第18話

 それから2時間ぐらいが経過した頃だろう。妹が接近してくる謎のエネルギー反応をキャッチした。


「何かが近づいてきますワ」


「ど、どこからでアリマスか?」


「地下からですワ」


「なんなのかは知らないけど、臨戦態勢だぴょん!」


 私たちはロボを止め、身構えた。正体不明のエネルギー反応の正体が分からない。


 しばらくすると、光が砂の下から現われて、人の形をとった。そして幼い子供の声で話しかけてきた。翻訳モードを発動する。


『お願いがあります』


「その前に聞きたいことがあるぴょん。お、おまえ……幽霊ぴょんか?」


 男の子と思われる発光体は、かぶりを振った。


『違います。私は幽霊などではありません。現在、この世界で生きている者たちが古代遺跡と呼んでいる、その内部ガーディアンの思念体が私です』


「思念体でアリマスか? 内部ガーディアンとは、あの『ドッペルゲンガー機』と同じ存在でアリマスか?」


『あなたはドッペルゲンガー機を御存知なのですか?』


「襲ってきたので戦ったことがあるのでアリマス。お前も私たちを襲ってくるでアリマスか?」


『私は襲ったりなんてしません! 私はお願いごとがあって、ここに現われたのです。実はこの真下に大きな遺跡があるのです。もう滅びており、誰も住んではおりません』


「やはり古代遺跡があったのですワ。電磁波が発生していた理由がはっきりして、すっきりしましたワ」


「それで、その遺跡の内部ガーディアンが、私たちに何の用事だぴょん」


『お願いです。どうか遺跡を……破壊してはもらえないでしょうか』


「うぴょん?」


「どいうことでアリマスか?」


「話を聞かせてもらいたいのですワ」


 私たちは思念体と名乗る、光の男の子に理由を求めた。


 思念体くんは、事情を話し始めた。


『私は何万年も前からずっと、誰も住んでおらず、護るべき存在のいない滅びた遺跡を守護してきました。無意味なことをしているのは、わかっておりますが、そのようにプログラミングされているのです。正直もう、疲れました。しかしながら守護者であるゆえに、独力で自滅することができません。私は苦しい。だから、終わりにしたいのです。先程、地上におります、あなたがたのエネルギーを感知して、光明をみました。あなた方ならば遺跡のゲートを開けられる。そして遺跡の自爆装置を発動して頂ける、と。私もろともどうか、遺跡ごと破壊してください。もちろん、見返りはさせてもらいます』


「どうするぴょん?」


 姉が私と妹に聞いてきた。


「たしかに遺跡を自滅させたら、電磁波も消えるでしょう。レーダーの精度が元通りになるので、グロウジュエリーの回収が一瞬で済みますワ。ゆえに現時点で、遺跡を自滅させることが、グロウジュエリーを回収するために行える、もっとも効率の良いやり方かもしれません。ただし、もしも遺跡内部でグロウジュエリーが生成されていた場合、遺跡の自爆にグロウジュエリーを巻き込むことにもなりますワ」


 なるほど。グロウジュエリーが地下にあるという遺跡内で生成している可能性もあるのか。


「思念体くんに、遺跡内部でグロウジュエリーが育っているかどうかを、聞いてみるでアリマス」


 私がそう進言するや、姉が思念体くんに話しかけた。


「ぴょんぴょん。聞きたいぴょん。私たちはグロウジュエリーというものを探しているんだぴょん。グロウジュエリーは知ってるぴょんか?」


『はい。存じています。何万年も前にウサギ族が開発したオマケ機能付きの瞬間移動用エンジンであり、現在この世界では『グロウジュエリー』と呼ばれている鉱物のこと……ですよね?』


「ウサギ族を知っているぴょんか?」


『もちろんです。オニ族である、かつて遺跡の住民たちは、ウサギ族の作ったグロウジュエリーを再現しようと日夜、研究を行っていたのです!』


「な、なんと!」


 驚いた。


 おそらく、私たちが親族と共に地質調査といって地球に観光に訪れるよりも昔に、地球を訪れたウサギ族がいたのだ。そして当時、地球の生態系のトップにいたオニ族に、グロウジュエリーの存在を伝えたのかもしれない。


『研究の途中で事故が起きました。グロウジュエリーは生成する時、周囲から大量のエネルギーを吸収します。オニ族が人工的に作りあげようとしていたグロウジュエリーは、住民たちの生命エネルギーすらも吸収しました。グロウジュエリーは遺跡の住人たちを全滅させ、この地のエネルギーも吸い続けて、砂漠としてきました。そして、ようやく完成しました』


 ………………。


「一応……理屈は通ってますワ」


 私たちの母星では、グロウジュエリーにエネルギーを充電させる技術が開発されている。一方、地球でグロウジュエリーを生成させる場合、一ヶ所で複数のグロウジュエリーを生成させてはいけないという決まりがあり、そうならないように『設定』してある。同じ場所で生成させた場合、その土地のエネルギーを全て吸い尽くして、枯渇させてしまう恐れがあるからだ。


「しかしオニ族が、グロウジュエリーを完成させていたというのは初耳でアリマス。それほどのテクノロジーは持っていないと思っていたのでアリマス」


『あなた方のおっしゃる通りです。しかし何万年と、地上を砂漠にし続けながらもエネルギーを蓄え続けた結果、無人の遺跡内で完成に至ったのです。正確には1年以内に消費しなければいけないという制限などはありませんので、グロウジュエリーによく似た何か、と言ったほういいのかもしれませんが、力は本物でしょう。私の守護対象だったオニ族が、自分達を犠牲にしてまで作り上げたそのグロウジュエリーによく似た何かをお譲りします。なので、どうか『遺跡の自爆』を……『私の自殺』に協力してはくれませんか?』


「……お姉さま方、どうしますか?」


 既にグロウジュエリーが生成されていたのなら、骨董品店で見つけたレーダーを修理した時点で反応を検知していただろう。そういう意味ではグロウジュエリーとはいえず、グロウジュエリーもどきと言った方が正しいのかもしれない。しかし、地上を砂漠にするほどに、エネルギーを蓄え続けた物質であるのならば、それが保有している力はグロウジュエリーと大差がないと考えてもいいかもしれない。オニ族がグロウジュエリーを目指して作ったその代物……実物を見てみないと何とも言えないが、星に帰還できる可能性が一つ増えたことには、違いない。


 ………………。


「私は協力しても良いと思うのでアリマス」


「私もオッケーだぴょん! 思念体くんの自殺に協力してあげるぴょん! 安楽死問題。人間たちの中には『それでも生きろ』と言う者がいるけど、私たちは違うぴょんよ。私たちは、思念体くんのその苦しみが理解できるぴょん。だから損得抜きでも、解放してあげるぴょん」


『ありがとうございます。私はとても嬉しいです。それでは遺跡の入り方について、お教えしましょう』


「不要だぴょん。この地下にあるんだぴょんね? だったら、こっちで勝手に入り口を開かせて、入らせてもらうぴょん」


『……分かるのですか?』


「私たちはウサギ族でアリマスよ。そんなのちょちょいのちょいと解析するでアリマス」


『お、おおおお……』


「オニ族が作ったテクノロジーなど、すぐに解析することができますワ。……そう喋っている間にも、解析が完了しましたワ」


「さすがはキャロット! 仕事が早いでアリマス」


『す、すごいです! 本当にすごいです! ではお願いします。確認ですが、お礼として差し上げます《遺跡内にある6つのグロウジュエリーを回収》しました後、《自爆装置を発動する》ことをお願いします。あと、自爆に巻き込まれないように地上に戻る方法ですが……」


「それについても大丈夫だぴょん。こっちで何とかするぴょん」


『……さすがです! ではお願いします』


 思念体くんはそう言い残して、ズズズっと砂の中に沈んでいった。


 ………………。


「それじゃあ、仕事に取り掛かるぴょん」


「今、遺跡へのゲートを開けておりますので、少しお待ちください。どうやら、一風変わったテクノロジーを採用している遺跡のようですワ。この遺跡、土の中を移動できるみたいなのですワ」


「面白いでアリマスね。我らも、静かに土を掘るというテクノロジーを持っているのでアリマスが、オニ族の方は、どんなテクノロジーを開発したのか、後で分析させてもらうでアリマス」


「とにかく、早く中に入るぴょーん。ワクワクウキウキ、ぴょんぴょんぴょーん。冒険は楽しいぴょん」


 私たちはゲート開けの作業を続けた。


 そして、まもなく作業が終わりかけようとしていた時、再び小僧と小娘と鉢合わせた。

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