第26話

 激しい戦いは半日ほど続いた。


 現在、空には月が出ている。


 星々は輝き、満天の夜空だ。


 私たちは……。


「ふ、ふわっぁぁぁぁぁ。眠くなってきたぴょーん」


「なっ! 熾烈な命の奪い合いをしているのに、なにをノンキなことを言ってるでアリマスか」


「だって、何もすることないんだぴょーん」


 ロボをオートモードにしているので、私たちは何もすることはない。ただただ、コックピットの中で、見守るだけである。


「うさぴょんお姉さま、こちらと敵のエネルギー量の鑑定が終わりましたワ。こちらは最初から少なかったので、ウサギの豆30粒分を追加したといえ、ぎりぎりにですが相手よりも早くエネルギー切れとなることが判明しました。つまり、このままでは私たちの負けとなりますワ」


「くっそー。貴重なウサギの豆を30粒も使ったのに! オニ族を滅亡させた強者とはいえ、生意気だぴょーん」


 姉はそう言いつつも、ポテチをボリボリ食べながら、漫画を読んでいる。


 ………………。


「とはいえ、十分に強いヤツですワ。ばにーお姉さまが、ドッペルゲンガー機と同じ機能を実現させる、というこの新技を開発していなければ、『究極必殺技』でも使用しないと勝ち目のない敵でしたワ」


 『究極必殺技』はウサギの豆を最低でも『800粒』も必要とする、私たちの持ち技で最高峰に位置する技である。ウサギの豆は1年に1粒程度できればいいので、少なくとも私たちの800年分の苦労を費やすことになる。現在、戦っているオニはそれだけ強いということだ。誤まった生成方法とはいえ、オニ族産のグロウジュエリーによって、力を得ただけはある。


「究極必殺技って、あの、めちゃくちゃウサギの豆を消費する必殺技だぴょんね? アレをこんな奴に使うのは、もったいないぴょん」


「ですワ」


 ………………。


「あの~。うさぴょんお姉さま、キャロット。私……疑問があるのでアリマス」


「なんだぴょん」


「どうしましたか?」


「どーーーーーーして、そんな悠長にしていられるのでアリマスかぁぁぁ。命のやり取りをしている最中なのに! さらに、こちらが不利な状態とは到底思えないユルさでアリマスよ」


 私がそう非難すると、2人は笑った。


「いいえ。だって、私たちの勝利は決まっていますもの」


「そうだぴょん」


「え?」


 どういうことだ? こちらが先にエネルギーが尽きるのに?

 ドッペルゲンガー機との勝負は、エネルギー量の勝負となる。そして今、エネルギーはこちらが最初に尽きると算出されたわけだけど……。


 あっ……!


「ほら、108に分裂したミニ私たち&ミニオメガランたちがいるではありませんか。今、近くで待機しているのですワ。現在の状況では、エネルギーはこちらが最初に無くなります。しかし、私たちは『補給』できるのです」


 そういえば、そうだった。


「……そういえば、呼んでいたでアリマスね」


「つまり、ばにー。これは死闘ではなく、ただの消化試合なんだぴょん」


 その後、こちらがオニをぶっ飛ばしたタイミングを見計らい、ミニロボたちが一気に本体に駆けてきて合流した。


 私たちの体は二頭身から、普段の体に戻った。そして、カラカラだったエネルギー残量も一気に増えた。勝利はこれで確実になった。しかし、私たちには誤算があった。


 『相手を真似る』という必殺技を開発したといえど、使用できるようになった技の全てを知ることはできない。


 格闘ゲームでいうところの、新キャラをいきなり使っても、固有技の出し方もどんな技があるのかすら、全く分からないといった状態と同じなのだ。


 それゆえ、オートモードでロボを操作せざる得ない。


 油断していた。オニに『自爆』という最終手段があったことを私たちは想像すらしていなかった。


 オニのエネルギーが徐々に底を尽いて、自己修復にも陰りが見え始めてきた頃だった。相手はボロボロの体で、自身と同じ姿をしているロボに、ガシっとしがみついてきた。


 これまでとは異なる攻撃パターンに、私たちの間で緊張が走る。


 そして、猛烈に嫌な予感がした。


 キャロットが叫ぶ。


「た、大変ですワ。相手のエネルギーが高まり続けておりますワ。異常なほどに! これは、自爆ですワ。相手は私たちを巻き添えに、自爆をする気ですワ!」


「さらにまずい状況でアリマス。オニの自爆攻撃に対抗するため、こちら側も自爆モードを作動させたようでアリマス。エネルギーが膨張していくのでアリマス」


「うぴょーーーーーん」


 オートモードゆえ、私たちの予期していない行動をとる場合もある。


 自爆される前に、いち早くこちら側から自爆することで、最初に相手を倒しちゃおう、といった考え方なのだろう。負けるよりも、自爆することで相手を倒すことを選ぶ。つまり、どちらも『殺られるくらいなら、命と引き換えにでも殺ってやる』という考え方をしている、ということか?

 しかし、そんなことをされたら、私たちは無事ではいられない。


「お、オートモード解除だぴょん!」


「オートモードを解除しましたが、自爆は一旦発動させてしまったら、止められない仕様となっているようですワ」


 げげげ……。


「だったら、修復モードに全力を注ぐぴょん。同時に擬態を一部解除して、そこからコックピットのみでも脱出させるぴょん。このままでは私たちまで自爆に巻き込まれて、お陀仏だぴょん。離脱するぴょーーん」


「分かりましたでアリマース」


 こちら側が自爆のキャンセルを試みたことが影響してか、しがみついているオニの方が、いち早く自爆した。修復モードを全力で行っていたため、瞬殺はされなかった。しかし、ボロボロになりながら、自爆の勢いで、空高く吹き飛ばされる。そして空中で、ドカーーーーーンと、こちらも自爆した。


 ………………。


 気が付いたら、砂漠の上で大の字になって寝ていた。


 まだ夜だ。砂漠の夜はとても寒い。


 周囲には4号機ロボの残骸と、姉と妹が寝転んでいた。コックピットの切り離しに、間に合ったようだ。


 戦いは結局、引き分けとなった。


 ヘビと毒ガエルの例えは、フラグだったとは……。


 まさにヘビが毒ガエルをのみ込んだがごとく、ダブルノックダウンしたわけである。私は姉の元に気力を振り絞って、ほふく前進した。


「だ、大丈夫でアリマスか?」


「……大丈夫じゃないぴょん」


「うさぴょんお姉さまは、大丈夫のようですね」


「だから大丈夫じゃないって言ったぴょーん」


 そういえるだけの元気があるのは大丈夫である証だ。続いて、よろよろと立ち上がると、妹の元に行って声をかけようとした……が、鼻ちょうちんを出して寝ていた。


 妹も大丈夫のようだ。


「さすがは私たち……体だけは丈夫でアリマスね」


「だから、大丈夫じゃないって言ってるぴょーん」


「丈夫な体に産んでくれた両親に、感謝でアリマス」


「大丈夫じゃなーーーーいぴょーーーーん。心配してほしいぴょーん。泣いちゃうぴょんよ。びぇええええん。びぇぇえええええん」


 砂漠に、姉の泣き声が響いた。4号ロボは修復不能なようだ。砂漠を歩いてアジトに戻ることを考えると、気が遠くなりそうだった。






  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る