つ目のグロウジュエリーが育つのか見当がつかない。数か月後、数年後……数百年後となる場合だってある。


「あいつらに先を越されて、なるものかだぴょーん」


「グロウジュエリーは元々我々の所有物でアリマス。なぜ、私たちより先に6個、集められなくてはならないのでアリマスか。不条理でアリマス。いてもたってもいられないのでアリマス」


「そうですワ。すぐに5つ目を回収しに行きましょう……っとととと。あわわわ」


 ガシャーンと音を立てながら、妹が転んだ。バケツに入れていた液体が、ドクドクドクと排水溝に流れていく。


 あっ……。


「な、なぜこんなところにバケツが……」


「潤滑油でアリマス……私がバケツに入れておいたのでアリマス」


「な、なぜだぴょん?」


「潤滑油を注ぐことで、最後の仕上げをしようとしていたところ、うさぴょんお姉さまとキャロットがバイトから戻ってきたので、バケツに入れたままにしていたのでアリマス」


「……潤滑油の代えは、あるぴょんか?」


「ないのでアリマス。しかも、この潤滑油はネットじゃないと購入できないのでアリマス」


「どうしてもネットじゃないと、駄目なのですか?」


「駄目でアリマス! 『業務用』なのでアリマス! なので一般のホームセンターなどでは売っていないのでアリマス」


「なら、すぐにネットで注文するぴょん。即日配達で! 距離が近ければ、販売店に直接、受け取りに行くぴょん」


「がってんでアリマス。すぐに注文するでアリマス」


 私はネットで潤滑油の注文を行おうとした。しかし、ここで問題が生じた。


「どの店舗でも品切れ状態でアリマス。入荷待ちでアリマス」


「え、ええええ?」


「うぴょーーん」


「唯一、販売している店舗はお休み中で、発送が翌々日以降になるでアリマス……」


 姉と妹は顔を曇らせた。


「そ、そんなに待てないぴょん。小僧と小娘に先を越されちゃうぴょーん!」


「す、すすす、済みません。私のせいですワ」


「ばにー、必要なのは潤滑させるための『油』だぴょんね?」


「まあ……そうでアリマスけど」


「だったら、ホームセンターに買いに行くぴょん。似たようなもので代用するぴょん。探せば、なにか売っているはずだぴょん」


「たしかに、素材的には似たようなものが販売されているのでアリマス。しかし、先程キャロットがこぼした潤滑油の成分データをベースにオメガラン5号機を仕上げたのでアリマス。なので不安が残るでアリマス。潤滑油はウサギの豆によるエネルギーでは代用できないものでアリマス」


「成せばなる、何事も! なんとかなるぴょーん」


「それでは、ホームセンターにレッツゴーですワ」


「あんたたち、潤滑油を舐めてるでアリマスっ! たかが潤滑油。されど潤滑油でアリマース!」


「ばにー、おいてくぴょんよー。ホームセンターの隣にある餅屋で、餅も食べるぴょん」


「さあさあ、行くのですワ」


「ちょっとちょっと……」


 姉と妹はアジトから出て行った。私は一匹、取り残される。


「……お、おいて行かないで欲しいのでアリマス」


 私は姉と妹を追いかけた。


 その後、ホームセンターでも一悶着あったが、私たちはその日のうちに、潤滑油の代用品をロボに注入した。そして、5つ目のグロウジュエリーを回収しに向かった。


 門前町にある川の底からロボを発進させ、お台場を横切り、日本海に出た。そして、ひたすら南下した。5つ目のグロウジュエリーの反応は南極から出ているのだ。


 長旅を終えて、私たちは南極大陸に上陸する。

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