第27話

 アジトに戻った私たちは、ほとんど抜け殻のような状態となっていた。砂漠をさ迷い歩き、なんとか町を見つけた。そして、偽造パスポートを使って、日本に戻ってきた。とにかく疲れた。


「寝る……ぴょん」


「私もでアリマス」


「あらら、お姉さま方、寝るのですか?」


「もう、精根尽きたぴょん」


「同じくでアリマス」


「では、寝ましょうか」


 久しぶりのアジトで、ぐっすりと眠った。三日三晩も寝ていた。おそらく自爆に巻き込まれた際のダメージが体に溜まっていたのだろう。


 五体満足であることが奇跡のようだ。


 たっぷり寝て、たっぷり餅を食べて精気を養った。


 そして、5号機ロボの『開発』に取り組んだ。


「うぐぐぐぐ。まさか、オメガラン5号機を1から造ることになるとは思わなかったぴょん」


「まさか、4号機が逝っちゃうとは想定外だったのでアリマス。地球上では無敵のはずだったのでアリマス」


「オニ族を全滅させた存在……今でいうところの全世界の人間たちを絶滅させるレベルの生命体と戦ったのですワ。私たちがチートウサギだとはいえど、これは仕方がありませんワ」


「今にして思えば、かなり反則的な戦いだったでアリマスねー。力と力による戦いではなく、用意したエネルギー量の多い方が勝利する、という戦いだったのでアリマス」


「ふん。エネルギー源となったウサギの豆を1粒作るのにどれだけ苦労していると思ってるぴょん。そんな貴重な素材であるウサギの豆を、パワーアップのために大量に前回のオメガランに注いでいたんだぴょん。今回の遠征で一気に激減したぴょん。これも全て、小僧たちと、あのオニのせいだぴょーん。一気に将来の不安が増したぴょん」


「グロウジュエリーの獲得にも失敗しましたし……」


 遺跡の電磁波がなくなったので、深い眠りから覚めるなり、レーダーで調べた。すると、砂漠から出ていた4つ目のグロウジュエリーの反応が消えていた。


 つまり、小僧と小娘があの古代遺跡から脱出し、グロウジュエリーをゲットしたと考えられる。


「うぐぐぐぐ。また、あの小僧と小娘がゲットしたんだぴょんね。レーダーから消えているぴょん。強敵だぴょん。……いや、私たちの敵は、そもそも彼らではないぴょん」


「敵は『運命』そのものでアリマス」


「私たちは運命に立ち向かうウサギ。バッドエンドになるという呪いにかかっていると分かっていても、ハッピーエンドを願い、ひたすら突き進むのです。決して諦めないのです。それこそが私たちっ!」


「くっそーでアリマス。全ては、あの小娘のせいでアリマス。いや、正しくは小娘の魂でアリマスね! 自分の利益のために、私たちに呪いをかけてやがって許せんでアリマス。さらには、輪廻を繰り返すごとに、私たちの邪魔ばかりしやがって。Wで許せんでアリマス」


「全くそうだぴょん!」


「今度見つけたら絶対にやっつけてやるのでアリマス!」


「肉体的には別人でも、精神的には同一人物……これすなわち、私たちには裁く権利があるということですワ。巻き込まれた小僧には、申し訳ない気持ちですけどね」


 ………………。


「そういえばキャロット、5つ目のグロウジュエリーの反応はまだ出てないぴょん?」


「はい。まだ出てはおりません」


「では今のうちにオメガラン5号機を造り上げるぴょん。なーに前回、江戸時代の頃に造ってから数千年も経っているんだぴょん。私たちも成長して技術力を磨いてきたぴょん。これまでのオメガランよりも、優れた機体を完成させるぴょんよ! それに、もしも反応が出るまでに完成させられなくても『アレ』を使えばいいぴょん」


「『アレ』……でアリマスね」


「なるほどー! といいつつも、『アレ』って何の事ですか?」


「てへへへ。実は私も、見当がつかないのでアリマス」


「ずこーー。私が何を言っているのか分からないのなら、2人とも最初から分かったような素振りはしちゃダメだぴょん。とにかく5号機の製作を開始だぴょーん。開発のメインはメカニックのばにー。私とキャロットは、ばにーのアシスタントに徹するぴょん」


「了解ですワ」


「ではでは、在庫の確認をするので、必要な材料をアキバに買いに行ってもらいたいのでアリマス。足りないものはネットで購入するでアリマスよ。少しばかりお待ちを~」


「おお。では……キャロット!」


「はい、うさぴょんお姉さま」


「……あと、地下アイドルに行くのは禁止でアリマス。時間も兎手も足りないのでアリマス!」


「うぴょーーーん」


「そんな~ですワ~」


 この日から、私たちは5号機ロボの開発に取り組んだ。


 その途中、問題が生じた。キャロットが顔を真っ青にしてやってきた。


「お、お姉さま方、まずいことが分かりましたワ」


「どうしたでアリマスか?」


「そうだぴょん。どうしたぴょん?」


「貯蓄額が……尽きそうです」


「「な、なんだって~~~~」」


 私と姉が作業の手を止め、目を見開いた。


「私たち、あまり贅沢をしないので、貯蓄額をしっかりと把握していなかったのですが、ふと銀行でお金を下ろす時に、いつもは適当に走り見している、残金の数字をみたのです」


「残金、走り見しちゃダメだぴょーん」


「すると、残り、8万円となっていたのですっ!」


「は……8万円?」


「今月の家賃を引いて、光熱費を引けば……実質、残り400円ですワ」


「ぎょぇえええええぇぇぇでアリマース」


「そんな馬鹿な。前々回、遠征から戻ってくるのが遅くて、アルバイトを無断欠勤したものだから、みんなクビになってしまったんだぴょんよ」


「テレアポ、お菓子工場の作業員、小学生の塾講師……私たちの誰もが、これまでやってきていたバイトをクビになったのですワ」


 妹はテレアポ。姉はお菓子工場の作業員。私は小学生の塾講師として勤務していた。しかし、陸を求めて海で泳いでいる時、無断欠勤が続いたという理由で、クビが決定された。その後、私たちは新しいバイト探しをしていない。グロウジュエリーの回収に専念し、1年以内での帰星を目指したからである。


「だ、大丈夫でアリマスよ……。私に策があるのでアリマス」


「何か用意があるのですか?」


「ここに、宝くじがあるのでアリマスっ! じゃーじゃじゃーん! なんと、キャリーオーバー発生中。当たれば2億円でアリマス」


 私はポケットから宝くじを取り出して、掲げた。


 一方、姉と妹は遠い目をする。


「無理だぴょーーーーん」


「宝くじは、当たらないのですワ。還元率というものがありまして、宝くじとは、やればやるだけ損をするものなのです。購入者にとっては圧倒的に不利な賭け事なのですワ。賭け事は対等じゃないと、賭け事じゃありませんワ!」


「うぐぐぐ……確かに、宝くじを、ずっと買い続けているのでアリマスが、200円しか当たったことがないでアリマス」


「宝くじの購入者は『もしかしたら人生が変わっちゃうかもしれない』という『夢』を買っているのですワ。つまり、買った時から結果が分かるまでの期間のワクワク感を、お金を出して楽しむという娯楽なのですワ」


 夢がないな、と思った。


 宝くじがもし当たれば、すごいのに……。


「それにしても、お金がないのはキツイぴょん。ばにー、オメガラン5号機の進捗状況はどれくらいだぴょん?」


「……87%といったところでアリマス。残り900万円もあれば、お釣りもでて完成するのでアリマス」


 前回全損した4号機ロボは、私たちがひもじい思いをしながら捻出した貨幣だけではなく、某将軍様の埋蔵金を掘り出して、ようやく完成させたものだった。ロボの組み立てには、とにかくお金が要る。


「よし、こうするぴょん! ばにー、今回はあと9万円で仕上げるぴょん!」


「え、ええええ~。無理でアリマスよー。900万円かかるところ、9万円で仕上げろだなんて~」


「それでも、なんとか作るんだぴょん。その代わり、ウサギの豆を前回より多めに注入するぴょん」


 姉はどこからともなく持ってきたウサギの豆を、未完成のロボにズザザザザーっと入れた。


「うわあああ。駄目でアリマスよー。まだ未完成なのに、エネルギーを注入しちゃダメでアリマース」


「ぴょんぴょん。1000年分を投入したぴょん。これは決意の現われ! もう後にはひけないぴょん。これだけあれば、ある程度の不便さは、目を瞑れるぴょんか?」


 1000年分とは1000年かけて私たちが収穫することができるウサギ豆の数のことだ。ウサギの豆は水の代わりに私たちの血液を与えることで育つ不思議な穀物である。1年に1粒しかできないので、1000年分は1000粒。3粒だけでも超常現象を起こせるので、1000粒というのは途方もない数である。


「1000年分とは……さすがは、うさぴょんお姉さまですワ……。鼻血が出そうですワ……」


「私たちの血液を注ぎ続けて育てたウサギの豆1000年分……もはやグロウジュエリーよりも高価値でアリマス。別次元で高価値でアリマス」


「私、なんだか頭がクラクラしてきました」


「キャロットもばにーも腹をくくるぴょん。RPGで遊ぶ時、希少なアイテムはラスボス戦まで取っておくのが、私たち流だぴょん。そして、今がRPGでいうところの、その佳境なんだぴょん! もう、決めてしまうぴょんよ! いつ決めるの? 今だぴょーん!」


「そ、そうですワ。もう今回で、決めてしまわないと……。でも……」


「1000粒だなんて、単純比較しても『奇跡』を起こせるそのパワーは、完全にグロウジュエリーを凌駕しているのでアリマス」


「高価値のウサギの豆×1000を使って、それより低価値のグロウジュエリーの回収作業を行うだなんて、皮肉な話ですワ」


「しかし、グロウジュエリーじゃないと、私たちにかかった『呪い』は解けないぴょん。これは仕方がないことだぴょん」


 ………………。


「そうでアリマスね」


「ですワ」


 司令塔の姉が、ここが正念場だと判断した。ならば本当の意味で、こちらも全力を出さなくてはならない状況なのだろう。出し惜しみはもうしない。


「とにかく、ばにー、9千円で仕上げられるぴょん?」


「た、単位がまたもや1ケタ変わっているでアリマス……。とはいえ、やらなくてはいけないのでアリマスね」


「そうですワ。だって無い袖は振れないのですもの」


「分かったでアリマス。低予算ながらも見事なロボに仕上げるのでアリマス」


 残り予算9千円で!

 秋葉原にジャンク品を買いに行くより、夢の島へガラクタ漁りに出かけた方がいいだろう。


「よし、役割分担をするぴょん。私とキャロットは、生活費を稼ぐために、これからバイト探しだぴょん。ばにーは引き続き、オメガランの製作を続けるぴょん」


「がってんでアリマース」


 そして私たちはそれぞれの仕事を頑張った。これは私たちにとっての試練の時だ。

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