第24話

 見た目は老人だが、その威圧感から、ポテンシャルの高さが分かる。かなりの強敵だ。


「お、お待ちなさい! 一つ質問がありますワ」


『なんじゃい?』


「あなたの手記にあった『桃源郷の化け物』の対処法についてです。殺して強くなるのでしたら、ただ、殺さなければ、それだけで対処ができたのではありませんか?」


『ほっほっほ。そうもいかんのじゃよ。わしは、2度変身することができるのじゃが、1度でも変身すると理性が薄れ、凶暴化してしまうんじゃ。目の前の生ある存在たちを大量に殺さなくては気が済まなくなるのじゃ』


「なるほど。一方、変身しなくては、相手は倒せない程の戦闘力になっていた……ということでアリマスね」


『ご名答さんじゃ。それじゃあ、そろそろわしに喰われておくれ』


 再びロボに向かって歩みを進めてきた。


 姉は、ロボの腕を一本、前に出した。ポン、と白旗が立つ。


「ま、待つぴょん! 私たちはおまえの久々の話し相手だぴょんよ。そんな簡単に殺したら勿体無いぴょん。もうちょっと、お喋りするぴょん。そもそもおまえ、私たちにウソをついて騙していたぴょんね。その理由を話すんだぴょん!」


『はて、グロウジュエリーは確かにおぬしたちのものになったぞ』


 私は手元にある砕けた石ころを見つめた。


 たしかに私たちの手元にあるが……。


「こんな砕けた石ころなんてグロウジュエリーじゃないでアリマース。ふざけんじゃないでアリマス」


 先程、とても禍々しい光を放っていた。その光より、かなりヤバイものだと感じた。明らかにグロウジュエリーではなかった。


「お詫びの心が少しでも残っておりましたら、質問の機会を与えてほしいのですワ。あなたは前回生成されたオニ族産のグロウジュエリーに願い、たった今、私たちによって集められたグロウジュエリーの力で、現世で蘇ることに成功しましたワ。聞きたいのはこの先についてですワ。どうなさるおつもりなのですか?」


「そうだぴょん。どうするつもりぴょん」


「教えろでアリマース」


 手記に書かれてあったことが事実なら、目の前のオニ族の老人は、同種を喰らい尽くして、オニ族を絶滅させた張本人となる。この先、どうするつもりなのかが気になった。


『ほっほっほ。そりゃあ、前回と同じことをするつもりじゃ。欲望に従って生きるのみじゃ。オニ族は滅んだが、今は彼らと同じ立ち位置に人間という種族がおる。思念体だった頃、近くの街などに行って、ずっと思っておったのじゃ。ウマそうじゃなぁ~と』


「つまり、今度は人間たちを喰いまくるつもりだぴょんね? オニ族を絶滅させた時と同じように」


 その質問に、オニ族の老人はかぶりを振った。


『絶滅はさせん。今度は人間牧場でも作って、個体数を維持させるつもりじゃ。人間たちが牛や豚、鶏にしておることと同じじゃな。気が向いたら再びグロウジュエリーの生成装置でも作ろうかとも思っておるのぉ~』


 ………………。


「人間たちがどうなろうとも、ウサギ族の私たちは知ったことではありませんワ。しかし先程のグロウジュエリーのパチモンを、量産されるのはいい気分ではありませんワ」


「さっきのグロウジュエリーから放たれた禍々しい光を見ただけでも、私たちのオリジナルなグロウジュエリーより、かなり劣っていることは一目瞭然でアリマス。というか、あんな粗悪品じゃ、どちらにせよオツキサマには帰れなかったでアリマス」


 『おまけ』機能が多彩なグロウジュエリーは、良くも悪くも『奇跡』を起こせる。しかし、先程のオニ族産のグロウジュエリーから放たれた禍々しい光を見たところ『奇跡』は起こせても、それは結果として、不幸を周囲に撒き散らす類の奇跡となるだろう。それは、力を求めたオニ族の老人が『同族を喰いたくなる欲求が芽生えた』という点からも推測できる。


 これは間違った方法でグロウジュエリーが生成されたからだろう。本来、グロウジュエリーとは周囲から強制的に力を吸い取ることで、育たせるものではない。そうしてしまうと『負』のエネルギーも多大に蓄積するのだ。グロウジュエリーとは、エネルギーが余っている場所――つまり『余裕のあるところから無理ない範囲で、分けてもらいながら、慎ましく成長する鉱物』なのだ。


『話はもういいかい? そろそろ喰わせてくれるかい?』


 老人は涎でダラダラ垂れ流しながら、再び歩き出そうとした。


 ロボのハッチをこじあけて、私たちを喰う気満々といった顔である。


「いいぴょんよー。ぷっぷっぷ。いくぴょーん」


 ――必殺技、発動・準備完了。


 私たちは同時に叫んだ。


【くらえ必殺! ミミズのミミ吉!】


 オニ族の老人を囲むように、地中から大きなパイプが出現する。パイプは老人の肩の辺りまでを包み、地中へ引きずり込んだ。


『な、なんじゃああああ、こりゃあああ』


 オニ族の老人は、目を剥いた。


「ばーかばーかでアリマース」


「ぷっぷっぷ。お馬鹿さんだぴょん」


「逆に私たちは賢いでアリマース」


「ネタバラシをすると、会話をしている最中、こっそりと穴を掘っていたのですワ。私たちもオニ族とは異なる方法で、土の中でパイプを移動させるテクノロジーを持っているのですワ」


 会話による時間稼ぎ作戦が成功する。


 小僧と小娘同様、このオニ族の老人もアホのようだ。現在、オニ族の老人は首から上だけを地中から生やしている、といった格好だ。


「このテクノロジーは私が開発したでアリマスよー。静かに穴を掘れるのは、我ら怪盗ウサギ団のみ!」


『ふん。グロウジュエリーによって強大な力を得たわしが、このようなものから抜けだせないとでも思って……う、うぐぐぐぐ。うぐぐぐぐぐぐぐぐぐ。抜け出せん! な、なんじゃこの素材はぁぁあああぁぁぁ』


「この素材は、馬鹿力を持つ小僧でも壊せないような、超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超合金なんだぴょんよ。おまえなんかの力じゃ、一生無理だぴょーん」


「ざまーざまーでアリマス。うっしっし」


「おほほほ。このまま干からびて死になさい。凶器は光り輝く太陽ですワ。太陽熱による脱水症状で、お死になさい。オニ族なる同族を絶滅させた者の末路に相応しい死に方ですワ」


「私たちは殺生は好まないぴょん。しかし、完全なる『善』ではないぴょん。放っておくと、こちらにも火の粉がかかりそうなマズい奴なら、容赦なんてしないぴょん。降りかかる火の粉は、払わなくちゃならないんだぴょん」


「さすがはうさぴょんお姉さま! 非情になりきる心! すなわち、それを持つことも勇気……というわけですね」


「というか、これは単なる、害獣駆除でアリマース。てめーは私たちを食べようと宣言した時点で、駆除すべき害獣として認定されたでアリマス」


 いきなり私たちの勝ちが決まる。しかし、オニ族の老人は冷静な顔に戻り、余裕の微笑を浮かべた。一方の私たちはそれを見て、顔を険しくする。これは敗北を認めた者の顔ではない。


『ほっほっほ。わしは2度変身できると言ったじゃろう?』


 ………………。


「たしか手記(アプリ)にも同じようなことが書かれてあったでアリマス。最初のグロウジュエリー、いや、『グロウジュエリーもどき』に強大な力を欲して力を得た、と」


「その力は古代種、そしてドッペルゲンガー機などの内部ガーディアンと1対1で戦って勝つことのできるレベルでしたワ。そして2度目にグロウジュエリーもどきに、更なる力を願ったところ……」


「変身できるようになった、と書かれてあったぴょん!」


「うさぴょんお姉さま、キャロット。警戒レベルを上げるでアリマス」


 オニ族の老人の体から黒いオーラが溢れるように洩れてきた。そして、老人の身体は徐々に巨大化していく。


 すると……。


「オ……オニですワ。オニ族だけに、本当にオニでしたワ」


「ぱ、パイプがぶっ壊れたでアリマス。体の膨張でっ!」


「そして目の前に、怪物が現われたぴょん。まさに漫画で登場するようなキショイ鬼っだぴょーん。丸太ぁぁぁぁ~。丸太が必要だぴょーーーん」


「吸血鬼にはニンニクと十字架。悪霊には聖水。そして、オニには丸太っ! これが現代の化け物退治のスタンダードですものね」


「でも、こんな砂漠に丸太はないでアリマスよー」


 砂漠に丸太はない。


 なぜなら、そこは砂漠だから。


 こうして私たちと変身第一段階目の鬼との戦闘が始まる。鬼の身体のあちこちに目と口があり、顔には大きな口が一つだけがある。体長は30メートルほど。前回対峙した亀の怪獣と同じくらいの威圧感を放っている。顔面にある大口からは臭気が漏れ、涎が垂れていた。きっちりした歯並びが見えた。


「丸太の用意はありませんが、対艦ミサイルとロケットランチャーはありますワ」


「いけだぴょーーん。そして……」


 姉の口から戦略が告げられる。


 攻撃……開始。


 ロボは大量の対艦ミサイルとロケットランチャーを鬼を目掛けて連射した。爆風が、爆心地にいる鬼を包み込む。ありったけの対艦ミサイルとロケットランチャーを撃ち込み、やがて残弾は0となった。


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