第19話

 まず、ロボの内部に通信が入ってきた。


『テステス。繋がってる? 電波、繋がってる?』


「繋がってますワ。……って、その声は小娘。一体どこから……って、いました……」


 ロボの視点を変えたところ、遠方にバイクに乗った小娘の姿を確認できた。小娘の後ろには小僧も乗っている。そして、その更に後ろには古代種がいたっ! 外見は巨大なミミズだ。一旦土から地上へと飛び出すと、彼らが運転しているバイク目掛けて、ギザギザな歯が無数についている大口を開けながら落下していた。推定、全長100メートルはありそうな巨大ミミズの怪獣が、小僧と小娘を食べようと襲っているようだ。


 姉は目を剥いて叫んだ。


「うわああああ。なんだぴょん! おまえら、何を引き連れてきてるんだぴょん。こっちに来るなーぴょん」


『おねがいいい。助けてえええええー』


「なぜ、わざわざ我々のところに向かってくるのでアリマスかー」


「まずいですワ。あのデッカイ系のモンスター、こないだの亀と同じ系統のモンスターですわ。中々強いのヤツなのですワ」


 次第に、ドスーンと、怪獣が土の中に潜る時の衝撃が、こちらにも伝わるようになってきた。


 スピーカーからは小僧の声も流れてくる。


『このミミズ、いきなり現われたんだよ』


 いきなり現われた?

 ということは……。


「もしかして、我々がここの古代遺跡を解放しようとしていたからでアリマスかね。たしか古代生物は古代遺跡の発掘と共に姿を現わす、というのが定例だと聞いているでアリマス」


『とにかく、どうにかしてー』


「うさぴょんお姉さま、前回の亀には敗北しましたが、今回はかなり戦闘形態に特化させておりますワ」


 分裂したので力は半減しているが、アジトでパワーアップした分、戦闘力だけならこの状態でも、ドッペルゲンガー機に不覚を取った前回を遥かに凌いでいる。


「不本意ではあるが、仕方がないぴょん。ふりかかる火の粉は払わなくてはならないぴょん。あれを使うぴょん」


「あ、あれでアリマスか。ついにあの技を使うのでアリマスね。……っで、あれって、どの技でアリマスか?」


「准必殺技だぴょん」


「あの技でアリマスね。用意してきた貴重なエネルギーの大部分を、まさか、こんなところで使う事になるなんて、口惜しいでアリマス」


「準備、開始ですワ」


 こちらからは、まだまだ距離が離れているが、これから使用する必殺技は範囲が広い。そして、一撃必殺の技でもある。


 私たちはウサギの豆をそれぞれ掴むと、踊りながら陣を描いた。


 そして、ポージングを決めていく。


 その都度、ウサギの豆がピカピカと輝いた。


「戦闘形態に特化した、我らウサギ族に敵はなし、ですワ」


 ロボの八本の腕を上空にかざした。


 視覚不能の糸のようなものが、無数に空へと伸びていく。


 ――パワーダウン。

【攻撃力・防御力×(マイナス100)】

「まさか、万が一にも小僧らと遭遇した場合に使うだろうと用意した貴重なエネルギーを、小僧と小娘を助ける為に使うとは、不条理でアリマス」


 上空にエネルギーの塊が降臨する。


 塊はロボの6メートルほど離れた上空で、停止した。


 ――パワーダウン。

【攻撃力・防御力×(マイナス100)×100】

「いいぴょん。いいぴょん。あいつらは、すぐには殺さないぴょん。もっともっと苦しませて精神崩壊させてから死なせるのが、お似合いな死に方だぴょん」


『お、オメーらっ!』


 オーラの柱が、ロボとエネルギーの塊を繋ぐように発生する。


 ロボから膨大量のオーラが、エネルギーの塊へと、注がれていく。


 そして……。


 上空で停止しているエネルギーの塊から、光が波形状となって周囲に放たれた。


 ――パワーダウン。

【攻撃力・防御力×(マイナス100)×100×100】

「ふん。今回は特別に助けてやるのですワ。感謝してもらいたいですワ」


「だから、これからエネルギーを一気に放つので、しばらく、ほとんど動けなくなるのでアリマスが、そこをチャンスにばかりに、我々を攻撃してくるなでアリマスよ?」


「こら、ばにー! 我々の弱点を教えるんじゃないぴょん」


「も、申し訳ないでアリマース。口を滑らせたでアリマスっ」


 拡散した光が再び塊に向かって収束した。


 ――パワーダウン。

【攻撃力・防御力×(マイナス100)×100×100×100)】

「お姉さま方! 演算処理完了ですワ」


「いくぴょん」


「了解でアリマス」


 ロボは力を使い切ったかように、その場でガシャンと倒れた。


 一方、真上のエネルギーの塊は、より一層輝く。


 光の密度が高まり、キィィィィンキィィィィィンと音を立てる。


 ――必殺技、発動・準備完了。


 ウサギの豆の消費数……『4粒』。


【【【くらえ准必殺、猛虎猛龍危険域でも垂直水平バランスが大事なんですピザ生地斬っ!!!】】】


 私たちがそう叫んだ直後、エネルギーの塊が東西南北に平たく伸びた。


 まさに、ピザ職人が、宙に浮かしたピザ生地を回転させながら伸ばす如くに……。


 エネルギーの塊がピザ生地のように伸びていく!

 光速で。


 拡散したエネルギーは、怪獣に直撃した。


 怪獣の体に切れ込みが走る。


 そして――怪獣は真っ二つに分断され、その場に倒れた。


「ぷっぷっぷ。思い出したぴょん。亀もミミズも、あれは生物兵器だぴょんね。何万年も前の事だったから、すっかり忘れていたぴょん。ふんっ。オニ族ごときが作った兵器が純血のウサギ族に叶うわけがないんだぴょん」


「そーいやぁ、いたでアリマスね。うっしっし。大昔に、我らの星にケンカを売ろうとしていたバカな種族が、この地球にいたでアリマス」


 子供の頃の記憶が蘇える。


 あまりにも昔のことで、ほぼ忘れていたが、私たちはオニ族を知っていた。まだオツキサマにいた頃、星にケンカを仕掛けてくる宇宙人がいるとニュースで報じられていた。特殊な生物兵器を送り込もうとしていたそうである。しかしながら、多くの星民たちはその宇宙人を格下に思っていて、小さな事件扱いだった。地球上の生物で例えるなら、アリがゾウに挑もうとしている、的な感覚だ。


 私も特に気にも留めておらず忘れていたが、あれはオニ族のことだったのだ。


 ふむふむ。なるほど。


「おほほほ。オニ族のあやつら、謎の絶滅をしたみたいですけどね。って……うん? ば、ばにーお姉さま。うさぴょんお姉さま。ターゲットは……まだ生きていますワ」


「な、なんだってえええええええええええー! そんな馬鹿なぴょん」


 カメラをズームアップしてみた。


 真っ二つにしたはずの怪獣の、その両方の身体が立ち上がった。そして、どちらも独立した意志を持つかのように活動を再開した。


 ………………。


『うわああ。2体になったぞ』

『きっと、ミミズに似てるからよ。ミミズって、2つにちょん切っても、死なないのよ』


 2体になった怪獣は、再び小僧と小娘を襲い始めた。


 彼らはバイクでこちらに向かってくる。


 ゲゲゲゲゲーーーっ!

 ドスンドスーンと、怪獣たちが地中に潜る際の振動が、よりダイレクトに伝わってきた。接近しているのだ。一撃必殺の技を出すために、エネルギーを使い果たした今、怪獣戦はきびしい。


 どうして小僧と小娘は、私たちを巻き込もうとしているのだろう。


 あっ……前回の仕返しか?


「こ、こらあああ。だから、こっちに来るんじゃないぴょん」


『アンタたち、奥の手とか、どーせ、そういうのまだ持っているんでしょ? 出し惜しみせずに全部、出しなさいよ。助けなさいよ』


 スピーカーから小娘の悲痛な声が流れてくる。


 どうやら小娘は、私たちに怪獣を押し付けるつもりのようだ。


 エネルギーが残っていれば、対抗手段はある。しかし現状ではない。


「そんなのないのでアリマース!」


『あんなすごい技を見せられて、信じられないわ。勿体ぶらないで、出しなさーーい』


「来るんじゃないのですワ。こっちに向かってくるんじゃないのですワ。ああああっ。これはあああ」


 キャロット何かに気付いたようだ。


「どうしたぴょん?」


「さらに、非常にまずい状況になっていますワ。封印が解除され、遺跡のゲートがまもなく開く……という信号を捉えたのですワ」


 それはタイミングが悪い……。いやいや、逆だ。タイミングがいい!


「だったら、全然まずくないのでアリマス。ゲートが開くのなら、遺跡内に逃げ込むのが吉でアリマス」


「そうだぴょん。遺跡の入り口はどこだぴょん」


 ゲートが開けば、どこかで入り口が現われるはずだ。私たちが古代遺跡への入り口を探っていたところ、小僧たちを襲っていたサンドワームの動きが止まった。同時に、地表のあちこちに、幾何学模様が出現する。それらは流砂を起こして、小娘と小僧をバイクごとのみ込んでいった。


 ………………。


「なるほど、この流砂が入り口なわけなのですね。私たちも入りますワ」


「よーし、進むぴょん」


「……行くでアリマス」


 私たちも流砂に飛び込んだ。ずずずとロボが埋もれていく。しばらくして、遺跡内部に入った……が、これは古代遺跡への正しい入り方でなかったようだ。遺跡の天井部から落下していく。その高さは100メートルはあった。


「うわああああ。落ちるでアリマース」


「バランスをとるんだぴょん」


「了解ですワ」


 ロボはクルクルと回転しながら落下し、6本の腕で着地。2本の腕をあげた。


「10点、10点、10点、10点、10点~。体操世界選手権、金メダルでアリマース」


「おおお、やったぴょーん」


「金メダルを獲得ですワ」


 私たちはロボの中で『イエーイ』とハイタッチを交わし合う。不測の事態ではあったが、なんとか遺跡内部に入れたようだ。




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