第25話

 ――アイテム・クリエイト。

【オゾンDEガラス×999】

 風が通り抜けると、そこには無傷のオニが横たわっていた。


 キャロットが眉を寄せながら言った。


「ダメージ量……ほぼなし、ですワ」


「以前に亀の怪獣とやりあった時にも思ったのでアリマスが、古代種レベルには人間の兵器は効き目が薄いのでアリマス。外装が堅過ぎるのでアリマス」


 そもそも現在の私たちの戦闘力は、小僧と戦った場合95%は敗北するといった内情だ。万全とはいえない。


「しかし、あいつ横たわっているぴょん。倒したんじゃないぴょん?」


「あれは爆発によって、周囲の酸素濃度が著しく激減し、さらには二酸化炭素濃度が高まったので、一時的に仮死状態になっているだけですワ。相手の脳波から演算するに、まもなく起き上がりますワ」


 うーん。さすがにミサイルだけでは倒すまではいかなかったようだ。


 ――アイテム・クリエイト。

【水DEガラス×999】

「さすが、オニ族を滅ぼしただけあるでアリマスね」


「想像を絶する強度だぴょん。だが、対艦ミサイルとロケットランチャーはただの時間稼ぎに過ぎなかったぴょーん。いくぴょん。エコ必殺技をくらわしてやるんだぴょん」


「演算処理率76%到達。そしてたった今、84%に上昇」


「塵も積もれば山となる~。ウサギの豆を1粒しか消費しないからといって、甘くみるなでアリマース」


 ――アイテム・クリエイト。

【スペースデブリDEガラス×999】

「演算処理率87%、94%……100%に到達。OKですワ」


 ――必殺技、発動・準備完了。


 うさぎの豆の消費数……『1粒』。


 私はミサイルが発射されている間、ウサギ豆を摘まみ、陣を描き続けていた。そして、ポージングを決めつつ、私たちは叫ぶ……。


【【【くらえ、エコ必殺。光も集めれば武器となるっ! 太陽光砲ぉぉぉぉおおぉぉぉ!】】】


 雲一つない青空から、ひと筋の光が降り落ちた。それはレーザーとなって鬼を貫いた。


「食べたかったウサギ族じゃなくて、ウサギ族の放った必殺技を食った、その味はいかがだったぴょーん? お腹に穴が開くほどの美味しさだったぴょんねー」


「実際に、お腹に穴が開いてしまったのですけどね。おほほほ」


「オニ族を滅ぼしたそうでアリマスが、私たち純潔のウサギ族の必殺技には耐えられなかったようでアリマス」


 思っていたよりも簡単に決着がついた。


「今日の砂漠の天気が晴れで良かったぴょん。エコ必殺技は、雨の日や曇りの日には、使えない必殺技なんだぴょん」


「宇宙空間から地上まで、多数のレンズ群を召喚しまして、小川が連なり大河となるがごとく、光の濃度をあげ、撃ち抜くという技でしたワ。弱点は一発放つだけでも、数々のレンズの向きを調節しなければいけない点。そのために膨大な演算処理をしなくてはならない点、等々……これらの弱点たちは無視できるものではなく動きまわる敵には不向きな技でもあったのです」


 これは999×3個のレンズをウサギの豆を対価に、一時的にガラスを召喚し、その角度を変える、というだけの技だ。ゆえにエネルギー残量の乏しい現在でも使用できて、かつ攻撃力もあった。しかし、準備に時間がかかるので、使いどころの難しい技でもあった。


「こんな使い勝手の悪い必殺技でも見事に決めてしまう、うさぴょんお姉さまの『戦略』はさすがでアリマス。二酸化炭素濃度を高めて、仮死状態にするとは!」


「ビバ、うさぴょんお姉さまですワ。さすがは私たちの司令塔! 怪盗ウサギ団の誇りですワ」


「ぷっぷっぷ。もっと褒めておくれだぴょん」


 姉は胸を張って、褒めて欲しいアピールをしてきた。


 しかし……。


「それは嫌でアリマス」


「拒否しますワ」


「うぴょーーーん。どうしてだぴょーん」


「だってうさぴょんお姉さまは、頭に乗るタイプでアリマスから」


「そうですワ」


「またそれぴょんか! 今ぐらい、たくさん褒めてほしいぴょん……って、あれれ……」


「どうしたでアリマスか……って、動いてる!」


「オニが動きはじめましたワ」


 オニの腹には穴が開いている。なのに関わらず、エネルギーが膨張していき、姿も変えていった。2段階目の変身……すなわち、最終形態になろうとしている、のか?

 なるほど……。


 さすがに、オニ族を滅ぼしただけあり、簡単には勝たせてはもらえない。桁違いの戦闘力が現時点で測定され、私たちは焦った。完全に変身が終われば、蹂躙される。


「た、太陽光砲を撃つぴょん! さっきと同じ場所だから、計算なんていらないぴょんね?」


「いいえ、うさぴょんお姉さま。地球は自転しているのですワ。なので、しばしおまちを……」


「うわああ。なんかボコボコしながらさらにグロテスクになっていくでアリマース」


 グロテスクな度合が増した。そして、体を変化させながらも、立ち上ろうと腕を動かした。


 まずい!


「演算処理100%完了ですワ」


「撃つぴょーーーーん」


 ドヒューンと光のレーザーが、オニを貫き体に大穴を空けた。


 しかし、死なない。


「もう一発だぴょーん。いいや、一発と言わずに何発でも撃ちまくるぴょーん」


 再び光のレーザーがオニの体を貫いた。何発も何発も。


 オニは体を損壊させながらも、のっそりと立ち上がろうとする。しかし足の部位にレーザーが直撃し、再び倒れた。


 その後、少しずつほふく前進しながらレーザーの射程範囲から離れていった。更なるレーザーを放つには、再び演算処理をしなくてはいけない。時間が必要だ。


「うがががが、まずいぴょーん。私の戦略は1回目の変身時に倒すことだったぴょん。2回目の変身までは、させないつもりだったぴょん」


 オニが破損部位の修復を始めた。私たちはロボを操り、距離を確保するために、高速で後退した。


「どうやら、体内エネルギーを対価に受肉することで、損壊部を補てんしているようですワ」


 再生能力か。


 ふむふむ。


「これは面白い理論でアリマスねー。次回、必殺技の開発に、この理論を取り入れるでアリマス」


「ばにー、そんな悠長なことを言ってる場合じゃないぴょん。エネルギー残量はまだあるぴょん?」


「残念ながら、ほぼありませんワ。そして目の前の敵は、さすがに古代文明を滅ぼしただけありまして、デタラメな強さですワ。一方、理性はほぼ、なくなっておりまして、会話は不能ですワ。つまり……」


「つまり、なんでアリマス?」


「本能に従って動くだけの野獣となった状態ですワ。食欲と破壊衝動に支配されているのでしょう」


 つまりは、バーサーカーモード。


 ロボから飛ばしていた偵察用のチビロボたちからデータが送られてくる。キャロットはそれらのデータを処理する。


「分析しました。現在の攻撃力、防御力、俊敏さなど総合力を吟味して、シュミレーションした結果、我々の勝率は『0%』。一方の相手の勝率は『100%』と出ましたワ」


「まずーーーーいぴょーん。無理だぴょーーん」


 勝率は0%。


 必ず敗北する。


「逃げるでアリマスか?」


「すぐに逃げる準備は出来ておりますワ」


 今勝てなくても、出直せばいい。結果として勝てばいいのだ。


 直面している問題は、果たして逃げ切れるかどうか……である。しかし、姉は私の予期せぬ決定をした。


「いいや。なんとなくだけど、こいつは今この場で始末した方がいい気がするぴょん」


 えええええー?


「エネルギー不足でアリマス。無茶でアリマス!」


「純潔のウサギ族が、あんなオニ族ごときに後れをとってはいけないぴょん!」


「しかしながらワ。戦っても、確実に負けますワ」


「……実は私、日本が江戸時代だった頃、ヘソクリをロボに隠していたことを思い出したんだぴょん」


 姉はそう言って、コックピット内に飾ってある額縁を外した。その裏には……。


「こ、これはあああ」


 ウサギの豆だ!


「ウサギの豆……まだあったのですね?」


「ちょうど30粒あるぴょん」


「それならそうと言ってくだされば宜しかったのに。さっき小僧と正面からぶつかり合って戦っても、余裕で勝てましたワ」


「さっき、思い出したんだぴょん。それに、ウサギの豆は貴重だから、出来るだけ使いたくなかったぴょん。使わずして勝てるのなら、それに越したことはないぴょん」


「まさに、切り札だったというわけでアリマスね」


「しかしなぜに、ヘソクリとしてロボ内に隠していたのでしょうか……うぬぬ。謎ですワ」


「賢い妻は、夫がいつ会社をクビになってもいいように、そして悪いことをしている会社のトップは、いつ警察に御用になってもいいように、資産をあちこちに隠しているんだぴょん! 同じように、私も何が起きてもいいように、ヘソクリとしてあちこちに隠しているんだぴょん。ほら、突然アジトが火事になったら大変だぴょん」


「……なるほど」


 なぜか、ウサギの豆の数が合わなくなる時があった。あれは姉が持ち出していたのか。


「ばにー、前回、戦ったドッペルゲンガー機の必殺技化はできているぴょんか」


「確か、ばにーお姉さまはドッペルゲンガー機の理論を元に、新しい必殺技を開発するとか言ってましたワ」


「もちろんでアリマス! 戦闘面に力を入れたウサギ族は無敵でアリマスっ!」


「無双無敵な私たちの前に立ちはだかる敵など微塵もおりませんワ。まさにこれから行われる戦いは、ヘビとカエルの戦いのようなものです。カエルは私たちですけどね」


「だったらダメだぴょーん。カエルだった食べられちゃう側だぴょーん」


「カエルはカエルでも、毒カエルですワ」


「あのカラフルな体色をした、いかにもといった外見の猛毒ガエルですアリマスね」


「毒を食わせてやる、ぴょん!」


「分かったでアリマス。できたてほやほやの新技――疑似必殺技のお披露目でアリマス」


 私はウサギの豆を掴んで踊りながら陣を描いた。


 ――アナライズシステム・付与。


 今回のウサギの豆の使用数は30粒。あるだけ全部を消費する。


 ――原子変換システム・付与。


 前回戦った、『ドッペルゲンガー機』が、一度も見たことのない10000トンぱんちを放ってきたことに興味を覚え、ドッペルゲンガー機のデータを古代遺跡から入手していた。


 ――未来予知システム・付与。


 ドッペルゲンガー機は液体ロボットゆえに、相手の姿に難なく変形できたが、私はそれをウサギの豆で補って実現させる。


 ――分裂&消滅システム・付与。


 私たちはポージングを決めた。


 ――必殺技、発動・準備完了。


 うさぎの豆の消費数……『30粒』。


【【【真似ろ、疑似必殺。かがみよ、かがみよ、かがみさーん。世界で一番強いのはだ~れっっっ!】】】


 ボムっと煙をあげ、ロボは目の前にいるオニと同じ姿となった。


 オートモードを発動させるや、ロボとオニの殴り合いが開始された。この疑似必殺は初めて使ったが、タイマン勝負限定であれば、かなり使える技だ。強者と対峙した際は、こちらの能力の底上げができることがメリットである。


 デメリットは弱者と対峙した時には、こちらの能力も下がってしまうという点だ。そして私たち以上の強者は、この地球上にはいない。そういう意味では、今回の敵は特殊だった。


 殴り合うごとに、互いに互いの体を消滅させ、そして自己修復を行い続ける。


 そうしたことが繰り返し続いた。


 消滅しては復元、消滅しては復元……。


 一見して、決着しなさそうな戦いだが、それは違う。


 この勝負は特殊なルールに基づいており、いずれ決着はつくのだ。


 その決着のあり方は、前回のドッペルゲンガー機戦と同じものだ。


 つまり、互いのエネルギーの削り合いを行った末、最後まで立っていた方の勝ち、というものだ。

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