第22話

「我ら怪盗ウサギ団は、これまでに狙った獲物は一度たりとも逃した事がなかったぴょん。どんなに警備が厳重な博物館であろうとも、必ず盗みを成功させてきた超優秀な怪盗団だぴょん」


「今回も、確かにグロウジュエリー6つ。頂いたでアリマス。我々の長かった怪盗生活も、これにて終焉でアリマスなー。というか、怪盗生活とは一体なんだったのか……と」


「ここまで来るの、本当に長かったですワ。辛い事も辛い事も辛い事も……はっ! 嬉しい思い出が、ないっ!」


『なに言ってるの? モモくん、様子がおかしいわ。グロウジュエリー、取り戻しちゃって』

『お、おう!』


 小娘の指示で、小僧が通路に向かって駆けた。そして、バッグとオニ族産のグロウジュエリーを取り返そうと手を伸ばす、が……。


『あ、あれ? あれれ? なんだこりゃ』

『どうしたの?』

『すける。触れねえー』

『まさかっ』


 小娘も通路に駆けてきて、手を伸ばした。


 すると……。


『ス、スクリーン?』


 通路の出口には、布が張ってあった。小娘は布を掴むとビリビリっと破き、奥にある映写機を発見する。映写機が布に光を当てることで、『ロボの映像』を投射していたのだ。傍らには、集音器とスピーカーも置いてあり、ここから私たちの声を出して、彼らと会話をしていた。


「気付かれましたワ。3Dメガネがなくても3Dに見える映写機で映した映像、どうでした? まんまと騙されて足止めされてましたワね」


 これらは私が数分間で組み立てた装置である。電気屋さんに行けば普通に販売されている。ウサギ族のメカニックの私にとってはローテクノロジーな装置でもある。


「実は、私たちはもう地上に出ているのでアリマス」


 私がそう伝えると、小娘の顔が赤くなっていった。映写機でロボの姿を映して会話して、ロボが目の前にいると思い込ませ、小僧と小娘の足止めをする。その間、私たちは古代遺跡から外に出ていたのだ。そして今、燦々と照りつける太陽の真下にいる。


『だ、騙したのねー! また、会話で時間稼ぎをしてっ!』


 今頃気付いても遅い。私たち怪盗ウサギ団の勝利は確定した。つまりそれは、遂に私たちがグロウジュエリーによってかけられた『アンラッキーの呪い』に打ち勝ったことも意味する。ついつい、笑みがこぼれてしまう。


「ご苦労様でしたでアリマース。うっしっし」


「ぷっぷっぷ。お前らは戦いの本質を理解しているのかぴょん? ドンパチやって最後に立っていた者が勝ち、だなんて、脳味噌が筋肉なヤローの考え方だぴょん」


「戦いの勝者とは常に、目的を達成した者の事を指すのでアリマス」


「私はバトルの神髄に辿りついたんだぴょん。ここでは逃げる事こそが、勝ちなんだぴょん」


「戦わずして勝つ。エコですワ。超エコですワ! さすがはうさぴょんお姉さまっ!」


『オメーら、ズリーぞ』


 小僧は私たちを非難してきた。しかし、逆にいえば非難することしか出来ない状況にいる。


「いくらでも言うといいんだぴょん。本来なら、正面からのぶつかり合いも想定していたぴょんが、准必殺技を使用したせいで、エネルギ―残量がほぼ空になっていたんだぴょん」


「そのため力と力で戦い合っても、負ける事が明白だったため、頭を使っただけの話でアリマス」


「ズリーと言われるのは、心外ですワ。現在できる事で最大限の結果を出すように努める事が、ズリー、と?」


『くっ……』


「お前ら、喜ぶといいぴょん。本来の予定ならば、このまま遺跡の出入口をぶっ壊して永遠にその遺跡内で孤立無援の状態にさせるつもりだったけど、恩赦を与えてやるぴょん。ばにー、教えてやるんだぴょん」


「分かりましたでアリマス」


 恩赦とは彼らに生き残るチャンスを与えることだ。


 私たちはオニではない。


 ウサギである。


「おまえたち、この遺跡のメインシステムに接触した我々は、この遺跡をもっと地中に潜らせる事が出来ると知ったのでアリマス。この遺跡には、どうやら土の中を移動できるという一風変わったテクノロジーが使われているようでアリマスからね」


「つまり遺跡の出入口をぶっ壊した上で、そのシステムをこちらから遠隔操作で起動させて、とことん地中に潜らせてやれば、おまえらを100%殺害できるのですワ。おまえらには遺跡を再浮上させるための技術も知識もないわけですからね」


「干乾びて白骨になっても、そこからは出られないんだぴょん。ずっとずっと助けを求めたとしても、お家に帰りたいと心の底から望んでも、どうする事もできなくなるんだぴょん」


「それが本当のレッツ復讐でアリマス」


 小僧と小娘は事情を把握して、顔を青ざめさせた。


「しかし心優しい我らは本日は機嫌がいいのですワ。待ち望んでいた願いが、夢がようやく叶うわけですから。なので、おまえらにチャンスという名の恩赦を与えてやる事にしたのですワ」


『どういう事だ? オメーら、何をする気だ』


「ぷっぷっぷ、だぴょん」


 古代遺跡の潜地装置を作動させると、ゴゴゴゴゴと地面が揺れた。一緒に、自爆装置も作動させた。ただし、実際に自爆を起こすのは3年後に設定する。小僧には悪いが、小娘にはどうしても私たちと同じ苦しみを体感してもらいたい。私たちが小娘を憎むのは、怨恨のある一族の末裔という理由だけではない。私たちは憎む敵なる人物アイツの魂が輪廻することで【疑似的に永遠の命を得ていること】を知っている。なぜなら、グロウジュエリ-に永遠の命を願ったのだから。小娘は小娘であるものの、その魂は永遠の命を願った《アイツ》そのものでもあるのだ。


 ゆえに、アイツの『祝福』はここで終わらせる。同時に私たちの『呪い』も終わらせる。


 一応、内部ガーディアンな思念体くんとの約束も、これで守ったことになるだろう。数万年も思念体として待っていたのだから、3年くらいは僅かな期間のはずだ。


「たった今、潜水艦の如く地中に潜るシステムを、起動させましたワ」


「ただし、すぐに潜るというわけではないようでアリマス。エネルギーを溜める必要があるようで、潜るまでの時間差があるのでアリマス」


「お前らが生き残るには、遺跡が潜り込んで脱出が出来なくなる前に、地上に抜け出す事ですワ。恩赦として遺跡の出口は特別に破壊しないでおいてあげますワ」


「ぷっぷっぷ。でも、どこに出口があるのか、分からないだろうぴょん。グッドラックだぴょん。バーイ」


 スピーカー、集音器、映写機に仕掛けたミニ爆弾を点火する。通信が途絶えた。


 そして……。


 私たちはロボの中で笑い転げた。


 遂に運命に勝利した! 初めての勝利だ。なぜなら手元にはオニ族産のものではあるが、6個のグロウジュエリーが確かに揃っているからだ。


「うっしっし、きゃっきゃっきゃっきゃ。うまくいったでアリマーーース」


「ぷっぷっぷ、ぴょぴょんぴょーん」


「おほほほほのほーー。これで帰れますワ」


 私たちはロボを操り、砂漠でスキップさせた。ランランラーンと。


「さーって。帰るぴょん」


「門前町のアジトに、でアリマスか?」


「もちろん違うぴょーん」


「おほほほ。私たちはもうアジトに戻る必要なんてありませんワ。なぜなら、このまま、オツキサマに戻れるわけですから」


「しかし、突然私たちが何も言わずにいなくなったら、大家さんが困ることになるのでアリマスよ」


 ………………。


 私たちは腕を組んで思案した。


「それも、そうだぴょんね。それに……思い出したけど、アジトには誰にも見られたくないものを、こっそりと隠してあるんだぴょん」


「う、ううう……実は私も、誰にも見られたくないものをこっそりと隠しているのですワ」


「わ、私もでアリマース」


 身辺整理は大事である。人であれ、ウサギであれ、自分の部屋には見られたくないものの一つや二つはあるものだ。


「では、こうするのはどうでアリマスか? 一旦、グロウジュエリーの力でオツキサマに戻るでアリマス。その時点で『星に還れない』という呪いは解けるはずでアリマス。念のために、母星で本物のグロウジュエリーを購入して、『呪いを解く』と願ってもいいでアリマスね。その後、門前町のアジトにグロウジュエリーの力で戻るのでアリマス! こちらでは貴重な扱いでアリマスが、母星でのグロウジュエリーは、なんのことはない、ただの家電品扱いでアリマスからねー」


 オツキサマでのグロウジュエリーの価値はそこまで高くはない。


 どの家庭でも一家に1台はある、移動のための道具で、日本でいえば『自動車』の位置づけだろう。一旦、母星に戻った後、再び門前町のアジトに来て身辺整理をすればいいだけだ。その後、母星に完全に引っ越しをする。


「いい案だぴょん。まだ餅の食いおさめもしていなかったぴょん」


「もしくは、貿易商のように、餅をオツキサマに輸出することもできるのでアリマスよ。私たちはもはや、地球とオツキサマの行き来が自由になったのでアリマス」


「地球とオツキサマの往復……ずっと還られなかったので、ものすごく難度の高いことのような印象をもちますが、ウサギ族の技術ではわけもなく、簡単なことなのですワ」


「餅の売人になって荒稼ぎをするぴょん。餅はきっと他のウサギ族にも気に入ってもらえるぴょん」


 私たちはオツキサマに戻った後の事業について話し合った。


「とりあえず、2頭身のままでは帰れないぴょん。108に分裂したミニ私たち&ミニオメガランたちを呼び戻すぴょん」


「もう集合の信号を出しておりますワ。おほほほ」


「ナイスでアリマス」


 『あははは』と笑い合う。私たちは幸せで一杯だ。分身体が本体に合流次第、すぐにもオツキサマに帰還する。3姉妹そろってニコニコ笑顔である。そんな中、妹だけが眉を寄せ始めた。


「……ん? キャロット、どうしたでアリマスか? そんな険しい顔をして」


「そうだぴょん。こんなめでたい時に、なんで眉間を寄せているんだぴょん」


「お、お姉さま方……実は先程ダウンロードした手記(アプリ)の続きを読んでいたのですが……」


「このタイミングで読んでいたのでアリマスかー」


「だって気になっていましたもの。そして……すごい事実が分かりましたワ」


「すごい事実とは、なんだぴょーん」


「それはですね……」


 私たちは研究者の手記の続きを読んだ。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る