第20話
地中にある古代遺跡中は真っ暗かと思っていたが、青色や黄色など、前回の古代遺跡と同じように、様々な色に光るコケが壁にびっしりと生えていた。暗さを感じさせない。『雨の降っていない曇りの日』といった明度だろうか。
「よーし、金メダルをとった記念に、日本国歌を流しますワ……と流しつつも、途中であからさまにプチっと切っちゃうのです!」
「ぴょんぴょん。ウケるぴょん。大昔、そんなこともあったぴょんねー」
「私たちは歴史の生き証人! かつて実際にあった事件をたくさん知っているのでアリマース。さーて、先程のガーディアンの思念体くんの自殺を手伝い、ご褒美のオニ族産のグロウジュエリーを頂くでアリマス」
「オニ族産グロウジュエリーは、どこにあるのでしょうか?」
この問題はすぐに解決した。姉がレーダーを私たちに見せながら言った。
「レーダーに、7個のグロウジュエリーの反応が新しく表示されたぴょんよ」
「本当でアリマスね。地上にいた時は感知できなかったのに!」
「おそらく、思念体くんが妨害電磁波を切るなどして、取り計らってくれてたんだぴょん。私たちが見つけやすいように!」
「なるほどー。さすがは遺跡の番人! ビバ、思念体くん。では有難く頂戴いたしますワ。……うん? あれれれ? グロウジュエリーの1つが移動していますワ。方向的に……近場にある他のグロウジュエリーに向かっている様子ですワ」
こ、これは……。
思い出した。
「小僧と小娘でアリマスね……。そういえば、彼らも古代遺跡に入ったのでアリマス。すっかり忘れていたのでアリマス」
「うぴょーん。そういえば、さっき、あいつらも流砂の中に入っていったぴょん」
「おそらく、彼らのレーダーでもオニ族産のグロウジュエリーの反応を感知できるようになったのですワ。そして、集めようとしているのですワ」
「うぬぬ。面倒臭いでアリマース」
参ったなー。私は姉に判断を仰いだ。
「うさぴょんお姉さま、どうするでアリマスか?」
「……戦うぴょん!」
姉は険しい顔をしてそう言った。私は頷く。しかし、キャロットは顔を青ざめさせて、かぶりを振った。
「お、お姉さま方、前回感知した小僧の戦闘力を参考にしまして、現戦力での戦闘シュミレーションをしたところ、95%の確率でこちらが敗北するという結果が出ておりますワ」
「分裂して、さっきの必殺技でエネルギーもカラカラになったでアリマスもんねー」
「うむむ。弱ったぴょん。状況はかなり悪いぴょんね」
勝率的に戦えば、ほぼ負ける、ということだ。
キャロットの勘はあてにならない。しかし、キャロットの演算処理によってはじきだされた、その確率の精度は高く、信頼できるものだ。
「……しかし私たちは怪盗! 狙った獲物は諦めないぴょん」
「そうでアリマス。それでこそ怪盗でアリマス!」
「ですワ。勝ち目がなくても勝つ! それこそがウサギ道っ!」
………………。
「とはいえ、勝率的には完全にこちらに分がないでアリマス。先程の巨大ミミズをぶった切るのに力を使い過ぎたでアリマス。もっと、低レベルの必殺技をぶつけた方が良かったでアリマス」
「ばにー、全ては結果論だぴょん。今回は直接小僧と戦闘しても、ほぼ勝ち目がないことが分かっているぴょん。そうなると、やることは一つだぴょん」
「……まさか、諦めるのでアリマスか?」
「ちがーーーう。頭を使うんだぴょん!」
「なーるほど、ロボの頭を使って、頭突きを食らわせるのですワねっ!」
「その通りだぴょん! ってちがーーーうっ!」
「ではどうするのでアリマスか?」
「力の差があり、正攻法で勝てる見込みがない場合、それでも勝てるように頭を使って考えるんだぴょん。まずはばにー、どういう方法があるか案を出してみるぴょん」
姉は私にふってきた。
私は腕組みをして考える。
「そうでアリマスね~。金を積み上げる、なんてどうでアリマスか?」
「却下だぴょん」
……即答で駄目出しされた。
「な、なぜでアリマスか?」
「私たちはここに大金を持ってきていないし、彼らがお金を欲しているかどうかすら分からないぴょん。そもそも私たちはどちらかといえば貧困層に属しているぴょーん」
「うぐぐぐ。こんなことなら、これまでに盗んできた宝石類をいちいち返却しなければよかったでアリマス。そしたら今回、お金を積み上げられたのでアリマス」
「いやいやいや、ばにー。返却しないと泥棒になるぴょん。泥棒は嘘つきの始まりだぴょんっ!」
「あれれ? うさぴょんお姉さま、順番が逆ではないのでしょうか? 『泥棒』と『嘘つき』が?」
「……どちらにせよ、私たちは怪盗! 怪盗と泥棒とは違うんぴょん。じゃあ、今度はキャロットの番だぴょん。頭を使って打開策を考えてみてほしいぴょん」
キャロットが先程の私と同じように、腕を組んで考え込んだ。そして……。
「それでは……土下座なんてどうでしょうか? 誠意を持って、土下座しながら、この遺跡にあるグロウジュエリーは、内部ガーディアンの自殺を手伝う約束をした私たちに所有権があるので、今回ばかりは諦めてください。そして私たちにグロウジュエリーをお返しください、と土に頭を擦りながらお願いするのですワ」
「却下だぴょん!」
「な、なぜですか……」
「そもそも土下座の文化があいつらになかったらどうするぴょん! 土下座している間に、チャーンス、とばかりに攻撃してくるかもしれないぴょん」
「なるほど……」
「とりあえず、怪盗ウサギ団の『頭脳』役の私が戦略を立てておくぴょん。その間に、内部ガーディアンとの約束を果たす目途をつけておくぴょん」
「がってん承知ですワ。メインルームに行きまして、自爆システムをいつでも発動できる状況にしますワ」
「以前のように、怪しい宝箱とかを開いて、勝手に自爆されないように注意するでアリマスよー」
「もちろんんですワ! ウサギ族は同じ間違いは二度としないのですワ!」
「そうでアリマス。行きの馬車で、馬のフンを踏んづけたとしても、帰りの馬車ではフンをフンづけないのでアリマス! フンだけに!」
「学習することが私たち最大の強みだぴょん! それじゃあ、メインルームに向かうぴょんよ。キャロット、位置は分かるぴょんか?」
先程、古代遺跡に入った時点より、偵察用のチビロボたちを放出しており、施設内のデータを収集させていた。
「もちろんですワ。マップの作成は済んでおります。メインルームと思われる重要機器が集まっている場所も見つけましたワ」
「でかしたぴょん。行くぴょーん」
私たちは、古代遺跡内を移動して、心臓部へと向かった。思念体くんの処置のおかげか、障害らしい障害はなく、すぐに目的地に到着した。キャロットはさっそくロボの端末を遺跡のマザーコンピューターの端末に接続させて、システムの乗っ取りを開始する。
「それにしても、面白いテクノロジーですわ。地上にいた時から分かっていましたが、この遺跡は土の中を移動できるのです。このテクノロジーの詳細なデータを入手できますが、ばにーお姉さま、欲しいですか?」
「私だって土の中をロボで移動できる理論を独自に構築できるでアリマス。ウサギ族のメカニックの私が、オニ族に教えを乞うなんて、ありえないでアリマス……といいつつも、こっそり教えてもらいたいのでアリマス」
「知りたいのなら、初めから素直にそう言えばいいぴょん」
「てへへへ。USBに保存しちゃうでアリマス」
私はリュックからマイUSBを取り出すと、ロボに取りつけて、データをダウンロードする。アジトに戻って、新しい必殺技を開発するのだ。現在、私たちが使用している必殺技の9割は、ウサギ族古来から伝わるものではなく、私が開発したものだ。私はメカニックであると同時に、必殺技のデザイナーでもある。
「あと、この遺跡の歴史についても分かりそうですワ。とある研究者の手記(アプリ版)を発見したのですワ」
「手記? 面白そうだぴょん。暇つぶしに読んでみるぴょん」
「暇つぶしとは? うさぴょんお姉さまは、オニ族産のグロウジュエリ-を入手する戦略を、考えられるのではなかったのでアリマスか?」
レーダーを見ると小僧と小娘は、オニ族産のグロウジュエリーの3つ目を集め終えたようである。
「戦略ならすでに考えたぴょん」
「さすが、うさぴょんお姉さまでアリマス」
「ずっとお喋りをしながらも、オニ族産のグロウジュエリー奪取の戦略を考え終えていたとは、驚きですワ」
「ぴょんぴょん、もっと褒めていいぴょんよー」
姉は胸を張った。私と妹から、存分に褒めちぎってもらいたいようだ。
しかし……!
「それは拒否するでアリマス」
「私も断固、拒否しますワ」
「え? え? え? どうしてだぴょん? 褒めてほしいぴょーん」
姉は腕をブンブンと振った。
「うさぴょんお姉さまは、褒めれば伸びますが、褒め過ぎたら頭に乗るタイプでもアリマス」
「褒めるのは程々がよいのですワ」
「うぴょーん。さすがは私の妹たちだぴょん。私の分析をしっかりとしているぴょん」
「うっしっしでアリマス」
「おほほほですワ」
「……とりあえず、戦略を説明するぴょん」
「聞かせてもらうでアリマス」
「お願いしますワ」
「この戦略は実行に移るまで、まだ時間が必要だから、残った時間はダウンロードした手記(アプリ版)でも読んで時間を潰しているぴょん」
「それがいいでアリマスね」
「賛成ですワ」
「では……これから行う戦略を説明するぴょん……」
かくかくしかじか……と、姉は、小僧と小娘からグロウジュエリーを奪還する戦略を説明した。
私たち怪盗ウサギ団では、各々の役割分担がしっかりとなされている。
姉は戦略構築&司令塔。
私はメカニック&ロボの操縦者(サポート)。
妹は分析・演算処理&ロボの操縦者(メイン)。
姉の言う通り、戦略を実行に移すまで、まだ時間があるようだ。なので、ロボにダウンロードした手記(アプリ)を読むことにした。
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